第八十一話 死ぬより恐ろしい目に遭うぞ
「オレの事は小六と呼んでくれ」
気軽にそう言う小六に、柔和男が渋い顔を向ける。
「御館様、それはいくら何でも……」
「細かい事を気にするなヒデミツ。それに、お前だって分かってるだろ、この2人の強さを。鑑定なんかしなくてもな」
「は」
頭を下げるヒデミツに小六が笑う。
「この2人がその気になったら、この城なんざ簡単に落とされちまう。なら最初から対等な客人として付き合った方がいい。つまらん見栄なんぞ、ゼンブ捨ててしまってな」
そして小六は、俺とモカに笑顔を向けると。
「お2人さんよ。名前を教えてくれないかい?」
そう聞いてきた。
あ、そういや自己紹介がまだだった。
「俺はロック。この子はモカ。さっきも言ったけど、本当の仲間になる事があったらステータスは鑑定させるから」
と含みを残す俺に、小六が楽しそうな笑い声をあげる。
「くはははは、嘘は言わないが全てを使えるワケでもない、か。良いぞ、凄まじく強い癖に用心深いとはな。マジで本当の仲間になって欲しいモンだ。お前等なら安心して背中を預けられそうだ」
今のトコ、俺にそんな気はないけど、それは言わないお約束だ。
それに、なんとなくだけど小六という人物が気に入った。
ちょっとくらいなら手助けしてもイイかも。
あ、この際だから戦国エリアについて説明しておこう。
戦国シミュレーションを楽しめる場として戦国エリアをプログラムした。
NPCである住民の職業は農民武士である者が多い。
この農民武士を使って土地の豊かにし、軍備を整える。
そしてライバルと戦って領地を広げていき、統一を目指す。
といった楽しみ方をするのが戦国エリアの王道だ。
しかしNPCといえども、虐げていると一機を起こされてしまう。
だから民を大切にしないと戦が続けられない。
それでも戦争犯罪人は幾らでも出現する。
単に軍の枠に収まらないだけの豪快な者もいる。
しかしサイコパスとして軍から追い出される者もいる。
性格が粗暴すぎて溶け込めない者もいる。
人との付き合いが極端にヘタな者も。
そういったはぐれ者達が好き勝手に暴れない為の受け皿。
それが、この巨岩の城だ。
統治する人物の名は蜂須賀小六。
俺がそう、プログラムした。
そしてその名は代々受け継がれ、現在は13代目らしい。
その13代目蜂須賀小六を前にして、モカが俺に尋ねる。
「なあロックにぃ。つまりこの小六ちゅうオッチャンは悪いヤツやない、ちゅうコトでエエんかな?」
これを聞くなりミツヒデが。
「おっちゃんとは無礼な!」
大声を上げるが、それを。
「いいから」
小六が手で制する。
「さっき言っただろ。対等の付き合いだ、これでいい。というより、オレの方から対等だと言い出したんだ、ヘタに騒いでオレの顔を潰すんじゃねェ」
「は! 出過ぎた真似でした」
とミツヒデが頭を下げたトコで、小六が俺に目を向ける。
「ところで、昼メシには遅すぎるし、夕メシには早すぎる。なのでお茶に招待したいんだが、どうだ? 美味い菓子を用意しているぞ」
これに俺が答える前に。
「有り難く、いただくで!」
モカが大声を上げた。
「甘いモンは大好きや!」
元気いっぱいのモカに小六が目を細める。
「そうかい嬢ちゃん。じゃあさっそくお茶にしよう。ウチの菓子は特別性だから凄く美味いぞ」
「そら楽しみや!」
こうして案内されたのは、広さ20畳ほどの豪華な部屋。
和風の城の中なのに長方形のテーブルを16の椅子が囲んでいる。
「ま、座ってくれ」
小六の勧めで俺とモカが並んで椅子に座ると。
「どうぞ」
抹茶が入った茶器と、パイ饅頭が乗った皿が運ばれてきた。
この世界がリアルになって240年以上。
色々な食べ物が作られてるんだな。
「餡もパイ皮も特別性だ。味わってくれや」
「いただきます!」
さっそくモカがパイ饅頭を頬張る。
「ホンマや! めっちゃ美味しい!」
「嬢ちゃん、お代わりもあるぞ」
小六にそう言われるなり。
「おかわり!」
モカは空になった皿を差し出した。
そして新しい皿を受け取ると、また嬉しそうに食べだす。
よし、俺も食べてみるか……美味い。
凄く上質の餡を、最高のパイ皮が包んでいる。
今まで食べた、どんなパイ饅頭より上の味わいだ。
そして抹茶を1口。
苦すぎず、でも薄すぎず、香りが良い。
これも最高ランクの飲み物だった。
「こりゃあ美味いな」
と、抹茶とパイ饅頭を楽しむ俺に。
「で、ここに来た目的は、いつか教えてもらえると思っていいのか?」
小六が真剣な眼差しを向けてきた。
いきなりそう来たか。
ま、ちょっと考えたら分かるよな。
俺とモカの強さなら、この城に厄介になる必要なんかある筈がない。
どんな組織と敵対しても、敵を殲滅して終わりだ。
「ロックの強さは、鑑定しなくても分かる。だから敵対する気はない。目的があるなら、喜んで協力しよう。しかし少しくらいは見返りが欲しい。どうだ、協力関係を築く気はあるか?」
うん、変な駆け引きをするより、コッチの法が気持ちイイ。
なら俺も、正直に答えるか。
「俺の目的はティティーツイスターだ。近くにあるんだろ?」
そう言うと同時に、小六が目を向く。
「ティティ―ツイスターだと!? まさかその年で、そこまで爛れた趣味を持ってるのか!?」
う~~ん、半分本気で、半分冗談ってトコかな。
でも、残念ながらそうじゃないんだよな。
「込み入った話しになるから、サシで話せないかな?」
俺がそう言うと、小六は首を横に振った。
「いや、ココにいる者は裏の事情まで知っている。その必要はない」
この場にいるのは小六とカンベエとヒデミツとゴンザ。
この4人は全てを知っているのか。
なら率直に話すとするか。
「この巨岩の城には、はぐれ者が集まるだろ? でも受け入れやすい者と、受け入れられない者がいる。快楽殺人者とか、人を騙す事を止められない者とかサイコパスとかPKとか。そういった手に負えない存在を『居なかった事』にする為に利用している場所がティティ―ツイスターだろ。冒険者ギルドとの密約で」
「まいったな、そこまで知っているのか。で、オレにどうして欲しいんだ?」
「その『居なかった事』にして欲しい人物として、俺をティティ―ツイスターに送り出して欲しい」
俺がそう言うと。
「はぁ!? オマエ、自分が言ってる意味、分かってるのか!? 死ぬより恐ろしい目に遭うぞ!」
小六は顔色を変えて絶叫したのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




