第三十二話 ここは儂に任せい
「ここは儂に任せい」
ぬらりひょんはそう言うと、スルリと地面に降り立ち、剛腕鬼の前に立つ。
「剛腕鬼よ。オマエ、その小僧の手の平の上で、もて遊ばれている事に気付いておらんようじゃの」
「手の平の上でもて遊ばれてる!? オレがか!?」
怒りをあらわにする剛腕鬼に、ぬらりひょんが溜め息をつく。
「はあ。まだ分からんか。オマエの攻撃は全て見切られておる。その証拠に、オマエの攻撃は1度も当たっておらぬじゃろう?」
「そ、それは……」
口ごもる剛腕鬼に、ぬらりひょんが鋭い目を向ける。
「儂の言う事に納得いかぬなら、もう1度戦うが良い。そして小僧!」
「ボ、ボクのコトですか?」
いきなり怒鳴られてビックリする俺に、ぬらりひょんが厳しい表情で言う。
「今度は手抜き無しで戦うのじゃ。もし手を抜いたら、ここにいる妖怪全員が全力で結界を破壊するぞよ」
うわ、それ1番困るヤツ!
う~~ん、仕方ない。
「分かった。でも、1対1なんだよね?」
「うむ。他の妖怪には手出しさせぬ。その代わり……」
「はいはい、全力で戦ったらイイんでしょ」
話を最後まで言わせなかった事を気に留めるそぶりも見せず。
「なら剛腕鬼よ。戦うのじゃ」
ぬらりひょんは、そう言い切った。
と同時に。
「うがぁああああああ!」
剛腕鬼が、大きく振りかぶった闘鬼の小手を叩き付けてきた。
が、今度は本気で迎え撃つ!
俺は、剛腕鬼の大振りをギリギリで躱すと。
ズドン!
剛腕鬼の右脇腹=肝臓に、今度は全力で正拳突きを叩き込んだ。
この本気を1撃に。
「はぅ……」
剛腕鬼の口から、苦痛の声が漏れた。
人間だったら、肝臓をまともに打ち抜かれたら1週間は血尿が止まらない。
人間より丈夫とはいえ、剛腕鬼だって大ダメージを受けたみたいだ。
しかし肝臓にダメージを食らったというのに剛腕鬼の攻撃は止まらない。
「ぐく!」
歯を食いしばりながら、左手で殴り掛かってきた。
その拳も紙一重で躱し、俺は剛腕鬼の左側に潜り込むと。
「おりゃ!」
今度は左脇腹=腎臓に正拳突きを放つ。
特殊部隊の兵士が言っていた。
ナイフで腎臓を刺すと、痛みのあまり声も立てずに崩れ落ちると。
その腎臓を1撃され、剛腕鬼は。
「ごはっ!」
天を仰ぐようにして、膝から地面に崩れ落ちた。
つまり3メートルの高さにあった頭が、手の届くトコにきたワケだ。
チャンス! このまま首を刎ねてやる!
と、俺はヤマセミロングを抜き放とうとして。
「わ!」
剛腕鬼の頭突きを、辛うじて躱した。
くそ、こんな戦い方、俺はプログラムしてないぞ。
しかし頭突きか。
実戦空手の先生が言ってた。
命懸けの戦いで役に立つのはパンチと肘と膝とローキックと頭突きだと。
という事は、剛腕鬼も実戦を経験して頭突きを覚えた?
百鬼夜行が出現して、244年。
人々の目の届かない所で、命懸けの戦いがあったのかも。
とにかく剛腕鬼は、俺がプログラムしてない動きを見せた。
他にもプログラムしてない攻撃を見せるかもしれない。
なんて、呑気に分析してる場合じゃない。
と、剛腕鬼が飛び退く俺を追いかける様に立ち上がる。
うん、このタフネスも、プログラムした覚えはない。
ホント、プログラムしていない要素には、気を付けないとな。
でも急所はプログラムした通りみたいだ。
やっぱここは急所を狙わせてもらおう。
「や!」
俺は、今度は剛腕鬼の肝臓に蹴りを叩き込んだ。
蹴りの威力は拳の3倍から5倍。
この強力な蹴りにより、剛腕鬼は。
「グハッ!」
今度は口から血を吐いた。
おそらく肝臓に傷を負ったのだろう。
目に見えて、剛腕鬼の動きが悪くなった。
でも、今度は膝をつかない。
それどころか。
ザシュ!
剛腕鬼がバックハンドで放った闘鬼の小手が、俺の腹を掠った。
「あ、あぶねー!」
今のはマジで焦った。
装備してたのが龍燐の戦衣じゃなかったら、下半身が無くなってたトコだ。
いや、もし掠ったのが首だったら、そこで終わっていた。
前にも言ったが、ステータスに表示される攻撃力は、最大値。
それと同様、防御力として表示された数値も最大値だ。
つまり俺の今の防御力44175は、龍燐の小手で防御を固めた時の数値。
万全の状態なら剛腕鬼の攻撃もぬらりひょんの攻撃も防げる。
でも首や顔などの防御力は、それより遥かに低い。
もしそこに剛腕鬼の最高値の攻撃を食らったら即死間違いなしだ。
しかしそれは、剛腕鬼にも言える事。
防御力12500は、全力でガードした場合の数値。
思いもかけない場所に、思いもしない攻撃を食らったら、1撃死もあり得る。
まあ、ヤマセミロングによる攻撃力は33750。
斬撃でも大ダメージを与えられるだろう。
でも、1撃で倒せるワケじゃない。
剛腕鬼のHPは550000もあるんだから。
そして1撃で倒せなかったら、思いもしない攻撃をしてくるかも。
さっき頭突きをしてきたように。
よし、ここは全力で倒しにいくか。
と言うコトで、剛腕鬼の膝の内側に本気の蹴りを放つ。
「ガッ!」
一撃必倒の攻撃を受け、剛腕鬼が再び地面に膝をついた。
ここまではさっきと同じだが、ここからが違う。
剛腕鬼が膝をつくと同時に、剛腕鬼の首にヤマセミロングを当て。
シュパ。
円を描くように後ろに回り込みながら、剛腕鬼の喉を切り裂いた。
攻防一体=躱す動作と攻撃とが、一つになった動き。
これにより剛腕鬼の首は切断され。
ゴシャ。
湿った音を立てて、地面に転がった。
ふう、とりあえず1匹倒したぞ。
と、ホッとした瞬間、ゾクリとヤバい感覚が。
「わ!」
慌てて身を躱した空間を。
バヒュン!
ぬらりひょんの拳が打ち抜いた。
2023 オオネ サクヤⒸ




