第六十三話 昨日のケジメ、とらなアカンな
ロダンの考える人のポーズをとった石像の前にキビ団子を置くと。
ひょい。
ぱく。
猿の石像はキビ団子に手を伸ばし、口に放り込んだ。
そしてゴクンと飲み込むと、シュン! と縮み。
「今度も指輪かいな」
モカが言うように、猿の石像は指輪へと姿を変えた。
見た目は、犬神社で手に入れた指輪と同じ。
シンプルな銀の指輪で、知恵とだけ刻まれている。
「これで忠義の指輪と知恵の指輪が手に入ったさかい、残るは忍耐やな」
と上機嫌のモカを連れて雉、いやニワトリ神社へと向かう。
が、神社に到着するなり。
「な、なんや? ナンもあらへん……」
モカは唖然とした顔で、神社を見回した。
ま、それが自然な反応かも。
こじんまりした神社の境内にあるのは、鳥居と社だけ。
それ以外、何もないのだから。
「まさか、誰かに先を越されてもうたんか?」
顔色を変えるモカに、俺は社を指さして見せる。
「モカ、あの中を覗いてみな」
俺が言った通り、モカは社を覗き込むと。
「仏像がズラッと並んどるだけやで」
振り返って、そう言った。
「なにか引っ掛からないか?」
「引っ掛かる? ナニが? 別に変わった事なんて、あらへんよ」
「そうか。モカには難しかったかな」
俺はそう言うと、社を指さす。
「あの社の建築様式は神社のもの。なのに社の中に祀られているのは仏教の神様なんだ。ヘンだろ?」
「そ、そういうモンなんか?」
「モカはこの世界で生まれたんだから、知らないのも無理ないか。いや、現代日本でも知らない人の方が多いかな。まあ、それは置いといて。大事なのは、その仏像の中の孔雀明王像だ」
「孔雀明王像? ひょっとしたら、この孔雀に仏様が乗っとる像かいな?」
「そうそう。で、孔雀っていうのは雉科の鳥。つまり、この神社で雉と何らかの関わりがあるのは、その孔雀明王像だけなんだ」
「ちゅうコトは!」
モカは目を輝かせると、孔雀明王像の前にキビ団子を置いた。
しかし、孔雀明王像はピクリとも動かない。
「ロ、ロックにぃ?」
不安そうに振り返るモカに、俺は微笑んでみせる。
「これも、この世界で生まれた人は知らないコトだろうけど、孔雀明王の真言を唱える必要があるのさ」
そして俺は孔雀明王像の前に立つと。
「オン マユラ キランディ ソワカ」
孔雀明王の真言を唱えた。
すると孔雀明王像は、キビ団子に手をかざして。
ピカ!
物凄い光を放つ。
そして。
「はぁ~~、目ェ、潰れるかと思ったわ……って、ああっ!」
後には忍耐と刻まれた指輪が残っていた。
「よっしゃー! 忍耐の指輪ゲットや!」
と、またモカが拳を天に突き上げ。
こうしてモカは忠義、知恵、忍耐の指輪を手に入れたのだった。
「これで鬼が島攻略に必要なモンが揃ったワケやな」
ニンマリと笑うモカに、俺は釘をさす。
「モカ。鬼が島トライは、明日だぞ」
「え~~?」
不満そうな顔のモカに、俺は言い聞かす。
「今からじゃ、夜の「鬼が島」を、うろつくコトになる。金鬼や風鬼や隠形鬼や土蜘蛛が待ち構えている「鬼が島」をな。そこで質問だ。モカは闇の中で、そいつらと戦いたいのか?」
「あう……」
土蜘蛛に酷い目に遭わされたのを、思い出したのだろう。
モカがシュンとなる。
あ、そういやコレも言っておかないと。
「それにモカ。最初にペットショップ「あやかし」で犬・猿・雉が何の役に立つと説明されたか覚えてるか?」
「ええと、猿は金鬼の弱点を、引っ搔いて教えてくれる。雉は風鬼が強風を操ろうとする瞬間を、鳴いて教えてくれる。犬は、姿の見えない隠形鬼を匂いで発見してくれる。やったと思うわ」
うん、それはチャンと覚えてたんだな。
よし、教育タイムだ。
「でも敵の弱点を見破るのなら、スキル『究極の忍者』から派生する『完全分析』で分かるよな」
「…………ああ!」
モカは暫く考え込んだ後、大声を上げた。
「それに見えない風を察知するのなら、やっぱり『究極の忍者』の派生スキル『千里眼』の方が性能は上だよな?」
「その通りデス」
「見えない隠形鬼だってスキル『存在把握』で見破れたはず。そして気配遮断を発動させてたら土蜘蛛に気付かれなかったかもしれないし、『千里眼』でシッカリ観察してたら奇襲を仕掛ける事だって可能だったと思わないか?」
「あうぅ……」
あ、モカが涙目になってる。
説教タイムは、このくらいにしておくか。
「あのな、モカ。スキルを十分に使いこなせたら、お前は土蜘蛛に負けない。負けるハズがないんだ。今回は失敗したけど、それを次に生かせるならソレは失敗じゃない。経験を積んだんだ。だから、どうやったら良かったのか、次はどうやったらイイのか、良く考えて、もう1回トライするんだ」
モカの頭を撫でながら、そう言ってやると。
「そうやな、ロックにぃ。もっと良く考えてみるわ」
モカは元気を取り戻したらしい。
「よ~~し、次は負けへんで!」
両手を握り締めると、そう叫んだのだった。
そして次の日の『鬼が島』トライ。
俺が言ったコトを、モカはシッカリ実践していた。
金鬼の弱点を『完全分析』で察知し。
「そりゃ!」
ヤマセミロングの1突きで倒す。
「ホンマや。『完全分析』なら、相手の弱点だけやのうて、動きのクセやタイミングまで分かる。これなら負けるハズがあらへんわ」
そして風鬼との戦い。
「うわ。『千里眼』使うたら、相手の視線の動きと息使いまで分かるさかい、風どころか攻撃する前に、何したらエエか分かるわ。こら楽な戦いやで」
続いて隠形鬼戦。
「なるほどなぁ。『存在把握』使うたら、見えん敵でも、こないにハッキリと認識できるモンなんか」
モカはそう言うと、流れるような動作でヤマセミロングを一閃。
隠形鬼を簡単に切り捨てた。
「やっぱスキルを、どう使いこなすか。それが重要なんやな。こんなに便利なモン持っとるクセに、ウチはナニしとったんやろな」
反省するモカの頭に、俺はポンと手を置く。
「それが分かったら、十分だ。じゃあモカ。スキルを使いこなす練習を、思いっきやってみよう。頭で考える前にスキルを発動させるくらいにならないと、ギリギリの戦いじゃあ役に立たないからな。もちろん、不意打ちにも反射的に発動できるくらいになるのが目標だな」
不意打ち、と言われた瞬間、モカは真顔になった。
きっと土蜘蛛に襲われた時の事を思い出したのだろう。
でも、その表情に怯えはない。
あるのは悔しさと闘志だ。
トラウマになったり苦手意識を持ったらどうしようかと思ってけど。
「ほなら絶対に昨日のケジメ、とらなアカンな」
キュッと拳を握りしめるモカを見て、俺は安心したのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




