第六十八話 犬と猿、よくやった!
ダンジョン『鬼が島』第3ステージの中ボス=甲冑気に。
「まずはコレを食ろおてみィや!」
モカはヤマセミロングによる刺突を放った。
その攻撃は、モカのステータスを十分に発揮したモノだったが。
ガッキィン!
ヤマセミロングの切っ先は完璧に弾き返され。
「アイターー!!」
モカは衝撃で痺れた右手を抱えて、飛び下がった。
「鑑定で分かっとったけど、なんちゅう硬さや。手ぇ折れるかと思ったで」
そう文句を言いながらも、既にモカは呪符を手にしている。
「これならどうや! 金剛夜叉明王撃!」
そして放たれる最強の1撃……だったのだが。
バリィン!
雷撃は甲冑の表面を滑り、地面に逃がされてしまった。
なるほど、避雷針の応用か。
さあモカ、次はどうする?
「ほならコレやったらどうや! 不動明王撃!」
さっき、雷属性の金剛夜叉明王撃は無効化されてしまった。
だから次に、火属性の不動明王撃で攻撃を選んだのか。
確かに敵の特性が分からない場合、色々試すしかない。
でも。
「フン!」
甲冑闘鬼は気合と共に、不動明王撃を跳ね返してみせた。
しかし、それも想定済みなのだろう。
「大威徳明王撃!」
モカは水属性の攻撃を試してみた。
のだが、大威徳明王撃も。
「ナンノ!」
甲冑闘鬼に跳ね返されてしまう。
「ち! そら反則やで」
愚痴るモカだったが、そこに。
「ムン!」
今度は、甲冑闘鬼が拳を打ち込んできた。
って、ヤバ!
今のモカじゃ避けられない!
俺はスキル『瞬間移動』してモカを助けようとしたが。
「お?」
戦いに割り込むコトを、ギリギリで思いとどまる。
と、ほぼ同時にモカが身に付けた2つの指輪が、瞬時に犬と猿に変わり。
「わん!」
「ウキッ!」
モカを地面に引きずり倒した。
その直後。
ボッ!
モカの顔があった場所を甲冑闘鬼の拳が撃ち抜く。
ふ~~、何とか間に合ったけど、危ないトコだった。
しかし、さすが実質攻撃力1270万。
もし顔に当たってたら、いや掠っててもモカは即死していたぞ。
でも、その攻撃は百鬼夜行の剛腕鬼と同じ。
攻撃の前、必ず力を溜めるから、簡単に見切れる。
おっと、それより犬と猿、よくやった!
よくぞモカを守ってくれた!
今後もモカを、宜しくお願いします!
なんて俺は犬と猿に感謝している間にも。
「ムン! ヌン!」
甲冑闘鬼はモカに拳を放っていた。
が、モカには空手を教え込んでいる。
「見切ったで!」
甲冑闘気の拳を、何とか受け流していた。
もしも甲冑闘鬼が予備動作無しで拳を打ち込んできていたら。
モカは最初の1撃で命を落としていただろう。
でも甲冑闘鬼に限らず、モンスターは技の稽古などしない。
稽古する概念すらない。
だからステータスは高いが、逆にステータス頼りの雑な攻撃となる。
力任せのド素人の攻撃と言っても良いかも。
つまり、構える、力を溜める、攻撃場所を見つめる、そして攻撃。
1,2,3とカウントしてから4で攻撃して来るワケだ。
ここまで分かれば、誰でも攻撃を躱せる。
後は、分かり易い攻撃にカウンターを合わせるだけでいい。
と言いたいトコだが、ここで問題になるのが甲冑闘鬼の防御力の高さ。
モカの攻撃力じゃあ、傷1つ負わすコトは出来ない。
実際のところ。
「オウリャ!」
「食らわへん!」
モカは甲冑闘鬼の拳を躱しながら。
「や!」
カウンターでヤマセミロングの斬撃を叩き込んでいる。
しかし。
カィン!!
「あいたーー!」
モカの攻撃は見事に跳ね返され、痛がる声が響く、の繰り返し。
互角の戦いに見えるが、実はモカの方が圧倒的に不利な状況だ。
なにしろモカの攻撃は、当たってもノーダメージ。
そして甲冑闘鬼の攻撃を躱しそこなったら、1撃でアウト。
不公平だ! と叫びたくなるほど、戦闘力に差がある。
「このままじゃアカンな」
そう呟くが、モカも分かってるハズ。
甲冑闘鬼の全身が、防御力1220万というワケじゃ無いコトを。
つまり人間の急所に当たる部分は、それなりに弱い。
だからモカの全力の攻撃がヒットすれば倒せない相手じゃない。
しかしそのくらい甲冑闘鬼だって分かっているのだろう。
甲冑で弱点をカバーした上で、攻撃して来ているくらいだから。
つまり甲冑闘気のガードを崩した上で、渾身の1撃を食らわせる。
これがベストの戦い方だと思う。
問題は、どうやってガードを崩すか、だ。
そして普通なら、この甲冑闘鬼のガードを崩すなんて出来るワケが無い。
しかし、その為に手に入れたモノがある。
犬・猿・雉の指輪だ。
そして指輪が姿を変えた犬が。
「がう!」
甲冑闘鬼の右足に噛み付いた。
もちろん、その程度で甲冑闘鬼にダメージを与えるコトなんて出来ない。
でもモカしか見てなかった甲冑闘鬼は、右足を噛まれてバランスを崩す。
しかし、その程度じゃ甲冑闘鬼の攻撃は弱まったりしない。
「チ!」
舌打ちしながらも、モカへと拳を叩き付けてくる。
右足には犬が噛み付いているので、自由に動かせる左足を踏み込んで。
だが、その踏み込んだ左足が、地面を捕える直前。
「うき!」
猿が、甲冑闘鬼に足払いを仕掛けた。
もう少し足払いが早かったら、躱されていただろう。
もう少し遅かったら足は地面を踏みしめ、足を払っても無駄だったろう。
しかし猿が絶妙のタイミング放った足払いは。
スパァン!
見事に甲冑闘鬼の足を引っかけ。
「ウオ!?」
甲冑闘鬼は、バランスを崩して地面に両手をついた。
そして。
「ここや!」
モカは渾身の1撃を甲冑闘鬼に放ったのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ