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   第五十七話  子供が何か言ってるぞ





 モカは犬・猿・雉をレンタルすると。


「ロックにぃ! 鬼が島攻略の必須アイテムを手に入れたで!」


 嬉しそうに、俺のもとに駆け戻ってきた。


「よっしゃ、これでダンジョントライできるで!」


 駆けだそうとするモカに、俺は敢えて質問してみる。


「本当に大丈夫か? 見落としたモノや、他にも用意するモンはないか?」

「大丈夫や! モモタローは犬・猿・雉をお供にして鬼退治したんや! その犬と猿と雉を手に入れたんやさかい、ダンジョンクリア間違いなしや! それにマジックバックには食料と、作り溜めた呪符や特効薬がタップリ入っとる。何の心配もあらへんで!」


 胸を張るモカに、俺は心の中で溜め息をついた後。


「今回はモカの挑戦だ。モカだけでダンジョン「鬼が島」を攻略してみろ」


 俺はそう言って、モカの頭にポンと手を乗せる。


「失敗しても俺が何とかするから、思いっきりやってみろ。でも、本気で1人でクリアするつもりでな」

「もちろんや!」


 ニカッと笑うモカに、俺は言って聞かす。


「でも、聞き込みに時間がかかったから、もう夕方だ。ダンジョントライは明日にするぞ」

「せやな。わざわざ暗くなる時間にダンジョントライを始める必要ないもんな。分かったでロックにぃ。今日んトコはユックリ休んで、明日の朝1番でSS級ダンジョン「鬼が島」に挑戦や!」


 こうして俺とモカは宿屋で一泊し。

 翌朝、鬼が島へと向かう為、船着き場に向かった。


 ところで今さらだけど。

「鬼が島」は、鬼風呂と呼ばれる大きな湖に浮かんでいる島だ。

 切り立った台地のような形をしていて、入り口は1ヶ所のみ。

 船着き場から台地上部に続く、長い階段だけだ。

 階段を上った先には大きな鳥居が立っている。

 その鳥居を一歩潜ると、もうダンジョン「鬼が島」。

 何が起こっても不思議じゃない、SS級ダンジョンだ。


 ちなみにSS級ダンジョンとは、出現するモンスターがSS級というコト。

 つまりモンスターのレベルは1000から9999。

 S級冒険者でも簡単に命を落とすレベルのダンジョンだ。

 縦5キロ、横6・5キロほどの島全体がダンジョンとなっている。

 俺とモカは今、そんな「鬼が島」の鳥居の前に立っていた。


「ほならロックにぃ。ウチのダンジョンクリア、シッカリ見届けてな」


 モカが俺に大声でそう言うと。


「くくくく」

「子供が何か言ってるぞ」


 嘲りの笑いが巻き起こった。

 一緒に「鬼が島」に上陸した冒険者たちだ。

 SS級ダンジョンに挑むだけあって、腕に自信があるみたいだな。

 ま、限界突破(Lv1)を取得した者が、次に求めるのが限界突破Lv2。

 つまり限界突破してるんだから、モカを見くびるのも当然かも。


 とはいえモカの戦闘力に気付けない時点で「鬼ヶ島」クリアは無理だろうな。

 でも。


「おいおい、誰か止めてやれよ、死んじまうぞ」

「しかし冒険者は全て自己責任。トライするというなら仕方ないさ」

「でもよ。頑張るのと無茶は違うって教えてやるのも先輩の務めだろ?」

「その通り。未来ある若者を救ってやろうではないか」


 冒険者たちはヒソヒソと相談すると、その中の1人が。


「お嬢さん。悪い事は言わない。あと10年、最低でも5年修行してからトライした方が良い。きっと自信があるからトライするのだと思うが、転生者でもお嬢さんの歳で「鬼が島」にトライできる強さに至れるものではないのだから」


 穏やかな顔で、モカに語り掛けてくれた。

 騎士らしき装備に身を固めた、穏やかな顔の冒険者だ。

 が、柔らかな空気を身に纏いながらも動きに隙が無い。

 さすがS級冒険者ってトコかな。


 これが低レベルの冒険者だったら、絡んでくるモノもいただろう。

 子供はすっこんでろ、と凄まれたかもしれない。

 いや、殴り掛かって来る冒険者だっているハズだ。


 でも、ならず者じゃあ限界突破に辿り着くコトは難しい。

 協力、手助け、援助、情報提供など、人からの助け無しでは、ほぼ不可能だ。

 つまり人に迷惑をかけるような冒険者はS級になれない。

 だから、ここにいる冒険者がそれなりに紳士的なのは当然といえる。


「お嬢さん。私の顔を立てて、ここは引き下がってくれないだろうか」


 しかもモカみたいな子供が意地を張らないように、頭まで下げてくれた。

 なら、こちらも礼儀をわきまえた行動をしないとな。

 というコトで俺は。


「こんな小さな子のプライドまで考えてくれて、ありがとうございます」


 まず、騎士らしき冒険者に、深々と頭を下げた。


「でも、ご心配には及びません。もし不安があるなら、この子とボクを鑑定してもらって構いませんので」

「そうか。勝手に人を鑑定するのは礼儀に反するから行わなかったが、なら遠慮なく鑑定させてもらおう」


 そして騎士らしき冒険者は鑑定を発動させたらしい。


「な、なんだとぉ!!」


 目を見開いたのだった。


「転生者ではないのに、僅か12歳で限界突破を持ち主だと!? しかも何だ、この基礎ステータスの高さは! 全部8万をこえているではないか!」


 騎士の大声に、他の冒険者もモカを鑑定したのだろう。


「おい! この子の攻撃力、俺より高いぞ!」

「防御力もワタシと殆ど同じよ!」

「しかも、なんだ、この攻撃スキル!」

「強手裏剣に呪符なんて聞いた事ないぞ」

「回復スキルもとんでもないぞ。甲賀の特効薬、とんでもない!」


 大声で騒ぎ出した。

 が、中の1人が俺を鑑定したらしい。


「げぇえええええ!!!」


 俺を指さした、絶叫した。


「おい、どうしたんだ?」

「何よ、いきなり大声出して」


 冷たい目を向ける冒険者達に、絶叫した冒険者が叫ぶ。


「オマエ等も鑑定したら分かるよ!」

「ふう、なんだと言うのだ」

「ま、本人の許可があるから、鑑定してみるけど……」


 他の冒険者たちも俺に鑑定を発動させた。

 その瞬間。


『なにィいいいいいいい!!!!!!』


 魂の叫びが『鬼が島』じゅうに響き渡った。


「なななな、なにコレ!?」

「攻撃力が2000万を超えてる!?」

「オレより遥かに上ぇえええ!?」

「S級どころじゃないぞ!?」


 冒険者たちは。しばらく大騒ぎしていたが、ふと我に返ると。


「子ども扱いして、すまなかった」

「ダンジョントライに十分な実力だ」

「悪かったな」

「許してくれ」


 俺とモカに頭を下げてきた。


「いえいえ、皆さんがモカを心配してくれたのは、ちゃんと分かっています。言いにくい事を言ってくれて、ありがとうございます」


 俺が頭を下げ返すと、冒険者たちは穏やかな笑みを浮かべる。

 そして。


「そうか、なら俺達は正式にライバルだな」

「でも負けないわよ」

「限界突破Lv2を手に入れるのは譲れないからな」

「お互い、頑張ろう」

「凄いステータスですが、それでも気を付けて」


 俺とモカに笑いかけてから、鳥居をくぐっていった。

 うん、S級冒険者って、気持ちの良い人ばかりだな。








2023 オオネ サクヤⒸ

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