第二十九話 金なら思いっきり使え
「もしも『アレ』が派遣される前に、S級妖怪に結界を発生させる魔道具を破壊されたとしたら、もうボク達は生き残れないでしょう」
俺がそう言った瞬間。
グラッグさんが、野獣のような笑みを浮かべた。
「逆に言えば、そのS級妖怪7匹と総大将のぬらりひょんを10分間足止めできたら、オレ達の勝ちってコトだな」
うわ、そっちか。
ひょっとしてグラッグさんってバトルジャンキー?
ま、根性なしよりズッとイイか。
「ホントに『アレ』が10分で来るのなら、ですけど」
苦笑で返す俺に、突然グラッグさんが頭を下げる。
「ロック。まだ子供のお前を頼って、本当に情けないが、今はそんな事を言ってる余裕が無い。お前にもS級妖怪と戦って欲しい。必要経費はギルドが持つから、大急ぎで戦いの準備をしてくれ」
それは有り難い。
でも呪符や投擲玉や甲賀の特効薬の製作費は、かなりの額になる。
一応確認しておくか。
「武器と防具購入の他に、強力な武器を作っておきたいと思いますけど、何億ゴルドもかかっちゃいますよ。イイんですか?」
「かまわん。今は非常時だ。オレが責任を持つ」
へぇ、やっぱり現場のたたき上げは違うな。
ここでケチったら、後で取り返しのつかない事態になる事を良く分かってる。
「じゃあ出来る限り、戦力を強化してきます」
「おう。金なら思いっきり使え」
「ありがとうございます」
というコトで、俺は二階堂菊さんの店に向かうと。
「この店で最強の防具を見せてくれませんか」
ダメもとで、そう聞いてみた。
だって龍の戦衣は最高レベルだった筈。
それ以上の防具なんて、そう簡単に手に入る筈がない。
と思ってたんだけど。
「はい。用意しておりました」
菊さんは、そう言うと。
「龍鱗の戦衣です」
見ただけで龍の戦衣より上だと分かる服を見せてくれた。
「龍の戦衣に、龍の鱗を加工処理して作りあげた戦衣です。防御力は3600となっております。そして龍鱗の小手もお持ちください。前腕部に特に丈夫な鱗を使用しておりますので防御力は4000です」
という事は龍燐の戦衣を『錬成』で10倍強化したら36000。
やった! ぬらりひょんの攻撃力より上だ!
これで、妖刀村雨で斬られてもダメージを受けないぞ。
おまけに腕の防具も手に入った。
頑丈そうな龍の鱗が取り付けられているので、盾としても使えそうだ。
しかも拳の部分にも龍の鱗が付いているから、打撃も強化されるだろうな。
うん、攻守に優れたイイ防具だ。
でも龍燐の戦衣で覆われていない場所もあるから、そこは気を付けよう。
頭や首をバッサリやられたら、絶対に助からないし。
しかし、よくこんな凄い防具があったな。
「こんな高性能の防具があるなんて驚きました」
俺が素直な感想を漏らすと。
「非売品です。百鬼夜行と戦ってくれる人に渡す為の品ですから、店には並べておりませんでした」
菊さんが、思いもしない事を口にした。
って、グラッグさんが百鬼夜行の事を知ったのは、さっきの筈。
なんで菊さんが知ってるんだろうか?
という言葉が、顏に出てたのだろう。
菊さんはニコリと笑うと。
「この店の初代が、そのような事を言い残しているのです。もしも百鬼夜行が頻繁に出現するようになったら、全財産を果たしてでも最高の武器と鎧を手に入れておくように、と」
そうか。
俺が作った百鬼夜行の伝説を耳にしたんだろうな。
でも、そこで菊さんが顔を曇らせる。
「しかし武器はヤマセミロング以上の品は用意できませんでした。攻撃力が高いものはいくらでもありますが、お客様の体格ではヤマセミロング以上の武器は……」
最後まで言わなくても分かってる。
ステータスは高いが、今の俺を体格は10歳の子供のもの。
いくら攻撃力が高くても、巨大な太刀なんて使いこなせる筈がない。
ま、無い物ねだりしててもしょうがない。
ここは強力な防具が手に入った事を喜ぶとするか。
いやマジで助かりました、ありがとうございます。
「では龍鱗の戦衣と龍鱗の小手をいただいていきます。支払いは冒険者ギルドがしますので」
「承知しております」
ニコリと笑う二階堂菊さんから龍鱗の戦衣と小手を受け取り。
「錬成、10倍強化」
ⅯPを100使って10倍に強化、この場で装備する。
よし、次は攻撃手段だ。
「ありがとうございました」
俺は菊さんに礼を言うと、近くの道具屋に飛び込む。
『強手裏剣』、『呪符』、『甲賀の投擲玉』を作る為の素材を買う為だ。
手裏剣と投擲玉はⅯP無しで造れるから限界まで作っておこう。
もちろんⅯP5で作れる呪符も限界まで作るつもりだ。
という事で俺は、ありったけの材料を買い占めた。
おっと、回復手段も必要だったけ。
『甲賀の特効薬』に必要な材料もあるだけ買っておこう。
あ、言っておくけど京の都には、沢山の道具屋がある。
だから俺が、この店で材料を買い占めても他の冒険者は困らないからね。
というコトで、金の小鳥亭に戻ると、さっそく製作開始。
ガンガン作って、かたっぱしからマジックバッグに収納していく。
そしてⅯP回復ポーションを呑みながら、可能な限り強化していく。
もちろんモカにも投擲玉を作りまくってもらってる。
おっと、言い忘れてた。
モカにも『マジックバッグ』のスキルを習得させる事が出来たんだ。
非常事態なのでギルドの貴重なアイテムを使う許可がおりたから。
もちろんグラッグさんのゴリ押し。
後でエリさんに叱られるかも、ってグラッグさんが本気で心配してたっけ。
あ、ついでに『鑑定」スキルも、モカは貰いました。
う~~ん、グラッグさん無理したな。
とにかくコレで、モカも大量に作った武器を使いこなせるだろう。
ちなみに呪符も投擲玉も職業が忍者じゃないと使用できない。
だから他の冒険者に渡しても、使う事は不可能。
なのでモカには『甲賀の投擲玉』で援護を担当してもらったらイイかな。
「とりあえず、これくらいでイイかな」
俺は呟いて、作りあげたモノを確認する。
2倍強化強手裏剣 10000 個
10倍強化強手裏剣 20 個
2倍強化爆水の呪符 2000 枚
2倍強化大威徳明王撃 50 枚
10倍強化大威徳明王撃 5 枚
2倍強化火炎の呪符 2000 枚
2倍強化不動明王撃 50 枚
10倍強化不動明王撃 5 枚
2倍強化轟雷の呪符 2000 枚
2倍強化金剛夜叉明王撃 50 枚
10倍強化金剛夜叉明王撃 5 枚
甲賀の特効薬 500 個
もっと作っておきたいけど、明日に疲れを残すワケにはいかない。
今日はここまでにしておこう。
あ、あと秘密兵器も用意しておいた。
きっと明日の戦いで役に立つ筈だ。
2023 オオネ サクヤⒸ




