表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/210

   第四十二話  さて、どうしたものか





 京の都に造られた銭湯は、かなり大きかった。

 1度に200人が入れそうなくらい広い。


「すご~~い」


 モカなんか、銭湯を見回して目を丸くしている。

 今の時間は昼の2時過ぎ。

 風呂に入るには、まだ早い事もあって、客は3人ほどしかいない。


「うわーい」

「まった」


 湯船に飛び込もうとしたモカを、俺は慌てて止める。


「いいか、モカ。湯船に入る前に、まず体を石鹸で綺麗に洗う。それが銭湯のルールなんだぞ」


 モカの体に桶で湯をかけ、石鹸で泡立てたタオルで洗ってやる。


「じゃあモカも~~」


 お返しにモカが背中を流してくれた。

 そして、湯に肩まで浸かる。

 ああ、やっぱり風呂はサイコーだ。


「はぁ~~、良きかなぁ~~」


 なんて、どこかで聞いたようなセリフが自然と出てしまう。


「きゃはははは」


 俺の周囲で、モカがバシャバシャと泳いでる。

 マナー違反なんだけど、他の人とは離れてるから、これくらいイイよね?

 でも後で、ホントは泳いじゃダメって教えておかないとな。

 なんて考えながら、俺は湯船を淵に頭を乗せて、体を湯船に浮かべる。


「はぁ~~、良きかなぁ~~」


 思わず、もう1度、どっかで聞いたセリフを漏らしてしまうが、そこで。


「あれ?」


 今、急に天井に小さな穴が出現しなかったか?

 湯気で曇ってるから、見間違いかな?

 気のせいかな? 


 と思った瞬間、小さかった穴がグワッと大きくなり。


「けほほほほほほほほ!」


 奇妙な笑い声と共に、天井の穴から妖怪が現れた。


 醜い顔に長い体、そして体よりズッと長い手。 

 妖怪、天井下がりだ。

 人を驚かせるだけの、迷惑なだけの妖怪だ。


 すくなくとも、俺はそうプログラムした筈なんだけど。


 キュッ。


 天井下がりは銭湯の客の首に手を巻き付け。


 ゴキン。


「ぎゃ」


 いきなり首をへし折りやがった。


 おいおい、そんな狂暴な妖怪にプログラムした覚えはないぞ!

 と、俺が驚いてると。


「けほほほほほほほほ!」


 2匹目の天井下がりが出現し、俺に手を伸ばしてきた。


 ヤバい。

 ここは銭湯の中、つまり何も身に付けてない。

 つまり武器も防具も無い。

 マジックバックから取り出しても、装備する時間なんかない。

 絶体絶命の場面だ。


 といいたいけど、天井下がり程度の妖怪なんか素手で十分だ。

 でも、せっかくだからスキル『究極の忍者』を使ってみるか。

 前にも言ったけど、今まで覚えた忍者スキルは全て使用可能。

 けど、それ以外に『究極の忍者』固有の能力がある。

 まだ使ったコト無かったから、ここで試しておこう。


 というコトで、一時的に鬼王のステータスを手に入れる「鬼王降し」を発動。

 天井下がりを殴りつけ……ようとして、気が変わった。


 やっぱ鬼王の力は絶大過ぎる。

 本気で攻撃を放ったら、銭湯ごと吹き飛びそうな気がする。

 だから、とりあえずデコピンをカマしてみるか。

 ま、失敗しても俺のステータスなら攻撃されても平気だし。


 とはいえ、天井下がりの頭は、当然ながら天井の近く。

 手を伸ばしても、届く高さじゃない。

 なので俺はヒョイと飛び上がると。


「えい」


 ぴん。


 1割くらいの力で、天井下がりの額にデコピンをカマした。


 うん、ホントに1割以下の力しか出してないんだけど、その1撃で。


 ビシャ!


 天井下がりの頭は、跡形もなく吹き飛んだ。

 そして頭を失った天井下がりは、2,3回揺れるとポトリと落ちてきた。


 うわ、このままじゃ天井下がりの死体が湯船に落下してしまう。

 そうなったら、せっかくのお湯を入れ替えないとダメになる。

 それはあまりにも、もったいない。


 だから俺は天井下がりが湯船に落下する前にマジックバッグに収納した。

 そして。


「さて、もう1匹いたな」


 俺はそう呟きながら、もう1匹の天井下がりに向かってジャンプ。

 今度も1撃で倒すと、さっき同様マジックバッグに放り込んだ。


 はぁ、良かった、銭湯に大きな被害が出なくて。

 でも天井下がりに1人、殺されてしまった。

 急いでギルドに知らせないと。


 と俺は、モカと一緒に戦闘を飛び出して冒険者ギルドに駆け戻ると。


「グラッグさん、銭湯に妖怪が出て、人が1人、殺されてしまいました」


 まだムサシさんと相談しているグラッグさんに報告した。


「また妖怪が!?」


 グラッグさんが大声を出すが、そこに。


「結界魔道具を調べましたが、どこにも異常は見つかりませんでした」


 ギルドの職員さんが戻ってきて、困った顔でそう言った。


「結界担当の職員と2人でチェックしなのですが、結界魔道具は正常に作動しています。何度調べても、どうして妖怪に侵入を許したのか分かりません」

「くそ、理由不明か。どこか壊れていた方が、ずっと楽だな」


 グラッグさんの言う通り。

 壊れたトコがあったのなら、そこを修理したら問題は解決する。

 しかし異常が無いのなら、どうして妖怪が侵入できたのか不明のまま。

 このままじゃ、また妖怪による被害が発生してしまう。


 でも、ホントに何でだろ?

 結界は正常に作動してるのに、何で妖怪が出現するんだ?

 う~~ん、とりあえず情報を集めてみるか。


「ねえグラッグさん。その結界って、どのレベルまで有効なの?」

「レベル30くらいまでだな。ま、強さによって誤差はあるが」

「じゃあ鬼婆はともかく、天井下がりが侵入するのは当たり前ですよね?」


 天井下がりのレベルは40もある。

 強くはないけど、突然出現するのは、高度な技術だからだ。

 でもグラッグさんは、首を横に振った。


「いや、侵入阻止できるのはレベル30程度だが、どんな妖怪が侵入してもすぐ分かるように出来ているんだ。だからレベルに関係なく、妖怪が侵入したら直ぐに感知して冒険者を差し向ける事が出来るシステムになっている。つまり感知できなかった事が1番の問題なんだ」


 わ、たしかに問題だ。

 気が付いた時には甚大な被害が出てた、という恐れさえあるのだから。


「さて、どうしたものか」


 そう呟いたグラッグさんの顔は、困り果てていた。










2023 オオネ サクヤⒸ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ