第二十八話 とんでもない妖怪だな
たった1日しかないけど、全力で戦力強化だ!
と意気込む俺だったが、その前にやる事がある。
ところで話は変わるけど。
百鬼夜行を率いる総大将は、妖怪ぬらりひょん。
後頭部が後ろに長く突き出した、年老いた僧侶の姿をしている。
一見、大した妖怪には見えないが、鑑定してみると。
ぬらりひょん
レベル 500
HP 250000
基礎攻撃力 7500
防御力 12500
装備武器 20000(妖刀村雨)
経験値 180000
という数値が見える筈だ。
このステータスを分かり易く説明すると。
HPはレベル500の標準的冒険者の基礎攻撃10回分。
攻撃力はレベル500の標準冒険者を2回で倒せる数値。
防御力はレベル500の標準冒険者の力と同じ数値。
つまりレベル500冒険者が10回攻撃しないと、ぬらりひょんは倒せない。
なのに2回殴られたら、レベル500冒険者でも殺されてしまう。
しかも冒険者の攻撃力からぬらりひょんの防御力の分を引いた数値。
これが与えられるダメージなので、攻撃回数は10回より多くなる。
しかも攻撃力はクリティカル値だから、実際はもっと多くなるだろう。
まあ、攻撃力の高い武器を装備したらカバーできると思うけど。
でも簡単に倒せるステータスじゃない。
ついでに経験値は10匹倒すとレベルが500から501になる数値。
レア・アラクネと比べると異常に低い経験値と感じるかもしれない。
でもレア・アラクネはボーナスモンスターとしてプログラムした。
一方、ぬらりひょんが強いのはレベルが500だから。
能力的には、それほど特殊なモンスターじゃない。
とはいえ、高ステータスによるゴリ押しの方が厄介かも。
だって弱点というべきトコなんか無いんだから。
そんな欠点らしい欠点の無い、ぬらりひょんの説明を俺から聞いて。
「とんでもない妖怪だな」
グラッグさんが蒼い顔で呟いた。
なにしろ京の都の最強戦力はA+級2名。
続いてA級5名にA-級が8名だった筈。
つまりぬらりひょんに1発殴られただけで、死ぬ者が殆ど。
おまけに妖刀村雨を装備したぬらりひょんの攻撃力は27500。
生き残れる冒険者は1人もいない。
そして今の俺の防御力は16175で、HPは4970。
ぬらりひょんの斬撃1発で、ゲームオーバーになってしまう数値だ。
しかも敵はぬらりひょんだけじゃない。
100種の妖怪で構成された10万の妖怪が、一緒に襲い掛かってくる。
クソ、もっと強くなるのを急いでおけば良かった。
今の俺じゃ、ハッキリ言って勝ち目なんかない。
だから、コレだけは聞いておこう。
「ねえグラッグさん。冒険者ギルド本部は『アレ』を、何分くらいで投入するのでしょうか?」
そう。
『アレ』がいつ到着するか。
それに生きるか死ぬかの分かれ目になる。
「そうだな。百鬼夜行が襲い掛かってきたら、直ぐにその映像を撮影して、そのまま本部に転送する様に指示してるから、10分ってとこだと思う」
「見た瞬間『アレ』を投入してくれると思ってましたけど、思ってたより時間がかかるんですね」
不満そうな俺に、グラッグさんが苦笑いで答える。
「事態の重大さは、直ぐに分かってくれるだろう。しかし『アレ』は簡単に動かせるシロモンじゃない。ロックなら分かるだろ?」
「そうですね。簡単に動かせたら、それはそれで問題ですね」
俺はため息をついた。
10分。
楽しい事をしてたら一瞬で過ぎ去る時間だ。
でも強敵と戦う10分は、気が遠くなるほど永く感じるだろうな。
はぁ~~~~、でもやるしかない。
「で、どうやって、その10分を耐えきるんです?」
「京の都は、最初から強力な結界を発動されるように作られている。だからⅯPを持っている者には、冒険者だろうと非戦闘職だろうと結界の発動と維持を受け持ってもらう」
うん、結界の事は知ってた。
俺がそうプログラムしたんだから。
というか、その結界がなかったら、京に都を捨てて逃げろ、と言ってた。
数百名の冒険者で10万の妖怪と戦うなんて自殺行為だから。
「そして、その結界も物理的な攻撃を防ぐもの、魔法攻撃を防ぐもの、あらゆる物を通さないもの、とか色々な結界を発動できる。もちろんあらゆる物を通さない結界が1番効果的だが、消費ⅯPも莫大なんで、今回は、妖怪を通さない。この1点に特化した結界を張り巡らせる。これなら、何とか10分、維持できる筈だ」
そうか、なら安心だな。
って待てよ。
なら、なんで戦う準備をしてくれ、なんて言ったんだろ?
さっそく、グラッグさんにその事を聞いてみると。
「いや、今回張り巡らせる結界が有効なのは、レベル99までの妖怪に対してのみだ。つまりS級の妖怪は結界を突破して入ってくるんだ」
「え? 妖怪除けの結界に、そんな制限はなかったと思いましたけど」
「そんな事まで知ってるなんて、ロックはマジで凄いやり込みプレイヤーだったんだな。百鬼夜行の事も知ってたし。ま、それはいいか。話を戻すけど、ロック。現在、京の都にいる冒険者のⅯPじゃ、レベル99以下の妖怪が通れない結界を張るのが精一杯なんだ」
「マズいですね」
顔をしかめる俺に、グラッグさんが硬い表情で頷く。
「ああマズい。そして百鬼夜行にレベル99超えの妖怪が何匹いるか。それ1番の問題だ。なにし8回目の百鬼夜行の時には、総大将のぬらりひょんと、その近くにいた数匹の妖怪しか鑑定できなかったからな」
そう。
鑑定できるのは1度に1つ。
10万の妖怪を全部鑑定なんて、出来る筈がない。
でも俺は、S級妖怪が何匹いるか知っている。
俺がプログラムしたんだから。
なので、S級妖怪をグラッグさんに教えておこう。
「剛腕鬼、大天狗、ガシャ髑髏、岩石ムカデ、土蜘蛛、ヌエ、疾風鎌鼬です」
俺がそう言うと。
「え? たった7匹なのか?」
グラッグさんは、ちょっと間抜けな声を漏らした。
「そ、そうか。たった7匹なのか。そりゃあ朗報だ」
うん、そう思うよね、普通。
でも、そんなに甘いプログラムしてないんだ、ごめんね。
なんて言ってても仕方ない。
事実をそのまま伝えよう。
「でもグラッグさん。その7匹、全てがレベル500です。そして自分が得意とする分野じゃあ、ぬらりひょんよりステータスは上なんです」
「げ」
あ、グラッグさんが、絶句した。
無理もないと思う。
けど、これも言っておかないと。
だって正確な情報は、1番重要なコトだから。
「そしてS級じゃない妖怪でも、ステータスがカンストしてる妖怪は、かなり多いんです。もしもS級妖怪に『アレ』が派遣される前に結界を発生させる魔道具を破壊されたとしたら、もうボク達は生き残れないでしょう」
2023 オオネ サクヤⒸ




