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   第四十八話  美味そうだな





 100本のロウソクを用意する。

 そして怪談を語る度に、ロウソクを吹き消していく。

 こうして100本目のロウソクを吹き消した時、妖怪が現れる。

 妖怪の名は青行灯あおあんどん

 最強、最恐、最凶、最狂、最脅の妖怪だ。


「って、ネタでプログラムした設定が、まさかココで!?」


 思わず叫んだ俺の目の前で、とんでもない妖気が収束。

 1匹の妖怪へと姿を変えた。


 身に纏うのは白装束。

 手に持つのは、分厚い剣鉈。

 腰まで伸びた、ボサボサの髪。

 6本の角が伸びた、凶悪な鬼の顔。

 間違いない、青行灯だ。


 くそ、やっぱり百物語だったか。


 妖怪が何かを呟いて消える。

 これで怪談を1つ、語ったコトになるのだろう。

 そしてふっ消し婆がロウソクを吹き消す。

 これを100回繰り返したら、百物語が成立。

 設定通り、青行灯が出現した、というワケだ。


 青行灯の身長は2メートルほど。

 妖怪としては、それほど大きい方じゃない。

 でも、大量の妖気を取り込んだからだろう。

 もの凄い妖気を身に纏っている。

 ためしに鑑定してみると。


 青行灯

 レベル     7500

 基礎攻撃力    80万

 防御力      80万

 装備武器    200万(極鬼包丁)

 経験値    8000万

 備考     限界突破Lv2


「うわ、限界突破してるよ! しかもLv2って!」


 俺は思わず声を出してしまった。

 青行灯は限界突破Lv2により、SS級の戦闘力を持っている。

 つまり冒険者ギルドの切り札=高位堕天使に匹敵する強さだ。


 そんな設定をプラグラムしたツモリはない。

 でも青行灯が出現したのは、俺のプログラムが原因だ。

 クソ! やっぱりリアルだと、思いもしなかった事が起こりやがる。


 しかし何度見ても、とんでもないステータスだ。

 普通の冒険者なら鑑定した瞬間、心をへし折られている。

 あ、グラッグさんも青行灯を鑑定したみたい。

 青い顔で呟いている。


「なんてステータスだ。やはり大量の妖気を取り込んだからか?」

「それともベールゼブブの力をも取り込んだのか?」


 そう言うムサシさんの顔も青い。

 2人とも理解しているのだろう。

 どうやったって勝てないと。

 その、どうやったって勝てない妖怪が。


「ふしゅぅううううう」


 鉄すら溶かしそうな、熱い息を吐くと。


「うむ、ご苦労」


 ふっ消し婆に声をかけた。

 どうやら自分がどうやって出現したか理解してるらしい。


「いやいや。このままでは儂らは全員、人間に浄化されてしまうでの。せめて一矢報いようと、百物語りを行って其方様を出現させましたじゃ。全滅された百鬼夜行の無念を晴らしてくだされ」

「よかろう」


 青行灯はそう答えると、空を仰ぎ、大きく息を知ってから。


「ふしゅううううううう」


 もう1度、灼熱の息を吐く。


「はぁぁぁぁ。久しぶりだな、この世に出現するのは。あまりに久しぶりで、飢えが抑えきれないぞ」


 青行灯はそう言うと、俺とモカに凶悪な目を向けてき。


「ふむ、肉が柔らかそうな児童と女児か。美味そうだな。久しぶりの食事にしては悪くない」


 うわ、俺とモカを食べる気満々だよ!

 って、そう簡単に食べれると思うなよ!

 力の限り、戦ってやる!

 と、気合を入れる俺の前に。


「オレが生きている間は、子供に手を出させん!」

「そのセリフは、我らを倒してからにしてもらおう」


 グラッグさんとムサシさんが立ち塞がった。

 本気で言っている事が、ヒシヒシと伝わってくる。

 マジで、俺とモカの為に命を懸ける気だ。


 でもダメだ。

 言っちゃ悪いけど、グラッグさんとムサシさんに勝ち目はない。


「グラッグさん、ムサシさん……」


 俺は何かを口にしないといけないと思うが、言葉が出てこない。

 このままじゃグラッグさんとムサシさんが死んでしまう。

 なら、逃げる事に全力を傾けて欲しい。

 青行灯とは、俺が戦うから。


 絶対に勝てるとは、とても言えない。

 でも可能性はあると思う。

 だから俺は渾身の力を振り絞って、青行灯と戦ってみせる!


 しかし今更だけど、心の底から思う。

 最強ルートは知ってるんだから、サッサと強くなってれば良かった! と。

 次の強化イベントをクリアしてたら、青行灯なんて瞬殺だったのに。


 なんて後悔しても、もう遅いよね。

 とはいえ、負けると決まったワケじゃない。

 勝てる可能性はある。

 だから青行灯とは俺が戦い、グラッグさんとムサシさんには逃げてもらおう。

 と、何とか考えをまとめ、そう言おうとしたトコで。


「ロック、そんな顔するな」


 想いを口にする前に、グラッグさんにそう言われてしまった。


「よく聞くんだ、ロック。俺たちがロックとモカを見捨てて逃げるなんて事は、絶対に無い。ステータスで負けてるから子供を見捨てて逃げるなんて見っとも無い事なんか、死んでもするものか」


 漢の笑みを浮かべるグラッグさんに続いて。


「その通りだ。とはいえ、俺たちに任せておけと言えるほど自惚れてはおらん。だからこう言おう。ロックよ、命尽きるまで一緒に戦ってくれ。ただし、お前が死ぬとしたら、ワシとグラッグが討ち死にした後だ」


 ムサシさんも、死を覚悟した笑みを俺に向けた。


 う……なんだか泣きそう。

 いや、もう俺、泣いているかも。


 でも、覚悟が決まった。

 グラッグさんとムサシさんは、一緒に死ぬと言ってくれた。

 なら、その心意気に答えて死力を尽くす。

 そしてグラッグさんとムサシさんと一緒に、勝利を掴んで見せる!


 だから俺は。


「モカ。俺たちは、アイツと戦うから、もしダメージを受けたら、甲賀の特効薬で回復してくれ」


 モカに回復を頼むと。


「グラッグさん! ムサシさん! 勝ちに行きますよ!」


 俺は、人生最大の決意を叫んだのだった。








2023 オオネ サクヤⒸ

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