第八十話 13代目蜂須賀小六だ
「おい! この方達に失礼な事、していないだろうな!?」
と顔色を変えて叫ぶカエル男に、見張りの男がオズオズと口をはさむ。
「でも、こんな女の子、役には立ちませんよね?」
「馬鹿モン! この女の子、いや、お嬢さんはレベル594の忍者だぞ! お前等なんぞ100人で襲い掛かっても瞬殺されるわ!」
『レベル594の忍者!?』
カエル男の怒鳴り声に、見張りの男達も大男も息を呑んだ。
それも当然。
忍者は最上級の暗殺職。
本気で命を狙われたら、忍者よりレベルが高くても、助かる道はない。
ましてやレベル594の忍者ともなれば。
ここにいる全員で戦っても瞬殺される。
「ホ、ホ、ホントにレベル594の忍者なんですかい? こんなにちっちゃな女の子が?」
カクカクと震えている見張りの男に、カエル男が頷く。
「ステータスの好きな所を鑑定できなくするスキルを持っているらしく、名前とレベルと職業以外は視えないがな」
そう、ここの来る前に、モカに指示しておいた。
名前とレベルと職業以外は『ステータス隠ぺい』で隠すように。
だって限界突破Lv2でカンストなんて、大騒ぎになるに決まってる。
「他のステータスを視えなくしてるのなら、レベル594とか職業忍者ってのも嘘という事もあるのでは?」
さらに質問する見張りの男に、カエル男が首を横に振る。
「いや、レベル594の忍者であることは、間違いない。なにしろステータスの1部を隠すスキルはあっても、書き換えるスキルは存在しないのだからな」
そしてカエル男は、俺の目を向けると。
「貴方も鑑定させてもらって宜しいでしょうか?」
そう聞いてきた。
これには勿論、理由がある。
普通は人もモンスターも、鑑定されたコトに気付かない。
でもスキル『鑑定』を持つ者は、鑑定された瞬間に気付く。
そして無断でステータスを覗き見るという事は宣戦布告と同じ。
だって弱点を探って殺そうとしていると思われても仕方ないのだから。
おっと、話を戻すけど、レベルはともかく俺の攻撃力は異次元のレベル。
知られて騒がれたくない。
だから俺は。
「それは断らせてもらう。もし本当の仲間になる事があれば、その時はステータスを晒してもイイけど」
そう言って、鑑定を断った。
しかしカエル男は気を悪くする事もなく。
「そうですか。では早く信用して頂けるよう、努力いたしましょう。ゴンザ」
俺にニコリと笑いかけると、斬馬刀を背負った大男=ゴンザに声をかけた。
「はい、カンベエ様」
一歩前に出るゴンザにカエル男=カンベエが命令する。
「この方々を小六様の元に案内するから、先に知らせに行ってくれぬか?」
「承知しました」
駈け出すゴンザの後ろ姿を見送ると、カンベエは振り向き。
「ご同行願えますかな」
俺とモカに深々と頭を下げた。
う~~ん、ここまで礼儀正しく対応されるとは思わなかった。
よし、こっちも出来る限り礼を尽くそう。
「ハイ、宜しくお願いします」
俺は頭を下げ返すと。
「では、こちらへ」
歩き出したカンベエの後に続く。
今歩いているのは、城の巨岩を取り囲む、1番大きな岩に刻まれた道。
しかも螺旋状に刻まれた道だ。
つまり、かなりの距離を歩かなければならない。
なのに俺とモカはともかく、カンベエも平気な顔で登っていく。
まあ、鑑定を持っている以上、カンベエも転生者。
レベルアップして、常人とは比べ物にならない体力を持っているのだろう。
そして岩の頂上の端っこに辿り着くと、正面に見えるのは丸太の壁だ。
高さは20メートルを超えているだろう。
その高い壁が、頂上の面積を両断するように築かれている。
つまり岩の頂上の半分を砦が占めているワケだ。
砦の目的は、道を上ってきた敵を殲滅する事。
なにしろ敵は、少数ずつでしか上ってこれない。
その少数の敵に大量の矢と魔法を浴びて、皆殺しする。
まさに難攻不落という言葉が相応しい。
その砦を通り抜けると、その後ろにあるのは吊り橋。
巨岩群の中心にそびえ立つ、城の巨岩に渡る唯一の手段だ。
吊り橋の長さは400メートルほど。
そして、その吊り橋をカンベエと共に渡ると。
「お待ちしておりました。御館様がお待ちです」
城の入り口で、柔和な顔をした男に迎えられた。
って、凄く嫌な感じがする。
俺に鑑定を発動させようとしてるな。
ってコトは、コイツ転生者なんだろうな。
でも無断で鑑定させてやる気なんかない!
シュパッ!
俺は一瞬で大通連村雨を抜き放ち、柔和男の首にピタリと当てると。
「勝手に相手を鑑定するってコトは、殺されても文句は言わない、ってコトでイイんだよな」
そう言って、そのまま首を斬り落とそうとする。
大通連村雨なら力を籠める必要なんかない。
このまま水平に動かすだけで、何の抵抗もなく首を切断するだろう。
が、そこで。
「まことに申し訳ありません!」
カンベエが、俺の目の前にジャンピング土下座を決めた。
「この者、御館様を心配するあまり、やり過ぎる面がございます! しかしそれも御館様への忠誠心が高すぎるゆえの事。忠臣の先走りを、どうか寛大なお心でお許しいただけないでしょうか!?」
う~~ん、見た目はアレだけど、このカンベエという人は礼儀正しかった。
だからカンベエの頼みを無視したくないな。
と悩む俺の前で、柔和男は正座すると。
「カンベエ殿、この責任は自分で取ります。お客人、此度の無作法、この命を持って償わせて頂きます」
そう言って、切腹する為に自分の腹に刀を添えた。
が、柔和男が刀を腹に突立てる前に。
「なんの騒ぎだ!」
ゴンザよりも大柄な男が、城の入り口から現れた。
40歳くらいの、豪快な雰囲気の男だ。
その男を見るなり、カンベエと柔和男が両手をついて頭を下げる。
「「御館様」」
ふうん、こいつが巨岩の城の主か。
さて、話が通じるヤツだったらイイな。
じゃなかったら、暴れるコトになる。
ま、俺とモカなら楽勝だろうけど、人を斬るのは気分の良いモンじゃない。
とはいえ、必要なら躊躇しない。
さあ、どういう態度をとるかな?
答え次第じゃ大通連村雨の千斬自在で、1000の斬撃を飛ばしてやる。
と大通連村雨を構える俺を、御館様と呼ばれた男は暫し見つめると。
「がははは! お前、凄く強そうだな」
見た目通りに豪快に笑った。
「オレの名は蜂須賀小六。13代目蜂須賀小六だ。手下の無作法の侘びは改めてするから、ココは刀を収めてくれねェか」
「いいだろう」
俺が13代蜂須賀小六の言う通り、刀を鞘に納めると。
「歓迎するから、好きなだけこの城に滞在したら良いぞ」
13代蜂須賀小六は男臭い笑みを浮かべた。
どうやら悪い人じゃなさそうだ。
ああ良かった。
2023 オオネ サクヤⒸ




