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   第六十一話  ウチが間違うとった





「ロックにぃ……」


 土蜘蛛の糸に捕らえられて、情けない声を漏らしてるモカに。


「任せろ」


 俺はそう言って、土蜘蛛の糸だけを溶かす液体を錬成。

 直ぐにジャバジャバと掛けて糸を溶かしてやる。と。


「ロックにぃ、怖かったよォ……」


 モカが震える体で抱き着いてきた。

 よほど怖かったんだろうな。

 グスグスと泣きながら、俺から離れようとしない。


 ま、何だかんだ言ってもモカはまだ12歳。

 死をリアルに感じて怖くないワケがない。

 いや、何歳だろうと、死が怖くない者などいるワケないか。


 え、俺?

 もちろん怖いに決まっている。

 だから今はモカに優しくしてやらないと。

 というコトで俺は。


「よしよし」


 モカの頭を優しく撫でる。

 何度も、何度も、何度も。

 そして暫くすると、落ち着いたのだろう。


「ロックにぃ。ウチが間違うとった。何もかも、全然足らへんかった」


 泣き腫らした目で、自分の失敗を認めた。


「そうか。なら答え合わせだ。どこで間違ったか確かめに、街に戻るぞ」

「うん」


 久しぶりに、しおらしいモカと温羅の街に戻ると、まだ昼過ぎだった。

 でも、モカもきっと疲れているだろう。

 答え合わせは明日にするか。

 俺はそう思ったんだけど。


「ロックにぃ。まだ日は高いで。答え合わせ、ちゅうヤツをしてェな」


 モカが、強い意志を取り戻した目を俺に向けた。


「このままやと悔しゅうて、食べ物の味も分からへんし寝られへん。ウチの何が悪かったんか教えてや」

「そうか。それじゃあ、まずアソコかな」


 というコトで俺は、モカをペットショップ「あやかし」に連れて行く。


「いいか、モカ。このペットショップの店長の名前を憶えているか?」

「もちろん覚えとるで。ミス=リードや。ちゅうか、忘れるハズあらへんで、あんなインパクトの強いおっちゃん」

「そうだな。あまりにも見た目のインパクトが強すぎるから、ヒントに気付けないんだよ」

「ヒント?」


 可愛らしく首を傾げるモカに、俺は正解を教えてやる。


「ミス=リード、すなわちミスリード。つまり、この店はモノタローの話しを読んだ者を、間違った方向に誘導するのが役目なんだ」

「なんやてェ!! あんのフリフリゴリラ、ウチを騙したんかぁ! 絶対に許さへんでェェェェ!」


 いきなり10倍強化金剛夜叉明王撃の呪符を手にするモカに。


「止めてやれ。実はこの店、ダンジョンの1部なんだから」


 俺は意外な事実を教えてやる。


「へ? ダンジョンの1部? それってまさかペットショップ「あやかし」が「鬼が島」ダンジョンの1部、ってコトなん?」


 モカが目を丸くしたトコで。


「ちょっとォ、お2人さァん。店の前で、そんな重大なシークレットを大声で話されちゃあ、ア・タ・シ困っちゃうわァ」


 張本人であるミス=リードがペットショップから顔を出した。


「とにかく話しは中で聞くからァ、とにかく店に入ってねェん」


 クネクネしながらそう言うミス=リードの圧に負けたのだろう。


「そこまで言うんなら、話し聞かせて貰おうやないか」


 モカは大人しくペットショップ「あやかし」に足を踏み入れた。


「で、どうゆーこっちゃ?」


 殺気を漂わすモカに、俺がミス=リードより早く答える。


「さっき言ったろ? 罠の無いダンジョンなんてありえない。なら、ミンナがダンジョンの外だと油断している、ココに罠があっても不思議じゃない。というか、この街も含めてダンジョン「鬼が島」なんだ」

「あらぁ、良く知ってるのねェ。そこまで詳しく「鬼が島」のコトを知ってる人に初めて会ったわァ」


 感心した声を上げるミス=リードに、俺は視線を向ける。


「このミス=リードの見た目も罠だ。あまりにもインパクトが強すぎて、ミスリードというヒントに気が付かないように仕組んでいるんだ」

「納得や! これが普通の店長やったらミスリードちゅう言葉に気が付いたんやろうけど、あまりのインパクトに脳が活動を停止してもうたさかい、気ィ付かんかったわ! これがSS級ダンジョン「鬼が島「のトラップかいな。恐ろしいトラップやで」


 タリ、と一筋の汗を流すモカに、ミス=リードが頬を膨らませる。


「見た目のインパクトが強いなんて失礼しちゃうわねェ。ア・タ・シはちょっとだけ男っぽいトコがあるだけの乙女よォん。アナタもそう思わないィ?」

「ハイ、ソウデスネ」


 おや? モカの言葉から生気が失われたな。

 またしてもクネクネと迫るミス=リードの圧力に負けたんだろうな。

 まあ、その気持ちは分かるぞ。

 下手なコト言ったら、異常に発達した筋肉で殺されそうだもんな。


 とはいえ、ここで帰るワケにもいかない。

 情報は聞き出さないと。

 というワケで、俺はキーワードを口にする。


「モモタローの童話じゃあ犬・猿・雉がお供だったけど、ダンジョンクリアに必要な犬・猿・雉は別のモノなんだろ?」


 この言葉を聞くと同時に、ミス=リードの態度は一変する。


「あらぁん、そこまで知ってる冒険者は初めてよォん。いいわ、教えてあげる。犬猿雉が真に意味する場所を探すのよォん。ア・タ・シが言えるのはココまで。あとは自分で情報を集めてねェん」


 ミス=リードは、そう言うと背を向けた。

 もう話す事は無い、という意志表示だ。

 だから俺は。


「もうちょいヒント、くれへんか?」


 なおも食い下がるモカを。


「いいから行くぞ」


 店の外に連れ出した。


「なんでや、ロックにぃ。もっと粘ったら、ミス=リードからもっと沢山の情報を聞き出せたかもしれへんのに」


 頬を膨らませるモカに、俺は首を横に振る。


「無駄だ。ミス=リードは、俺達に背中を向けただろ? それは伝えられる事は全て伝えた、と言ってるんだ。つまりダンジョン「鬼が島」の1部であるペットショップ「あやかし」で手に入るヒントは、アレだけってコトさ」

「なるほど。そのヒントから正しい道を見つけろ、ちゅうコトなんやな!」

「そしてヒントは、とっくにモカの目の前にあったんだ」


 俺の言葉に、モカが目を見開く。


「ナンやて!? それってウチが、大事な情報を見逃してた、ちゅうコトやろ?」

「その通り。じゃあモカ。見落とした情報を拾いに行こう」


 顔をしかめるモカに、俺は笑ってみせた。

 そして向かったのは。


「ココはモモタローの本を売ってた道具屋?」


 モカが呟いたように。


『そうだな。まずは「桃太郎」を読んでみることだな。1冊1000ゴルドだ。立ち読みはお断りだよ』


 そう言ってモカに桃太郎の本を売りつけた道具屋だった。


「ここもウチを騙したんか!?」


 驚くモカに、俺は頷く。


「その通り。って言うか、さっき言ったろ? この街もダンジョン「鬼が島」なんだって。だからヒントも隠されているけど、フェイクもあるし、小さなヒントのすぐ横に大きなヒントが隠されてたりする。モカは、その小さなヒントを手に入れて満足してしまった結果、大きなヒントを見逃してしまったんだ」


 俺はそう言いながら、桃太郎の本があった棚を指さす。

 その棚には他にも本が並んでいるが、重要なのは『本当は深い、桃太郎』。

 本と本の間に埋もれた小冊子だ。








2023 オオネ サクヤⒸ

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