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   第四十七話  何がしたいんだ?





「はぁ~~、もう限界」


 俺は作業台に突っ伏した。

 オリジナルの呪符を作るには、ⅯPが必要となる。

 でも『錬成』によるコピーには、ⅯPは不要。

 気力と体力が続く限り、量産できる。


 逆に言えば『錬成』で呪符をコピーすると、気力と体力が削られる。

 だから大量の呪符を作りあげた俺は。


「1万枚より先は覚えていない……」


 どこかの羅将みたいなセリフを口にするほど、疲れてた。

 今日のトコは、これくらいでイイよね?

 というコトで作った呪符をマジックバッグに収納すると。


 劣化版金剛夜叉明王撃 15389枚


 と表示された。


 うわ、疲れるワケだよ!

 1万枚どころか1万5千枚を超えてるじゃん!

 でも、これだけ作れば数日は作る必要無いんじゃないかな。

 ひょっとしたら1週間くらい作らなくていいかも。

 と、疲れで鉛の様に重くなった俺の思考回路が呟いたところで。


「お! ロック、ムサシ、これを見てくれ!」


 繰り度に駆けこんできたグラッグさんが、妖気カウンターを差し出した。

 そこに表示された数値は22753892。

 なんと1000万以上も、妖気が減少していた。


「今日1日で消費した呪符の数は、確か3000枚だったな。ならばさっき作った呪符があれば、残りの妖気も消滅させる事が出来そうだな」


 ムサシさんの呟きに、グラッグさんがホッとした顔で頷く。


「その通り。この調子で妖怪を退治せていけば、数日で問題解決だ」


 グラッグさんは、そう言った直後。


「ムサシ! ロック!」


 それだけ言って、戦士の顔になった。

 同時にムサシさんの体から闘気が立ち昇る。

 ギルド前の道路に何十という妖怪が押し寄せているからだ。


 え? どうして分かったかって?

『千里眼』と『存在把握』を常時発動させてるからだよ。

 おっと、モカも妖怪の気配に気づいたらしい。

 さっきまで眠そうにしてたのに、キリッとした顔になってる。


「で、どうする?」


 という、ムサシさんの簡潔な問いに、グラッグさんが即答する。


「もちろん、蹴散らかす」

「承知!」


 あ、ムサシさんがギルドを飛び出した!

 って、グラッグさんも既に駆けだしてる。

 どうせ出現する妖怪はレベルが低いヤツばっかりだし2人に任せておこう。


 ……というワケにはいかないよね、やっぱり。

 俺は劣化版金剛夜叉明王撃の呪符1万枚をマジックバックから取り出すと。


「これをマジックバッグに入れておくんだ」


 モカに手渡した。


「うん!」


 俺はモカが、呪符を自分のマジックバックに仕舞い込むのを確認してから。


「じゃあ俺たちも行こう」


 モカと一緒にギルドの外に向かう。

 と、そこではグラッグさんとムサシさんが戦闘態勢で固まってた。


「どうしたんです?」


 俺の質問に、グラッグさんが戦闘態勢のまま答える。


「奴等がピクリとも動かないんだ。その上、殺気も戦意も感じない」


 グラッグさんの言う通り。

 ギルドの前の大通りに、何十という妖怪が並んでいる。

 ひょっとしたら100匹を超えるかも。

 でも、手に提灯を持って立っているだけ。

 襲い掛かって来るどころか、動く気配すらない。

 どういうコトなんだろう?


 でも提灯を持って動かない妖怪って不気味だな。

 提灯の中でロウソクの火が揺れてるからだろう。

 不規則に揺れる灯りに浮かび上がる妖怪は、余計に不気味に感じる。


 と、そこで妖怪に動きが。

 といっても、1匹の妖怪が、提灯を地面に置いただけ。

 しかも。


「……」


 何かを呟いたかと思ったら、そのまま消えていってしまった。


「何だ? 何がしたいんだ?」


 グラッグさんの呟きだけが響く中、提灯の近くにいた妖怪が。


「ふっ」


 提灯のロウソクを吹き消した。

 ひょっとして、アイツが妖怪「ふっ消し婆」だろうか?


 でも、そんなコトする意味が分からない。

 いや、妖怪の行動に意味を求める方がおかしいのかな?

 トイレを覗く妖怪や、天井を舐める妖怪だっているんだから。

 なんて俺が考えている間にも。


「……」


 妖怪が何かを呟いてから、提灯を地面に置いて消えて行き。


「ふっ」


 ふっ消し婆(?)がロウソクを吹き消していく。

 それが5回、繰り返されたトコロで。


「ムサシ、どう思う?」


 グラッグさんがムサシさんに低い声で尋ねた。


「全く意図が読めないな。何かの企みだとしても、意図が読めない。攻撃した方が良いのか、それとも攻撃をしたら取り返しのつかない事態になるのか。攻撃を誘っているのか、それとも別の意味があるのか。動くべきか、動かざるべきか。全く判断がつかん」


 ムサシさんが、そう言う間も妖怪が消えて行き、ロウソクが吹き消されていく。


「どうする? 斬り込めと言うなら斬り込むが」


 ムサシさんの問いに、グラッグさんが迷った末、答える。


「今のところ、事態が悪化する兆しはない。妖怪の意図が分からない以上、見守るしかないだろう。が、戦えるものを可能な限り招集してくれ。何かが起こった時に備えて」

「承知」


 ムサシさんは、そう答えるとギルドに駆け込んだ。

 そして数分後、ムサシさんは戻ってくると。


「備部門に所属する全員を招集した。連絡が取れる冒険者全員にもな。もちろんギルドも最高レベルの警戒態勢に入っている。後はギルドマスターの命令次第という所だな」


 とグラッグさんに報告した。

 そのムサシさんが戻って来るまでの間も。


「……」


 妖怪は何かを呟き、提灯を地面に置いて消えていき。


「ふっ」


 ふっ消し婆がロウソクを吹き消していってる。

 これをいつまで続けるつもりなんだろ?

 何が目的なんだろ?

 と、俺が悩んでいると。


「あ、今ので99本目だ」


 モカが吹き消されたロウソクを指さした。

 へえ、いつの間にか99回も繰り返してたのか。

 ……99回?

 そ、それってまさか!


「グラッグさん、マズい! 百物語です!」


 俺は叫ぶと同時に攻撃を仕掛けようとしたが。


「ふっ」


 100本目のロウソクが吹き消され。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 とんでもない圧と量の妖気が渦巻いたのだった。









2023 オオネ サクヤⒸ

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