第三十六話 なんじゃこりゃぁああああ!
さらなる力を手に入れる為、大江山の寺に到着した。
もちろん、訪れただけじゃ何も起こらない。
イベントをスタートさせるには。
「おや、こんな山寺に参られるとは珍しい」
そう言って人の好い笑みを浮かべる住職に、こう聞く。
「偉大な忍者の墓をご存じでしょうか?」
ちなみに、誰が聞いても始まるワケじゃない。
伊賀の強化イベントをクリアする。
これが、ここのイベントをスタートさせる条件だ。
「ほう。偉大な忍者ですか。この寺の墓に入られているのは、伊賀の頭領だった方と、甲賀の頭領だった方です。貴方がおっしゃっておられるのは、どちらの方の墓ですかな?」
住職が2択を迫ってくるが、これが罠だ。
正しいワードは。
「風魔の頭領の墓を教えていただきたい」
伊賀、甲賀と並んで有名な忍者、風魔について聞くコトだ。
「ほう、風魔となると、飛び加藤殿の墓、という事ですね」
飛び加藤が、有名な風魔忍者であることは間違いない。
でも、ここで「はい」と答えたらイベント失敗。
「いえ、風魔小太郎の墓を教えて欲しいのです」
こう答えるのが正解だ。
もちろんモカには絶対に喋らないように言ってある。
そして、この正しいワードを言うと。
「ほう、小太郎殿の。ではこちらへ」
住職は寺の裏庭に案内してくれる。
そして。
「あれが風魔小太郎殿を安置した墓です」
サッカー場ほどもある広い裏庭の中央の岩を指さした。
さて、忍者強化イベントの始まりだ。
そして住職が指さした先にあるのは。
『風魔小太郎』と刻まれた直径1メートルほどの岩。
この岩に触れた瞬間。
忍者強化イベント「風魔小太郎の力を手に入れろ」がスタートする。
「ねえ、あの石に触ったらイイの?」
尋ねてくるモカに、俺は頷く。
「そうだよ。あの石に触れるだけで、力を手に入れる為のイベントが始まるんだ」
俺はモカに、そう答えた瞬間。
「そうか、ありがとよ!」
突然現れた男が、そう言いながら俺達を追い越していった。
というか、最初から気付いてたモンね。
『へええ、あんな子供が10億ゴルドかよ。もっと早く京の都に来てたらオレも一儲け出来てたのにな、クソ』
昨日、グラッグさんから特別報酬を俺が貰った時、そう言ってた男だ。
歳は20歳くらいかな。
動きからしてC級冒険者、よくてB級冒険者だろう。
金の小鳥亭を出発した時から俺達の後を付けてたコトは知ってた。
でも、ココでこうきたか。
「岩に触るだけで強くなれるんだってな! いい事を聞いたぜ! しかしギルドで大声で喋ったのは失敗だったな! 歩きながら話すのもな! でも助かったぜ、なかなか良いスキルを習得できなかったんでな! まあ、卑怯といえば卑怯なやり方だが、ファイナルクエストじゃあ良くある事だ。悪く思うなよ!」
へえ、そんな言い方をするってコトは、転生者か。
ま、確かにこの程度なら許容範囲。
他の冒険者から嫌われるけど、冒険者ギルドから懲罰を食らうほどじゃない。
さっきからモカが「ズルい!」とプンスカ怒っているけど。
ちなみに、もしもやり過ぎたら、どうなるか。
たとえばグラッグさんが言ってた様に、PKを繰り返したりしたら。
最悪、堕天使を送り込まれる。
そしてその場で殺されるか、高位堕天使に捧げる贄にされてしまう。
どちらにしても、そこで人生話終わりだ。
でもこの男はこの先、どうなっていくのかな。
最初はセーフラインの内側で上手く立ち回る者が殆ど。
でも、だんだんエスカレートしていく。
最後には卑劣な犯罪者に落ちぶれてしまう事も多い。
そうならなかったらイイんだけど。
ま、俺が心配してもしょうがないか。
これは本人にしか決められないコトだし。
なんて考えている間に、男は風魔小太郎の名を刻んだ岩に到着した。
そして男は俺に勝ち誇った顔を向けると。
「コレに触るだけでいいんだよな。楽勝だぜ」
岩にパン! と手を置いた。
ふぅん、楽勝か。
確かに、その岩に触るのは簡単なんだけど、と呟く俺の目の前で。
「お?」
男は岩にピキピキとヒビが入るのを見て、ニンマリと笑うと。
「お? 何が起きるのかな~~? ファイナルクエストでも聞いた事のないイベントなんだから、物凄くレアなイベントに決まってるよな~~。くくく、ついにオレの時代が来ちゃう? 来ちゃうのかなぁ~~?」
ウザい口調で、妄想を始めた……が。
バキバキバキ。
「なんじゃこりゃぁああああ!」
割れた岩から鬼の首が飛び出すのを見て絶叫した。
うん、ビックリするよね。
5本の角が生えた、物凄く凶悪な鬼の首が突然現れたんだから。
しかもデカい。
その鋭い牙が生えた口で噛み付かれたら、男の上半身は無くなるだろう。
「なんだよ、触れるだけでイイんじゃなかったのかよ……」
あ、モカに言ったコトを真に受けたのか。
俺が『触るだけでイイ』と言ったのは、モカはそれでイイという意味。
岩に触るだけで強くなれるという意味じゃない。
中途半端に盗み聞きするから、そんな勘違いするんだよな。
と、そこで男は鬼の首が動かないコトに気が付いたらしい。
「は! 驚かせやがって! 動かないんなら動かないって最初に言えよ!」
強がって、ペシペシと鬼のデコを叩いた。
ああ、馬鹿なコトを。
絶対に鬼の首を怒らせたぞ。
はぁ~~。
このバカ、自分の死刑執行書にサインした事に気付いてないな。
と、俺が男に憐れみの目を向けてると。
バガン! × 5
何かが砕ける音が響き渡った。
「うわ!」
よほどビックリしたのだろう、男が尻もちをつく。
が、直ぐに我に返ると、腰を抜かしたのが恥ずかしかったのか。
「驚かすんじゃねェよ!」
虚勢を張りながら、音がした方向を睨みつけた。
が、直ぐにフリーズする。
「な、なんだよ、これ」
そう呟いた男の視線の方先あったのは、割れた5つの岩。
中央の岩を取り囲むように配置されていたモノだ。
庭の端っこに配置されてたから、今まで気が付かなかったんだろうな。
もちろん俺は知ってたけど。
ま、今はそんなコトどうでもいいか。
重要なのは、割れた岩から飛び出した鬼のパーツだ。
体、右腕、左腕、右足、左足。
ムッキムッキで、そして凶悪な空気を漂わせている。
「おいおい、これってまさか……」
男の呟きが合図だったように、5つのパーツは首の元へと飛んでいき。
バチン、バチン、バチン、バチン、バチン!
大きな音を立てて引っ付き、身長5メートルの鬼が完成した。
2023 オオネ サクヤⒸ




