第三十四話 とんでもなくチートですね
「ひょや!」
ヘンな掛け声と共に、ぬらりひょんが刀を抜き放つ。
ちなみに、ぬらりひょんの攻撃は居合切り。
知ってる人も多いと思うけど、刀を抜き放つ動作が、そのまま斬撃となる。
ところで。
居合は普通の斬撃より速いと思っている人も多いよね?
抜刀術の達人である「某るろうに」の影響だと思う。
でも居合より、両手で構えてからの斬撃の方が速いのが現実だ。
居合は片手で刀を抜き放って斬撃を放つ。
それは野球でいえば、片手でバットを持ってボールを打つようなもの。
片手でのバッティングと、両手でバットを持ってのバッティング。
どちらが速くて強力か、誰でも分かるハズ。
「もし刀を鞘に納めた状態と、シッカリと両手で刀を構えた状態。どちらで戦いを始めるか選べるとしたら、間違いなく両手で刀を構えた状態を選ぶ」
居合の達人も、こう言ってる。
でも、ぬらりひょんは居合しか使わない。
俺が、そうプログラムした。
「のらりくらり」に相応しい攻撃は、居合だと思ったから。
だから、ぬらりひょんが居合切りを放ってくるのは分かってた。
ついでにいうと、必ず急所を狙ってくる。
この状況だと、俺の首に斬撃を放つ。
俺が、そうプログラムしたから。
そして分かっているからこそ、効果的な反撃が出来る。
つまり俺は、首を狙ったぬらりひょんの居合切りを。
キィン!
龍鱗の小手で弾き返し。
「ひょ!?」
妖刀村雨を弾かれてバランスを崩したぬらりひょんの首を。
ヒュン!
ヤマセミロングで薙ぎ払った。
この俺の斬撃は、シッカリとぬらりひょんの首を捕え。
スパン!
ぬらりひょんの首を斬り飛ばした。
勝った!
普通の冒険者なら、そう思ったかもしれない。
でも俺は知っている。
まだ終わっていないコトを。
もし、勝ったと思って背を向けると、ぬらりひょんの体は首に手を伸ばす。
そして首を一瞬で元に戻すと、そのまま襲いかかってくる。
だから俺は。
「えい!」
地面に転がったぬらりひょんの首を踏みつけ。
グシャン!
キッチリと踏みつぶした。
ここまでやっておけば、もう復活するコトはない。
今度こそ、俺の勝利だ。
とはいえ……うわぁ、スプラッター。
ゲームならともかく、リアルだとグロいよ~~。
さすがにコレは引くわ~~。
でも仕方ないよね。
こうしないと何度でも蘇っちゃうから。
おっと、ぬらりひょんが使ってた妖刀村雨を回収しておかないと。
妖刀村雨の攻撃力は22000。
つまり10倍強化したら22万もの攻撃力を誇るチート武器なんだから。
あ、剛腕鬼が持ってた、闘鬼の小手も回収しなきゃ、と手の伸ばしたトコで。
パラパパッパッパパ~~!
ファンファーレが鳴り響いた。
《獲得経験値が183万を超えました。レベルが51になりました。HP強化、ⅯP強化がLv5から7になりました。力強化、耐久力強化、魔力強化、魔防力強化、速さ強化がLv3から5になりました。斬撃強化Lv5がLv7になりました。蹴撃強化Lv6がLv8になりました》
よし、レベルアップして、更に強くなれたぞ。
特に大きいのは、強化系スキルが物凄くアップしてるコト。
どれもレベルが2つも上がってる。
やっぱレベル差が大きい敵と戦うと、スキルは大きく伸びるんだな。
まあ『里山の民』の「スキルがアップし易い」という職業特性が大きいけど。
でも剛腕鬼を倒した時はレベルアップしなかったな。
直ぐにぬらりひょんが襲ってきたから、2匹との戦いだったというコトか。
というコトは、戦いが一区切りついた、ってコト?
つまり他のレベル500の妖怪は、襲い掛かってこない?
俺が疑いの目を残った妖怪達に向けると。
いつの間にか出現していた『アレ』を目の前にして凍り付いていた。
『アレ』=冒険者ギルド本部の切り札。
贄を代償として召喚した、高位の堕天使だ。
もちろん、緊急事態が起こってから召喚しようとしても間に合わない。
特に高位の堕天使は、そう簡単に召喚できるモノじゃない。
なので召喚した高位の堕天使に、定期的に贄を捧げて現世に留まって貰う。
特殊な結界の中に作り出した、快適な空間の中で。
そして冒険者ギルド本部ですら対処が難しい事態が発生した時。
更に贄を捧げてお願いする。
だから、大変な事が起こりました、はい出撃、というワケにはいかない。
贄を捧げてお願いする儀式を執り行う必要があるからだ。
10分、時間を稼がないといけなかった理由でもある。
そして、俺は何とか高位堕天使にお願いする時間を稼げたみたいだ。
妖怪の弱点は知ってるけど、これ以上の連戦はキツいもん。
経験値は惜しいけど、後は『アレ』=高位堕天使に任せよう。
レベルを2つアップさせるコトが出来たし。
というコトで、俺はグラッグさんのトコに戻ると。
「ふぅ~~、時間稼ぎ、成功ですね」
安堵の笑みを浮かべた。
「ああ、ロックのおかげだ、ありがとな」
グラッグさんは、俺に礼を言うと、堕天使に視線を戻す。
「あの方は堕天使『ベールゼブブ』。7つの大罪の1柱を担う、最高位の堕天使の1柱だ。冒険者ギルド本部も、本気で百鬼夜行に対処してくれたみたいだな」
冒険者ギルドの切り札、堕天使。
その姿は翼が黒い事以外、美しい天使と変わらない。
そして高位堕天使は限界突破Lv2という、とんでもない力を持っている。
限界突破はレベル99が上限なのを、レベル999までアップさせる。
ほとんどの転生者は、限界突破が究極のスキルだと思っているだろう。
でも高位堕天使が持つスキル『限界突破Lv2』を見て思い知る。
自分達が知る限界突破は、実はLv1であるコトを。
限界突破の先に、限界突破Lv2があるコトを。
そのレベル9999の強者、ベールゼブブが。
ゴッ!
右腕を無造作に振るった。
たったそれだけで。
バッ!!
10万匹の百鬼夜行が消滅した。
そして堕天使は、レベル500の妖怪に視線を向けると。
ゴゥッ!!
右手を突き出した。
その、先程の無造作な1撃より力の入った1撃は。
ビシャ!
レベル500の妖怪達を、ミンチに変えたのだった。
圧巻、圧倒的、鎧袖一触、オーバーキル……どんな言葉も役不足。
それが冒険者ギルド本部の切り札である『アレ』=高位堕天使の力だった。
「知ってはいたけど、やっぱとんでもなくチートですね」
俺の呟きにグラッグさんが頷く。
「ああ、とんでもないな。でもロック、オマエも大概なんだけどな。なにしろレベル49のクセにレベル500の妖怪を倒したんだから」
溜め息交じりのグラッグさんに、俺は首を横に振る。
「いえ、たまたま弱点を知っていたからです。じゃなかったら、瞬殺されてたトコですよ」
「それでも、だ。いや、百鬼夜行の弱点を知ってる時点で、やっぱチートだとオレは思うぞ。きっとロックはとんでもないやり込みプレイヤーだったんだろうな」
「そんなに大したモンじゃないんですけどね」
グラッグさんの言葉に、俺はあいまいな笑みを浮かべるだけにしておいた。
ついでに言うと、作っておいた呪符の出番は全くなかったな。
堕天使が現れるのが遅くなった時の保険だから、別にイイんだけどね。
2023 オオネ サクヤⒸ




