第六十四話 ちょっと緊張し過ぎかな
モカに助けて、と叫ばせた土蜘蛛。
その支配エリアが見えてきた……いや、見えたワケじゃない。
もう少し進んだ所が、土蜘蛛に襲撃された場所だ。
モカを見てみると……ちょっと緊張し過ぎかな。
「なあ、モカ」
「ひゃい!」
声をかけたら飛び上がるくらい緊張してる。
うん、これはフォローしておくか。
「ちょっと落ち着こうか。そうだな、3回、深呼吸してみな」
モカがス~~、ハ~~と、素直に深呼吸を3回繰り返す。
これで肩の力が抜けたな。
よし、ここで確認しておくか。
「じゃあ聞こうかな。土蜘蛛と、どう戦うツモリなのかな?」
「先手必勝。千里眼で巣穴を見つけて、飛び出してくる前に金剛夜叉明王撃を叩き込んだるんや」
「分かった。なら作戦開始だ」
「了解や!」
モカは言った通り、千里眼を発動。
「なるほどな。この道を攻撃できる場所におるんは16匹やな」
こうして土蜘蛛の巣穴を確認すると。
「よっしゃ。位置も確認したコトやし、ほならいくでェ」
1番手前の土蜘蛛の巣穴を狙い。
「金剛夜叉明王撃!」
巣穴を隠している蓋の上から金剛夜叉明王撃を叩き込んだ。
そしてモカは、ユックリと俺に振り向くと。
「やったでロックにぃ! レベルアップや!」
最高の笑顔を見せたのだった。
そうか、土蜘蛛を倒してレベルがアップしたか。
まあ、土蜘蛛の経験値は1500万だからな。
1匹倒したら一気にレベルが上がるのは当然だ。
「よっしゃ、この調子でいくでェ!」
必勝パターンさえあれば、どんな強敵も怖くない。
モカは同じ攻撃を繰り返し、土蜘蛛16匹を駆除したのだった。
「攻略法さえシッカリ考えとったら、こないに簡単に倒せるんやな」
しみじみと呟くモカに、俺は敢えて言っておく。
「まったく、その通りだ。そしてモカなら、最初からこの方法で土蜘蛛を倒せてたんだ。犬・猿・雉が攻略キーアイテムだ、なんて思考をミスリードされず、スキルをシッカリと使っていたらな」
「うう、それは言わんといてや……」
頭を抱えるモカに、俺はワザと厳しく言う。
「それも生きていてこそだ。生きていれば、何度でもやり直せる。挽回できる。だからモカ、まず死なない事。これが1番、大切な事だぞ」
「そやな。生きてさえいれば、ロックにぃが助けてくれるさかいな!」
いや、それはちょっと違うような気がするんだけど……。
ま、いっか。実際、その通りなんだし。
生きてさえいれば、俺が必ず助けてやるからな。
って、アレ?
鬼が島トライは、モカのトレーニングだった筈なのに……。
と、俺は考え込むが。
「ロックにぃ! 早う、先に進も!」
元気を取り戻したモカの笑顔が見れたからイイか。
でも、まだココは入り口付近。
ダンジョン『鬼が島』の本番は、これからだ。
言ってみれば、まだ第1ステージをクリアしただけ。
すぐに第2ステージが始まる。
と、モカに言おうとしたけど、それを言う前に。
ゴヒュッ!
直径50センチもある石が、砲弾のように飛んできた。
「危な!」
モカが、その石が空気を切り裂く音に反応して避けると。
ドカァ!
飛んできた石が、深々と地面にめり込んだ。
凄い威力だ。
油断しているトコに直撃されたら、只じゃ済まなかっただろう。
「なんや!?」
お、千里眼で視ているな。
なら、もう気が付いたろ?
沢山の鬼が、アチコチで待ち構えているコトに。
石を投げてきたのも、そんな鬼たちの1群。
3匹の赤鬼と4匹の青鬼だ。
その中の1匹が俺達を発見して、石を投げてきたらしい。
そして他の鬼も俺達に気付いたのだろう。
足元の石に手を伸ばしている。
が、その石を拾い上げる前に。
「そうはさせへんで!」
モカは瞬時に金剛夜叉明王撃の呪符を取り出すと。
「金剛夜叉明王撃~~」
呪符を握り締めた腕を引き絞り。
「散!」
気合と共に、腕を突き出した。
と同時に、呪符から30の雷の矢が発射され。
バチバチバチバチ!!!!!
「「「「「「「……!」」」」」」」
その雷の矢は7匹の鬼を、声を上げる事すら許さず。
ずしん、ずしん、ずしん、ずしん、ずしん、ずしん、ずしん。
地面に打ち倒したのだった。
金剛夜叉明王は、鬼の頂点に立つ鬼神。
その鬼の神の雷は、普通の鬼など瞬殺する。
だからもちろん、7匹の鬼は即死していた。
ちなみに、この先で待ち構えている鬼のステータスは、こんな感じ。
赤鬼・青鬼・黄鬼・緑鬼・黒鬼
レベル 1500
HP 15万
基礎攻撃力 10万
防御力 12万
装備 15万(金棒)←かなり優秀な打撃武器
つまり土蜘蛛より弱い、ザコだ。
ま、ザコと言ってもSS級ダンジョンに出現する敵では、という意味。
スキル『限界突破Lv1』を取得してない冒険者なら瞬殺できる強さだ。
いや、Lv200程度の冒険者でも命懸けで倒せるかどうか。
というステータスなのだが、今のモカの攻撃力は20万超え。
通常攻撃でも、十分に鬼を倒せるハズだ。
でもモカの防御力は17万程度。
それに対して、金棒を装備した鬼の攻撃力は25万。
決して油断してイイ相手じゃない。
が、そんなコトくらい、モカだって分かってる。
「あ、また隠れとったで!」
千里眼で遠くから鬼を見つけ出し。
「金剛夜叉明王撃・散!」
大量の雷の矢で先制攻撃、順調に倒していく。
千里眼を取得してなかったら、かなり厳しい戦いになっていただろう。
そして千里眼は、そう簡単に取得できるスキルじゃない。
だから鬼ヶ島をクリアした冒険者は少ないのだろう。
逆に言えば、千里眼の能力により。
モカは第2ステージを危なげなくクリアしたのだった。
ちなみに倒した鬼の数は、合計63匹。
またしてもモカは一気にレベルアップを果たしたみたいだ。
2023 オオネ サクヤⒸ