第五十六話 犬・猿・雉を手に入れたでぇ!
ダンジョン「鬼が島」。
限界突破してる俺が、更に強くなる為にトライを決めたダンジョンだ。
ここでは、スキル『限界突破Lv2』と強力な防具が手に入る。
もちろんモカの武器も手に入れておく予定だ。
しかし当然ながら難易度はとてつもなく高く、クリアした者は数えるほど。
何の準備もしないでトライしたら、S級冒険者ですら命を落とす。
だから情報収集と重要アイテムの入手が成功の鍵となる。
その第一歩の段階で。
「……重要なんは犬と猿と雉を味方にするコトかいな? せやけど犬はエエとして猿や雉なんぞ、何処で手に入れるんや?」
早速モカは、考え込んでいた。
が、そこはまだ12歳の女の子。
「とりあえず犬を手に入れてから考えたらエエか!」
そう叫ぶと、通りに見回す。
と、その視線がペットショップで止まった。
「へえ、ペットショップかいな。京の街にも何件かあったけど、ダンジョン前の街にペットショップなんちゅうモンがあるんは不自然やな。ちゅうコトは、きっと何かあるハズや」
モカはそう呟くと、ペットショップに飛び込む。
「おお、おるやないか、犬だけやのうて、猿に雉も! よっしゃ、おっちゃん!」
モカが目をキラキラさせながら店主に大声を上げた瞬間、カタまった。
「お、おっちゃん……いうたら……アカンよな?」
モカの視線の先にいるのは身長2メートルを超える巨漢。
岩石を削岩機で削ったような顔に、切り株のような首。
服の上からでも分かる分厚い胸筋に、ブロックを積み上げたような腹筋。
バスケットボールサイズの肩から伸びる、丸太のような腕。
青行灯さえ殴り殺せそうな、ゴツい拳。
でもピンクのフリフリのドレスを着ている。
インパクトならSSS級を超える人物だった。
「あらぁん、当然じゃないィ。体は男でも、心は乙女なんだからぁ」
ハイ、誰でも分かりますよね、この人物、オネェです。
「ア・タ・シはリードぉ。このペットショップ『あやかし』の店長よぉン」
モカは暫くフリーズしていたが、何とか自分を取り戻したらしい。
ゴクリと喉を鳴らすと。
「ほ、ほならリ、リードはん、売って欲しいモンがあるんやけど」
何とか、そう切り出した。
しかし、そんなモカに。
「あらあら、リードはんって呼び方はナシよォん。確かに見た目はちょっとだけ男っぽいけどォ、アタシの心は乙女なんだからァ、ミス=リードって呼んでねェ。リードはんなんて呼び方じゃあ、何も売ってあげないんだからァ」
ちょっと?
そう聞き返したいのを渾身の力を振り絞って耐えまくり。
「ミ、ミス=リードはん、犬と猿と雉を売って貰えへんやろか?」
モカは、辛うじて言葉を口にした。
「まあ、その呼び方で手を打とうかしらァ。でもお嬢ちゃんが「鬼が島」に挑戦するォ? やめといた方がイイわよォ、「鬼が島」はカンストしたS級冒険者が挑むダンジョンなんだものォ。お嬢ちゃんじゃ命を落としちゃうわよォ」
心配そうな顔のミス=リードに、モカがフンと鼻を鳴らす。
「ミス=リードはん。鑑定スキル、持っとるかいな?」
「そりゃSS級ダンジョン前の街に店を出しているくらいだからァ、鑑定くらいもってるけどぉ……」
言葉を濁すミス=リードにモカが胸を張る。
「ならウチを鑑定してぇや。そしたら命を落とすかどうか分かるさかい」
「なら鑑定させてもらうけどォ……」
そこまで言ったトコでモカのステータスを確認したのだろう。
「ええええええええええええ!!」
ミス=リードは目を見開いた。
「うわ、ビックリした! で、どうやねんミス=リード。ウチには命を落としてまう程度の実力しかあらへんか?」
「これは驚いわねェ。今まで見た冒険者の中で、飛び抜けたステータスよん。分かったわァん、喜んで売らせてもらうわァ」
態度をコロッと変えたミス=リードに、モカがニカッと笑う。
「ほならこの店で1番エエ、犬・猿・雉を頼むわ」
「任せてェん。最高の訓練を受けたヤツを用意するわァ」
そう言って店の奥に向かおうとするミス=リードを、モカが呼び止める。
「ちょい待ってぇや。で、その犬・猿・雉は何の役に立つんや?」
「それを知らずに買いに来たのォ? 驚いたお嬢ちゃんねェ」
ミス=リードは呆れながらも説明を始める。
「鬼が島の事で分かっている事は、そう多くないのォ。トライした者の多くは帰ってこないか、途中で断念するかだからよォん」
「せやけど、成功したモンもおるんやろ? そいつらに聞けばエエやん」
モカの質問に、店主が笑う。
「そんな事、教えてくれるワケがないじゃなァい? もしお嬢ちゃんがクリアしたとして、赤の他人に教えるゥ? 自分が強くなった方法を」
「そらそうやな。教えるワケあらへんな」
「そうでしょォ? だから入り口近くの事は知れ渡っているんだけどォ、奥に行けば行くほど情報は少なくなるのォ。そして分かってる範囲じゃあ犬・猿・雉が有効なのよォ」
ミス=リードの話しによると。
鋼の肉体がどんな武器も跳ね返す、金鬼。
強風を操る、風鬼。
姿を消せる、隠形鬼。
これが3種類の鬼が、手ごわいらしい。
「猿には攻撃力は無いんだけどォ、引っ搔いて金鬼の弱点を教えてくれるのォ。なにしろポップする度、金鬼の弱点は違う場所になっちゃうのォ。だから遭遇する度に急所を探さないといけないから、猿はとても役に立つわァ。雉は風鬼が強風を操ろうとする瞬間を、鳴いて教えてくれるのォ。そして犬はァ、姿の見えない隠形鬼を匂いで発見してくれるのよォん」
「そうなんか。で、他に分かっとるコトはあるんかいな?」
「この店で分かる事は、これだけくらいよォん」
「そうかいな、おおきに。ほなら犬・猿・雉を売ってえな」
「あ、その事なんだけどォ、買い取りとレンタルの2種類あるんだけど、どっちにするのかしらァ?」
「レンタル? どういうこっちゃ?」
「あのね、犬も猿も雉も、鬼が島の鬼に対する訓練しか施してないのよォ。つまり鬼が島攻略にしか役に立たないってわけェ。買い取っても、鬼が島以外じゃ使い道は無いわよォ」
「だからレンタル、ちゅうワケかいな」
「正解よォ。殆どの人はレンタルするわねェ」
「じゃあウチもレンタルにするわ」
「はいはい、待っててねェ」
ミス=リードは店の奥へと向かうと、犬・猿・雉を連れて帰ってきた。
「最初に1週間分のレンタル料を払ってもらう決まりなのよォん。そしてダンジョントライが1週間を超えた場合、ダンジョンから帰って来た時に、1日計算で追加料を払ってもらうわァ。もちろん、虐待や捨て駒に使う事も禁止、無理な戦闘も禁止よォん。どうかしらァ?」
「ああ、それでエエわ」
モカは提示された料金を支払うと。
「よっしゃ! これで犬・猿・雉を手に入れたでぇ!」
天に向かって拳を突き上げた。
そうか、モカは犬と猿と雉をレンタルするコトにしたのか。
いろいろ言いたいコトはあるケド、まあ、もう少し見守るか。
2023 オオネ サクヤⒸ




