第五十九話 景気のエエ話しやな
「せやけど経験値1000万かいな。景気のエエ話しやな。さすがSS級ダンジョンだけはあるで!」
モカがニコニコしながら先に進もうとしたところで。
「キャンキャンキャンキャンキャン!」
チワワサイズの犬が、吠えながら駆けだす。
「ど、どなしたんや?」
モカがそう言った時には。
「ガウ!」
犬は飛び上がり、そして空中に浮かんで停止した。
いや、何かに噛み付いてぶら下がっている。
って、姿を消して襲い掛かって来る隠形鬼に決まってるよな。
もちろんモカも気付いたらしい。
「そこかいな!」
ヤマセミロングで斬りかかった。
のだが。
キィン!
ヤマセミロングは弾き返されてしまう。
「ち、やっぱ簡単には倒せへんか」
モカはそう言いながら鑑定を発動させたらしい。
「ち。さすがのステータスやで」
舌打ちすると、そう呟いた。
ちなみに俺には、鑑定なんか必要ない。
隠形鬼
レベル 2000
経験値 1000万
基礎攻撃力 20万
防御力 20万
備考 透明化
というデータくらい覚えてるから。
つまりモカの攻撃力じゃあ隠形鬼にダメージを与えるコトは出来ない。
でも防御力は、1番強靭な部分の数値が表示される。
だから、物凄く弱い部分だって存在する。
その弱い部分を攻撃したから、金鬼も風鬼も倒せたワケだ。
なので、今回も弱点を突く戦いになるのだけど。
「ち」
モカは、見えない敵に苦戦していた。
なにしろ弱点を攻撃しようとしても、肝心の敵の姿が見えない。
あるいは猿が引っ掻いて教えてくれても、攻撃まではタイムラグがある。
その間に隠形鬼は動いてしまい、急所に攻撃が当たらない。
しかも相手は、20万の攻撃力で襲い掛かってくる。
速度はモカの方が上みたいなので、何とか躱しているみたいだけど。
あきらかにジリ貧だ。
さて、どうするつもりかな?
そろそろ俺の出番かも。
と思ったら。
「せや! あの手があったで!」
モカはそう叫ぶとマジックバックに手を突っ込み。
「もったいないけど、ご馳走したるで!」
ビーフシチューの入った皿を取り出し。
「犬!」
「わう!」
犬が噛み付いた瞬間を狙ってビーフシチューを投げつけた。
そのビーフシチューは、隠形鬼に命中し。
「見えたで!」
ビーフシチューまみれになった隠形鬼は、その姿を晒すコトになった。
その姿は、筋肉が鎧のように発達した鬼。
素手なのは、武器を持ったら敵に存在がバレるからだろう。
だが、こうして姿さえ見えたら。
「ウキィ!」
猿が教えてくれる急所を外したりしない。
「往生せぇや!」
モカは弱点にヤマセミロングを叩き込み。
「がはぁ……」
隠形鬼は急所を貫かれて、地面に崩れ落ちたのだった。
そして最後にピクンと震えると、隠形鬼は絶命したらしい。
「やったで! レベルが110になったで」
経験値1000万を手に入れて、モカが飛び上がった。
「ええなぁ。1匹倒すたんびにレベルが5つもアップするなんて、ウチは幸せモンやでぇ」
シミジミと呟いているモカに、一応釘を刺しておく。
「でもモカ。コイツ等は手ごわいけど中ボスですらない。気を抜くなよ」
「もちろん分かってるで、ロックにぃ。心配無用や」
「あと、レベル110からレベル120までは、1レベルアップに必要な経験値は300万になるから、次に1匹倒してもレベルは3しか上がらないぞ」
「そうなん? ちぇ、そらつまらへんな。ちゅうても、3つもレベルアップするんなら、十分に有難いで」
モカはニカッと笑うと、再び歩き出す。
そして見えてきたのは深い森だ。
太さ5メートル、樹高100メートルもある木々が立ち並んでいる。
「不意打ちにゃあ、持って来いの地形やな。木の影やら頭上から突然襲い掛かってこられたら、かなり厄介やで」
モカはそう呟くと。
「犬! 猿! 雉! しっかり警戒するんやで!」
「わん!」
「うき!」
「けん!」
一声吠えて犬・猿・雉が駆け出す。
確かによい斥候だな。
これなら奇襲を食らう事はないだろう。
と言いたいトコだけど。
バクン。
突然、地面が口を開け。
「シャァァァァ!」
鬼の顔をしたクモが襲い掛かってきた。
人を食らう異形の鬼、土蜘蛛だ。
体長は2メートル。
と言ったらそれほど大きく感じないかもしれない。
でもクモの体長は、頭から腹までで、足の長さは含まれない。
そして土蜘蛛の足の長さは2メートルを超えている。
だから足先から足先までのサイズは、左右で7メートルほど。
前後は8メートルほど。
しかもクモの体の不気味さも加わって、とてつもなく大きく見える。
俺がプログラムしたんだから分かってたけど、凄いインパクトだ。
しかし普通なら、こんな巨大な敵に気が付かない筈がないのだが。
「ち! 気配遮断のスキルかいな!」
モカが呟いたように土蜘蛛は気配遮断のスキルを持っている。
犬・猿・雉が探知できなかったのも無理ない。
でも奇襲を受けてしまったのは事実。
さあモカ、どう対処する?
ちなみに土蜘蛛のステータスは。
レベル 3200
経験値 1500万
攻撃力 30万
防御力 27万
備考 斬糸 操糸 猛毒攻撃
となっている。
さっきの鬼よりズット手ごわいぞ、モカ。
さあ、どう戦う?
でも無理はしないようにな。
……何時でも助けに入れるように、準備をしておくか。
2023 オオネ サクヤⒸ




