第七話 前世のコトを聞くのはマナー違反よ
2つ目のゴブリンの集落を全滅させて、俺のレベルは5になった。
のだが。
「う~~ん、ロックの今の経験値は179か」
父さんが、俺のステータスを目にして唸った。
「経験値が180になったらレベルが6にアップするんだ。あとたった1でアップするんだから、何とか後1、経験値を稼ぎたいな」
うん、同感。
どうせならレベルを6にして帰りたい。
「よし、獲物を探しながら家に帰るか。ここから家まで3時間くらいだから、スライムくらい居るだろう」
父さんはそう言って歩き出す。
キョロキョロしてるから、モンスターを探しているんだろうな。
もちろん俺は、体を動かしながら父さんの後を追う。
レベルアップした体に慣れる為に。
そうやって歩くコト3時間。
「ついちゃったね」
1匹のモンスターと出会うコト無く、家に辿り着いてしまった。
「ま、こんなモンさ。楽しみは明日だ」
父さんがそう言って、パァンと俺の肩を叩く。
そうだね、そんなモンだよね。
俺は小さく溜め息をつくと、気を取り直して。
「母さん、ただいま! レベルが5にアップしたよ!」
母さんに大声で報告したのだった。
そして次の日の朝。
「ロック、起きろ!」
俺は父さんの大声で叩き起こされた。
「~~どうしたの?」
まだ目が覚め切ってない俺に、父さんが続ける。
「スライムだ! 庭にスライムがいる! レベルがアップ出来るぞ!」
この一言で俺の目は完全に覚めた。
昨日、3時間探しても遭遇しなかったのに。
まさかスライムの方からやってくるなんて、本当にリアルは不思議だ。
と驚きながらも俺は庭に飛び出す。
って、あんまり急いだんで、武器を持ってくるのを忘れちゃった。
ま、いいか。
拳撃強化があるし、素の攻撃力もアップしてる。
スライムごとき素手で十分だ。
ってコトで。
「おりゃ」
俺はスライムに駆け寄ると、そのまま蹴飛ばした。
パァン!
うん、楽勝。
スライムは俺の蹴りがヒットすると、破裂して飛び散った。
直後。
パラパパッパッパパ~~!
《経験値が180になりました。レベルが6になります》
俺は6にレベルアップしたのだった。
「やったぜ!」
清々しい気分で青空を見上げる俺に背後から。
「よかったわね、ロック。じゃあ朝ごはんにしましょう」
母さんが声をかけてきた。
と同時に。
ぐぅぅぅぅ~~。
俺の腹が盛大に鳴った。
そういや起きたばっかだっけ。
今日の朝ごはん何かなあ~~?
ベーコンエッグとチーズトーストとサラダと具沢山シチューか。
うん、美味しそう!
よし、思いっきり食べるぞ。
そして朝食後、少し休憩すると。
「じゃあロック。ステータスを体に染み込ませるぞ」
レベルアップに対応する訓練が始まった。
「ロック。お前は一気にレベルを6にアップさせた。でもアップしたステータスを使いこなせるようになるには、今まで以上に時間がかかる。だから運動神経・反射神経・スタミナ・身のこなしを鍛えながら、拳撃強化と斬撃強化のLvをアップさせる事を目指すぞ」
具体的には、正拳突きと素振りをひたすら繰り返す。
それに蹴りの稽古と体力強化が加わり、瞑想もしっかり行う。
そして山野を駆け巡り、様々な方法で体を鍛え上げる。
とうてい3歳児が行う訓練とは思えない。
しかしレベル6のステータスが、この過酷な練習を可能にしてくれる。
いや、実のあるものにしてくれた。
だから半年後、つまり俺が4歳になった時。
HPとⅯPを300増やす『HP強化Lv1』と『ⅯP強化Lv1』を取得。
加えて、ステータスを強化するスキルも手に入れる事に成功した。
『力強化』『耐久力強化』『魔力強化』『魔防力強化』『知性強化』『速さ強化』だ。
まだLvは1だけど。
でもこれにより力、耐久力、魔力、魔防力、知性、速さも300アップ。
更に『拳撃強化』はLv3に『斬撃強化』もLv3にアップしたのだった。
「いやぁ、今更こんな事を言うのもナンだが、まさか5つのステータス強化スキルを取得した上、拳撃強化Lv3と斬撃強化Lv3を獲得するとは……ロック、おまえはホントに大したヤツだ。誇りに思うぜ」
父さんにそう言われて俺は照れる。
『隠里の民』は最強の職業なんだから、これくらい当然だ。
でも父さんに喜んでもらえるのは、やっぱり嬉しい。
「そうね。拳撃強化Lv3と斬撃強化Lv3なんて中級冒険者のスキルなのに、まさか4歳で手に入れるなんて、さすが私の息子ね!」
母さんに喜んでもらえるのは、もっと嬉しい。
「隠れ里の民なんて職業、聞いた事無かったが、どうやら相当強力な職業みたいだな。そして、そんな誰も知らない職業を持って生まれてくるとはロック、おまえ前世じゃ凄いやり込みゲーマーだったんだろうな」
感心する父さんの後ろ頭を母さんがぺシッと叩く。
「いくら家族でも、前世のコトを聞くのはマナー違反よ」
「おっと、そうだったな。いや、あまりにもロックの成長が凄いから、つい嬉しくなってしまった。いやぁ失敗、失敗」
父さんは照れ笑いしながら俺に視線を向ける。
「でもロックの将来を楽しみにするのはイイだろ? きっとロックは世界に名を轟かせる冒険者になるぞ」
「そうね、それは間違いないわ。でもロック。無理だけはしないでね。ここはファイナルクエストと同じ世界だけど、そして転生者はとんでもなく強くなれるけど、それでも1つ間違ったら命を失うんだから」
優しい、でも心配そうな目を向ける母さんに、俺は真剣に返す。
「大丈夫、無茶も無理もしないから」
本気だ。
危ない橋を渡らなくても強くなれる方法を俺は知っている。
だから危険を冒す必要はない。
なにしろココは母さんが言った通り。
一歩間違えたら命を落とすリアルの世界なんだから。
「イイ心掛けだわ。どれほど前世に知識があっても、リアルの冒険は臆病くらいで丁度いいんだから」
母さんは優しくほほ笑むと、俺の頭にポンと手を乗せる。
「約束よ、ロック。今言った様に、無茶も無理もしないって」
「うん、約束する」
「イイ子ね」
母さんはそう言って、俺の頭を何度も撫でたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ