第六十五話 なるほど、そういうコトかいな!
赤鬼や青鬼が、群れを成して襲い掛かって来る第2ステージを抜けると。
見えてくるのは、切り立った崖に囲まれた広場。
広さはサッカー場くらいで、がけの高さは50メートルくらいだ。
その広場の先には岩山がそびえ立っていて、洞窟が口を開けている。
つまり、その洞窟が第3ステージとなるのだが。
「子供たちよ、命が惜しかったら引き返せ。この広場に足を踏み入れたら、殺さねばならぬからな」
その洞窟の前には、頭が牛の鬼が立ち塞がっていた。
身の丈は6メートルくらいで、鎧のような筋肉を纏っている。
ミノタウロスに似ているが、その強さは別次元。
地獄の鬼を率いる、別格の強さを誇る牛頭の鬼=牛頭鬼だ。
牛頭鬼のステータスは。
レベル 5500 経験値 3500万
HP 50万
基礎攻撃力 55万
防御力 40万
装備 上質の金棒(攻撃力40万)
さすが第2ステージの中ボス。
なかなかのステータスだ。
当然、モカも鑑定して分かっている……よな?
その牛頭鬼を前にして、モカの額を冷や汗が流れ落ちる。
「凄いステータスやな。ウチじゃ絶対に勝てへんステータスやで。どないしたらエエんやろ?」
ああ、やっぱり鑑定してたな。
それにステータスに圧倒的な差があるコトも理解してるみたい。
普通なら、ここでゲームオーバーという状況だ。
でも、この時の為に、ちゃんと準備は整えてある。
だけどちょっと不安なんだろな。
「犬・猿・雉、今こそ出番やで……この為のモンなんよな? 信じとるで」
モカが、青い顔でそう呟くが、その瞬間。
知恵の指輪がピカっと輝き、猿の姿に戻る。
「な、なんや!?」
驚くモカに。
「うき!」
猿は一声鳴くと、第2ステージの森へと戻っていった。
「……待っとれ、いうコトやろか?」
モカが、そう呟いて待っていると。
「うき!」
猿は3分くらいで戻ってきた。
その手に何かをもって。
「ナニ持っとるんや?」
モカは、猿の手を調べると。
「なるほど、そういうコトかいな!」
そう叫ぶと、モカは何かごそごそと行ってから、牛頭鬼が待ち構える広場へと足を踏み入れた。
その瞬間。
「幼き少女よ。忠告を無視して入ってくるとは見上げた根性だ、と言いたいところだが、それは単なる無謀だ。己の愚行、身をもって思い知るが良い」
牛頭鬼はそう叫び、金棒を振り下ろしてきた。
「わ!」
モカが、紙一重で金棒を避けると。
ドチャ!
金棒は柄まで地面にめり込んだ。
もし地面が石だったら、モカは砕け散った破片で傷を負っていただろう。
この広場の地面が湿った土だったから助かったな。
しかし攻撃は、1回では終わらない。
牛頭鬼は、軽々と金棒を地面から引き抜くと。
ボッ!
土蜘蛛すら1撃で消滅間違いなしの、強烈な打撃を放ってきた。
その水平の薙ぎ払いを、モカは今度もスレスレで躱す。
どうやら速さならモカの方が上みたいだ。
でも攻撃力も防御力も牛頭鬼の方が、遥かに上。
1撃もらったら即死だし、攻撃してもダメージを与えられない。
しかも。
「金剛夜叉明王撃!」
モカが金剛夜叉明王撃、つまり雷の槍を放つと。
「無駄だ!」
ずん!
手にした金棒を地面に突立て。
ピッシャァアアアアン!!
金棒を避雷針にして、雷の槍から身を守り。
「そら!」
金棒を引き抜きながら、居合切りのように振り回してくる。
「ち! 金剛夜叉明王撃を使うとるコトを見て、対策を練ったんか」
モカは、悔しそうに呟くが、すぐに真顔になると。
「せやけど、この戦いはウチの勝ちや」
そう言い放った。
「ほう? この状況で、どうやって勝のだ?」
余裕たっぷりの牛頭鬼だったが、その背後から。
「うき!」
猿が何かをバシャっとぶちまけた。
「ぬ? どういうツモリか知らぬが、こんな汚い水を掛けたくらいで勝てるとでも思っているのか?」
余裕の態度を崩さない牛頭鬼に、モカがニヤリと笑う。
「それが只の汚い水やったら、そうやろな。でも、その水が神便鬼毒酒やったらどうやろな?」
「神便鬼毒酒だと!?」
顔色を変える牛頭鬼に、モカが頷く。
「せや、鬼の力をウンと弱くする神便鬼毒酒や。この猿が森の中から毒草や薬草をかき集めてくれたんで、作るコトが出来たわ。どや? そろそろ思うように動けへんようになってきたんとちゃうか?」
「ぐ……」
黙り込む牛頭鬼に、モカが金剛夜叉明王撃の呪符を構える。
「汚い、いうたら、確かに汚い手かもしれへん」
モカは複雑な表情を浮かべるが、直ぐに戦士の顔になった。
「せやけど圧倒的にアンタよりステータスが低いウチが勝つには、こんな手を使うしか無いよってな。悪く思わんといてな」
そしてモカは、金剛夜叉明王撃の呪符を握り締めるとジャンプ。
「金剛夜叉明王撃・直!」
呪符を握った拳を牛頭鬼の岩のような腹筋に突き入れる。
その瞬間。
バリィッ!!
モカの拳から雷の爆発が発生し、牛頭鬼の背中まで撃ち抜いた。
その金剛夜叉明王撃の直撃を受け。
「ぐおっ!」
牛頭鬼は大きく吹き飛ぶが、それでも倒れない。
「まだだ! いかに神便鬼毒酒で弱ったとはいえ、この程度の攻撃で、倒せてたまるか!」
咆哮する牛頭鬼に、モカも叫び返す。
「ほなら、コレやったらどうや!」
そしてモカがとった行動は。
「金剛夜叉明王撃・5重撃!」
5枚の呪符を握り込んだ拳を打ち込む、というモノだった。
しかも両手で。
その金剛夜叉明王撃の10枚重ね攻撃は。
ピッシャァアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
相互作用で10倍どころか数十倍の威力を発揮し。
「ぐはぁああああ!」
牛頭鬼を地面に打ち倒した。
そして牛頭鬼は。
「く……」
立ち上がろうと、暫くもがいていたが。
「少女よ、見事だ」
そう口にすると、2度と動かなくなったのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ