第四十話 こ、こぇぇぇぇぇぇ!
ゲームのファイナルクエストじゃあ、食べ物の店は只の飾りだった。
街をそれらしく見せる為のディスプレイだった。
だってゲームの中じゃ、飲み食いなんてしないから。
でもリアルとなった、この世界では重大事案。
美味しい食べ物は、絶対に必要なものだ。
それに日本には、沢山の種類の美味しい食べ物屋さんがあった。
その味を覚えている以上、食べたくなるのは当たり前。
となると、その味を再現しようとする者が出て来るのは当然だ。
寿司、すき焼き、テンプラ、ウナギ、うどん、蕎麦などの和食系。
ラーメン、餃子、チャーハン、酢豚、肉団子、麻婆豆腐などの中華。
ステーキ、ハンバーグ、エビフライ、ビーフシチューなどの洋食系。
ハンバーガー、フライドチキン、牛丼などのファストフード系。
お好み焼き、ヤキソバ、たこ焼き、焼き鳥、焼き肉。
ポテトチップスにチョコレートにケーキ……。
どれも偶に、無性に食べたくなる食べ物だ。
これらが食べれない人生なんてありえない!(あくまで個人の感想です)
だから、この京の街にも様々な店が営業している。
和食の店、イタリアンの店、中華料理の店、洋食の店。
ピザの専門店、カレー専門店、弁当屋さん、焼き鳥の屋台。
どれも前世の記憶と魔法を駆使して、美味しさを追求した店ばかりだ。
この街で食べられないものなんて無いかも。
だからモカのリクエストのハンバーグだって、当然ある。
もちろんハンバーグが食べれる店は、1件だけじゃない。
リーズナブルな店、良い素材を使った高級店など様々だ。
というコトで俺は、京の都に到着すると同時に。
「モカ。さっそくゴハンを食べに行くか」
「うん!」
目を付けておいた洋食屋を目指す事にした。
店の名前はレンガ亭。
美味しいと有名な洋食屋だ。
普段は節約してるけど、たまには贅沢してみよう。
なにしろスキル『限界突破』を手に入れたお祝いなんだから。
あ、あれがレンガ亭か。
綺麗で清潔そうな、でも温かそうな店だな。
うん、美味しそうな雰囲気がプンプンしてる。
この店にして大正解みたいだ。
というワケで、レンガ亭の入り口を潜ると。
「あれ?」
店の中は真っ暗だった。
いや、真っ暗じゃないか。
照明が点いてないから、暗闇と感じただけ。
すぐにスキル『千里眼』が自動発動。
店内がハッキリと見渡せるようになった。
しかし視界はセピア色に染まっている。
真っ暗闇の中でも、昼と同じに見えた方が便利なのは間違いない。
でもそうなると、夜でも昼間と同じに見えてしまう。
昼と夜の区別が付かないのは、それはそれで困るコトも多い。
だからハッキリ見えるけど、暗いトコだと分かるようになっている。
俺がそうプログラムした。
おっと、話を戻そう。
セピア色の視界の中、最初に目に入ったのは、店の真ん中に立つ人影。
後ろを向いているので顔は分からないが、ボロボロの和服を来た人物だ。
ん? ここって高級店なんだよな?
なんで、こんなボロボロの服を着た人が?
いや、服装で差別するワケじゃないんだけど。
ってか、何でピクリとも動かないの、この人?
なんか不気味なんですけど。
ってビビッてても話が進まない。
ちょっと話しかけてみるか。
「あ、あのう……」
そう声をかけると、そのボロボロの和服の人物が振り返った。
って、ええええええええええええ!?
顔が老婆だけど、口から伸びているのは長い牙。
今さら気付いたけど、額からは2本の角が生えている。
目は吊り上がり、狂気を含んだ光を放っている。
そして右手に握ってるのは、大きな出刃包丁。
こ、こぇぇぇぇぇぇ!
いや、落ち着け俺!
スキル『究極の忍者』で強化された俺より強いハズはない。
見た目でビビってるんじゃない!
と、自分に言い聞かせたけど、見た目のインパクトありすぎ!
なんなの、コレ!?
あ、鑑定したらイイのか。
というコトで、慌てて鑑定してみると。
鬼婆
レベル 4
HP 150
攻撃力 140
防御力 105
人を食らう鬼女、鬼婆だった。
そういや、そんな妖怪もプログラムしてたっけ。
見た目のインパクトが余りにも大きくて気付かなかったわ。
って、それどころじゃないみたい。
今になって大変なコトに気付いた。
店の中は血の海で、沢山の人が倒れている事に。
視界がセピア色なので、気が付くのが遅れてしまった。
もっともっとスキルを使い込ませるようにならないといけないな。
なんて反省してる場合じゃない。
倒れている人になかには、まだ生きている人がいるかもしれない。
だとしたら、サッサと鬼婆を倒して、助けないと。
と、俺が考えた瞬間。
「ひゃぁあああああ!」
鬼婆が気味の悪い声で絶叫しながら、襲い掛かって来た。
「うわ!」
例えは悪いが、ゴキブリと一緒。
いきなり飛び掛かってこられたので、反射的に声を出してしまった。
いやいや、落ち着け俺!
しょせんは防御力105の妖怪だ。
その気になったら、瞬殺できる相手だろ。
俺はなんとか平静を取り戻すと。
「ふぅううううう」
大きく息を吐き、戦闘態勢を取った。
それだけで、鬼婆が止まって見えるようになる。
圧倒的な戦闘力の差の所為だろう。
よし、さっさと倒すぞ。
俺はヤマセミロングに手を駆けると。
「ふ!」
ヤマセミロング一閃。
鬼婆の首を斬り飛ばした。
でも、大事なのはココからだ。
「甲賀の特効薬!」
俺は倒れている人達に甲賀の特効薬を振りかけた。
前にも言ったけど、甲賀の特効薬はエリクサーと同じ。
つまり生きてさえいれば、どんな怪我だろうと瞬時に全回復する。
んだけど……倒れている人達は、既に絶命してたのだろう。
起き上がってくる人は、1人もいなかった。
チクショウ。
2023 オオネ サクヤⒸ




