第六話 しっかり経験を積んだらいい
パラパパッパッパパ~~!
《獲得経験値が30を超えました。レベルが3になりました》
俺の頭の中でファンファーレが鳴り響き、アナウンスがレベルアップを告げた。
でもまだ終わりじゃない。
見張りのゴブリンと、獲物を解体していたゴブリン6匹が襲い掛かってきた。
でも結果は同じだ。
ヒュパパパパパパパ!
今度も7振りで7匹の首を切断すると。
「ふう」
俺は小さく息を吐いた。
ゴブリンは人間に似た外見をしている。
そして実戦は、ゲームより遥かにリアルだ。
肉を、骨を、内臓を断ち切る感触が、ハッキリと手に残っている。
同時に、血と臓物の匂いが鼻をつく。
……やっぱゲームと違いな。
スライムと違って、凄く血なまぐさい。
でも、早く慣れないと。
俺は最強を目指すって決めたんだ。
と、その時。
「ロック! 後ろだ!」
父さんの声が。
「!」
俺は振り向くと同時に、瞬時に戦闘態勢をとり。
背後から襲い掛かってきたゴブリンの群れに、逆に突撃する。
群れの数は14匹。
おそらく狩りに出ていたゴブリンが戻ってきたのだろう。
しまったな。
十分にあり得る事なのに、その危険を見逃していた。
まあ、ゴブリンごとき、いくらでも倒せる。
たとえ戻って来たゴブリンが100匹いても楽勝だったろう。
でも、もっと強いモンスターとの戦闘だったら?
あるいは、たまたま強いモンスターが通りかかってたら?
それを考えるとゾッとする。
やっぱりリアルはゲームと違う。
油断したら、そこで終わりだ。
戦い方と、戦いでの思考を根本から変えないとダメだろうな。
と反省しながらも、俺は簡単にゴブリンを斬り倒していく。
そして14振り目で最後のゴブリンを倒すと。
パラパパッパッパパ~~
《獲得経験値が70を超えました。レベルが4になりました》
アナウンスが脳内に響いた。
反省の多い戦いだったけど、レベルアップは素直に嬉しい。
でも課題がハッキリと分かった戦闘でもあった。
と表情を引き締める俺を覗き込んで、父さんがほほ笑む。
「その様子だと、これ以上、俺が言う必要ないな。じゃあ今回の事を生かして次の戦闘に臨むか」
「次の戦闘?」
首を傾げる俺に、父さんが楽しそうに目を細める。
「ゴブリンの集落を、もう1つ見つけておいた。しっかり経験を積んだらいい」
スパルタですね、父さん。
というセリフが口から出かかったけど。
よく考えたら2回のレベルアップで俺のステータスは大幅にアップしている。
だから危険な状況に陥る事は無いだろう。
どちらかというと、精神の訓練なんだろうな。
油断せず、あらゆる可能性を織り込み、万が一に備えて視界を広く保ち。
そして突発的な事象にも瞬発力のある思考で対処する。
とりあえずの目的は、こんなモンでいいか。
なんて思ってたが。
「父さん、まだなの?」
森の中を2時間歩いたトコで、俺は父さんに聞いた。
「おう、あと30分くらいで見えてくる」
「30分……」
父さんの答えに俺は黙り込む。
戦闘よりも黙々と移動する方が、精神を削られると気が付いた瞬間だ。
でも、これがリアルなんだろな。
ゲームのように簡単にフィールドを移動する事なんて出来ない。
自分の足で一歩一歩進むしかないのだ。
ってゲームじゃ幾つもの移動手段を用意していた筈。
トリウマ、アイアンホース、アーマースレイプニルなどなど。
実際、家の裏の小屋でトリウマを飼育していたよね?
なんで父さんは、それらを使わないんだろ?
という俺の疑問に気付いたのか。
「ロック。徒歩で移動してるのは、レベルアップした体に慣れる為だ」
父さんが説明を始めた。
「レベルアップしたらステータスの跳ね上がるだろ? でも直ぐにそのステータスを使いこなせると思うか? 車の免許を取ったばかりでレーシングカーに乗るようなモンだ。でも、こうして自分の足で歩く事により、アップしたステータスに自然と体が適応してくれる。いいかロック。レベルアップしたら、アップしたステータスに体を慣らす作業を、必ずやるんだぞ」
なるほど。
これもリアルだからこそだな。
なら、積極的に体を慣らそう。
と、俺はジャンプしたり複雑なステップを踏んだりしながら進む。
そしてたまに拳撃や斬撃を繰り出す。
最初は軽く動きを確かめ、少しずつスピードアップ、最後は全力で。
などと体を動かしてると、あっという間に集落に到着した。
「ロック。今度は単に戦うんじゃなく、戦い方の訓練だと思え」
父さんはそう言って、俺の頭を撫でた。
うん、分かってる。
しっかり練習してくるよ。
俺は心の中で父さんにそう告げると。
「いってきます!」
気合を入れてから、ゴブリンの集落へと向かった。
今回の集落は、さっきの集落より少し大きい。
ゴブリンの数は38匹。
剣の他に斧、そして弓まで装備している。
斧はともかく、弓矢は厄介かな。
物陰から射かける知恵くらいある筈だから、矢の不意打ちに注意だ。
だから俺は。
シュパッ!
1匹を斬ったら直ぐに向きを変えて周囲を見回す。
そして。
シュパッ!
次のゴブリンを切り捨てると、また直ぐに体の向きを変える。
こうやって全方向を視界に収めながら、次々とゴブリンを倒していく。
おっと。
思った通り、小屋の影から矢を放って来た。
ま、想定内だから、落ち着いて矢を斬り落とすと。
ビュッ!
弓矢ゴブリンとの距離を一気に詰めて。
シュパ!
1撃で首を斬り飛ばす。
そして更に。
ビュッ!
ズパッ!
俺を狙おうとしてた弓矢ゴブリンを切り捨てた。
よし、これで飛び道具を持ってるゴブリンはいなくなった。
でも、ここで油断しちゃダメだ。
最後まで慎重に戦う訓練をしないとね。
2023 オオネ サクヤⒸ




