第四十三話 ギルドマスターとして感謝する
「とりあえず冒険者に依頼を出して、都の見回りを強化する。ムサシ、警備部門と冒険者の連携をしっかり頼む」
「分かった。で、問題の調査はどうする?」
「第1班が戻ったら、そのまま銭湯に直行させてくれ。どうして妖怪が出現したのか、念入りに調べるんだ」
このグラッグさんの言葉で、俺は思い出す。
「あ、グラッグさん。退治した天井下がりも調べますか? マジックバックに入れてますけど」
「頼む」
グラッグさんは、俺が取り出した天井下がりを素材買取部門に持っていくと。
「くわしく調べてくれ。普通の妖怪と違う所が無いか、特に念入りにな」
そう指示を出してから、俺に向かい直った。
「ロック、何度も手間を駆けさせてすまないな。流石にまた、都の中で妖怪と遭遇するコトはないと思いたいが、何の根拠もない希望にすがるワケにはいかん。油断せず、もし妖怪を見かけたら、人々を守ってやってくれないか?」
「当然です。出来る限りのコトはしますよ」
俺の返事に、グラッグさんが頭を下げる。
「ギルドマスターとして感謝する」
相手が子供でも、ちゃんと礼を尽くすトコがグラッグさんの凄いトコだな。
やっぱグラッグさんは、素晴らしいギルドマスターだ。
なら俺も、全力でグラッグさんの手伝いをしよう。
と俺が決心してると。
ギニャァァァァァァァァァ!
外から猫の鳴き声みたいなモノが聞こえてきた。
みたいなモノと言ったのは、猫にしては、あまりにも大きく凶悪だったから。
だから俺は。
ダダダダダダダダ!
瞬時に駆け出したグラッグさんの後を追って、外に飛び出した。
と同時に、眼に入ってきたのは。
フシャァアアアア!
尻尾が2本ある、虎サイズの猫=猫又だった。
直ぐに鑑定してみると。
猫又
レベル 3
HP 110
攻撃力 105
防御力 90
経験値 6
俺にとって、取るに足らない妖怪だった。
でも普通の人にとって、攻撃力105は脅威。
1噛みで命を奪われてしまう。
しかしグラッグさんにとっては、猫又なんて只の雑魚。
「ふん!」
無造作に放った拳の1撃で猫又は消滅させた。
のだが、驚きの光景は、これからだった。
ギニャァアアアアアアア!
道端にいた猫の尻尾が2つに割れ、メリメリと音を立てて巨大化する。
しかも1匹じゃない。
ギニャァァァァァァァ!
フシャァアアアア!
フ――――――ッ!
通りかかった猫が、ドンドン猫又に変わっていく。
「これってひょっとして、普通の猫に化けて結界を突破した?」
俺は思わず呟く。
結界が遮断するのは妖怪だけで、人間や家畜は影響を受けない。
それを逆に利用されたのだろうか?
と、そこで。
「ロック!」
グラッグさんが大声を出した。
うん、分かってる。
ちゃんと『千里眼』で見えてるから。
というコトで、俺が瞬間移動すると。
ズドォン!
俺が立ってたトコに何かが落下して、地面を砕いた。
直ぐ鑑定。
おとろし
レベル 9
HP 410
攻撃力 230
防御力 190
経験値 52
見た目は、長い髪に包まれた、大きな首。
口からは長い牙が伸び、髪の隙間から鋭い爪が覗いている。
でも、大した妖怪じゃない。
俺もモカも、直撃されたって何のダメージも受けないだろう。
しかし普通の人だったら即死間違いなし。
だから俺は。
シュパ!
ヤマセミロングを一閃させて、おとろしの頭を真っ二つにした。
だけど何で街中に出現したんだろ?
おとろしは神社にいる妖怪だった筈なのに。
いや、それだけじゃない。
おちついて考えてみたら、猫に姿を変えてたとしても猫又は猫又。
結界を超えられる筈がない。
というコトは、普通の猫が猫又に変化した、というコトになる。
でもそんな現象、俺はプログラムしていない。
どういうコトなんだ?
と考え込む俺の肩に、グラッグさんが手を置く。
「ロック。もし妖怪を見かけたら、なんて呑気な事態じゃなさそうだ。すまないが京の都を巡回して妖怪を見つけ次第、駆除してくれないか? これはギルドからの正式な依頼だ。俺も一緒に行きたいが、一刻も早く冒険者を招集して指揮を執らなきゃならん。たった1人で行ってもらう事になってしまうが、この依頼、受けてもらえないだろうか」
「受けます」
俺は即答すると。
「じゃあ、街を見て回ります。でも1人じゃありません。モカと2人です。じゃあ行こうか、モカ」
「うん!」
モカと連れて、駆けだす。
「おい、ロック! その嬢ちゃんは置いてった方がイイんじゃないか!?」
慌てるグラッグさんに、俺は笑顔で返す。
「心配してくれてありがとうございます。でもモカの基礎ステータスは全部3万超えですから安心してください」
「3万!? そ、その子の基礎ステータス、そんなに高いのか? って限界突破してるじゃねェか!?」
「はい、さっきクリアしたイベントのお陰でパワーアップしました」
「5歳児が限界突破するイベントって、どんなイベントだよ、って、そりゃあ詮索無用の案件だったな。ま、限界突破してるんなら、俺が心配する必要ないな。モカちゃんよ、この街の皆守ってをやってくれるかい?」
「うん!」
俺は、元気よく頷くモカを肩車すると。
「じゃあグラッグさん。見回り、行ってきます」
そう言って、今度こそ走り出した。
「頼む! 恩に着るぞ!」
というグラッグさんの声を背中で聞きながら。
2023 オオネ サクヤⒸ




