第六十二話 あ、キビ団子や!
『本当は深い桃太郎』
俺は、この小冊子の代金を支払うと、モカに手渡す。
「これを読んだらいい」
「本当は深い桃太郎? この薄っぺらい本が、ホンマに重要なヒントなん?」
「読めば分かる」
「え~~と……」
本を開くモカに変わって『本当は深い桃太郎』の要点を説明しよう。
誰でも知っているが、犬は飼い主に物凄く忠実だ。
だから「犬」は忠誠心、忠義を現す。
猿は、人間ほどではないにしても、他の動物と比べたら格段に知能が高い。
つまり「猿」は、知恵を現す。
最後に雉。
雉は卵を温めている時、蛇に襲われても動かないという。
そして蛇が体に巻き付きて締め上げてきた時、一気に羽ばたく。
その威力はすさまじく、蛇はバラバラに千切れるという。
つまりギリギリまで我慢するコト。
すなわち「雉」は忍耐を現す。
「犬」「猿」「雉」が表す、「忠義」と「知恵」と「忍耐」。
この3つがあれば、鬼退退治という偉業すら成し遂げる事が出来る。
という教育的な意味も持った物語が桃太郎だ。
これが『本当は深い桃太郎』の内容なんだけど……。
お、モカが読み終えたみたいだな。
さて、これで分かったかな?
と、期待してたら、モカが拳を握って叫ぶ。
「そうやったんか! 忠義心と知恵と忍耐で戦えばエエんやな!」
チガイマス。
忠義心、知恵、忍耐はキーワードだ。
と同時に思い出す必要がある。
ミス=リードが言ってたろ?
重要なのは「犬」「猿」「雉」が指し示す方角だ。
どういうコトかというと、方角を十二支で表した場合。
犬、猿、雉が指し示す方向に重要な「何か」がある、というコト。
でも十二支に雉なんていないよ?
と思うかもしれないが、それは十二支に気付かれないようにする罠。
ニワトリは雉科の鳥だから、ニワトリの方角=雉の方角となる。
では、その方角には何があるのか?
それは、この街の地図を見たら分かる。
街を囲むように、十二の神社が配置されているのだ。
この街は、決して小さな町じゃない。
それでも12の神社は多すぎる。
じゃあ、何でそんなに沢山の神社があるのか?
もちろん、正解の神社を隠す為のダミーだ。
つまり正解は。
犬・猿・雉の方角にある神社に行く、だ。
と俺がモカに説明してやると。
「よっしゃ! これで今度こそダンジョンクリアや!」
そう叫んで駈け出そうとするモカを、俺が止める。
「その前に買っておくアイテムがあるぞ」
「へ? ナニが必要なん?」
「桃太郎は犬・猿・雉を家来にする時、渡したモノがあるだろ?」
「犬・猿・雉を家来にする時? あ、キビ団子や!」
正解。
というコトで、モカは。
「ほならキビ団子、売ってェな!」
道具屋「あやかし」の主人から、キーアイテムであるキビ団子を手に入れた。
「さあロックにぃ! 次はどないするんや!?」
モカ、まだ分かってなかったのか?
俺は心配だぞ。
まあ、取り敢えず犬の方角の神社に行くか。
というワケで訪れた、犬の方角に祀られた神社。
他の神社同様、こじんまりした神社だ。
そしてその境内には、沢山の犬の石像が置かれていた。
鳥居の両側、清めの水の横、社の左右など、境内は犬の石像だらけだ。
「うわぁ、犬だらけやな。で、ロックにぃ。どないしたらエエん?」
ああ、さっきの話し、ゼンゼン分かってないのか……。
と心の中で嘆きながら、俺はモカに教える。
「あのな、モカ。思い出してみろ。「本当は深い桃太郎」に書いてあったろ? 犬は忠義を現すって。それを思い出したら、犬の石像を良く見てみるんだ」
「犬の石像を良く見るやて? ……あ!」
やっと気が付いたか、犬の石像の首輪に文字が刻まれている事に。
勇猛、勇敢、勇気、終生の友、良き部下、頼れる仲間、などなど。
横断歩道、焼肉定食、非常階段なんてワケ分からないモノもある。
そんな沢山の石像の中にある、忠義と刻まれた1体の石像。
これが正解だ。
「ロックにぃ。コレがそうなんやろ?」
ここまで来たら、流石に分かったらしい。
モカは忠義と刻まれた石像を前にして、目を輝かせると。
「さてと。ほんならナンか出せや」
いきなり恫喝した。
おい! 殆ど分かって無いのかよ!
心の中でツッコんでから、俺はモカに言って聞かす。
「あのなモカ。桃太郎はキビ団子で犬を家来にしただろ? そしてココに来る前キビ団子を買ったろ? ならどうすればイイか分かるよな」
「どないしたらエエか? あ! キビ団子や!」
モカは、キビ団子をマジックバッグから取り出すと。
「ほら、キビ団子や」
忠義と刻まれた石像の前にキビ団子を置いた。
すると。
ぱく。
石で出来ているハズの犬がキビ団子を食べ。
「おん!」
一声鳴くと、キュイン! と縮まって指輪に姿を変えた。
忠義と刻まれた、銀色に輝く指輪に。
「え~~と、ロックにぃ。ひょっとしたらコレがダンジョン「鬼が島」攻略のキーアイテムなん?」
「その通りだ」
「やったで!」
モカは忠義の指輪を指に装備すると、そう言って拳を天に突き上げた。
そしてバッ! と俺に顔を向けると。
「次は猿や!」
興奮した顔で叫んだのだった。
というコトで、やってきました猿神社。
犬神社と同様、猿の石像で溢れていたが。
「ロックにぃ、どないしょ? 猿にはナンも書かれてへんで。ヘンなカッコした石像ばっかや」
モカが言ったように、様々なポーズの石像で溢れ返っていた。
口を押えた猿、耳を押さえた猿、眼を押さえた猿……全部違うポーズだ。
「でもモカ、ヒントを思う出すんだ。猿は知恵を現すんだ」
「知恵、言われても、ウチには……」
困り果てるモカを、暫く見守った後。
「あ!」
急に俺は思い出した。
この謎は転生者じゃないと分かり難いコトを。
「ごめんモカ。これはモカじゃ分からないよな」
そして俺は、一体の石像の前に立つ。
座った姿勢で俯き、顎に片手を当てている石像。
ロダンの「考える人」と同じポーズだ。
そう、他の石像と違い、この像だけが思考している。
すなわち知恵を現す石像だ。
2023 オオネ サクヤⒸ




