第二十七話 百鬼夜行だ!
「百鬼夜行だ!」
という大声を耳にして、俺は金の小鳥亭を飛び出す。
そして沢山の人達が上を向いているので、俺も空を見上げると。
ギャギャギャギャ、ゲッゲッゲッゲ。
不気味な声を上げながら、物凄い数の妖怪が空を歩いていた。
「ふわぁ……」
モカもポカンと口を開けて空を見上げている。
でもまだ午前10時なのに百鬼「夜行」?
なんて疑問はおいといて。
「なんです、アレ?」
俺は金の小鳥亭に戻ると、ダンガさんに聞いてみた。
いや、アレが何かは知っている。
でも、この世界で、どう認識されているのか分からない。
だから、その確認だ。
「ああ、百鬼夜行のことか? 別に害はない。ああやって沢山の妖怪が、まるで透明な道の上を歩くように空を渡っていくんだ。昔は珍しい現象だったらしいが、近年になって出現回数が急に増えてな。最近じゃ毎日見かけるようになったんだ。しかも昔は夜しか出なかったのに、最近は昼間でも出るんだ」
ダンガさんの話を聞いて、俺は血の気が引くのを感じた。
「なのに誰も心配したり、警戒してないんですか?」
「なにしろ100年以上前から目撃されてるけど、被害が出た事など1度も無いらしいからな。まあ、あんなに沢山だと、ちょっと気味悪いがな」
「いや、そんな甘い事態じゃありませんよ。下手したら京の都どころかジパングが滅びます」
俺はそう言うと冒険者ギルドに駆け込み、グラッグさんを探す。
いた!
早く聞かないと!
「グラッグさん! 冒険者ギルドは、百鬼夜行をどう考えてますか!?」
俺の剣幕に驚きながらも、グラッグさんは。
「不思議な現象、だな。気にはなっている。しかし今まで人を襲う事もなかったしな。だから冒険者ギルドとしては、事態を注視する、ってトコだ」
そう答えた。
これを聞いて、俺は頭を抱えたくなる。
が、今はそんなコトしてる場合じゃない。
「グラッグさん、緊急事態です。ボクに付いて来てください」
俺はモカを肩車すると、グラッグさんの手を掴んで駆け出した。
「お、おいロック! 分かったから、手を放してくれ」
騒ぐグラッグさんを無視して、俺が飛び込んだのは古い寺。
「どうなされましたかの?」
落ち着いた声で尋ねてくる住職さんに、俺は詰め寄る。
「この寺に秘蔵の巻物がありますよね。緊急事態です、冒険者ギルドマスターに見せてあげて下さい!」
「どうして巻物の事をご存じなので? まあギルドマスターであるグラッグ殿ならば良いでしょう。こちらへ」
そして住職さんは本尊の前に祀られている巻物を手に取り。
「これの事ですかな?」
グラッグさんに手渡した。
さっそく巻物を広げるグラッグさんに。
「ここです」
俺は巻物の「ある部分」を指さした。
そこに書かれているのは。
百鬼夜行とは、最初は100年に1度起こる。
その後、10年に1度起こり、10回繰り返される。
次は3年に1度を10回、その次は1年に1度を10回。
そして3カ月に1度を10回、次に1カ月に1度を10回。
1週間に1度を10回、3日に1度を10回経て。
毎日、出現するようになり、その10日目。
百鬼夜行は人間に襲い掛かる。
妖怪の数は、最初は文字通り100匹。
だが10年に1度、3年に1度と間隔が短くなると共に増え。
最後には10万匹に膨れ上げる。
「な!?」
言葉を失うグラッグさんに、俺は聞いてみる。
「最近の百鬼夜行の出現状態は、どうなっています?」
この質問に、グラッグさんはゴクリと喉を鳴らすと。
「毎日出現するようになって8回目だ」
冷や汗を流しながら、そう答えた。
「それって、今日の百鬼夜行が8回目って事ですか?」
グラッグさんは頷くと、逆に聞き返してくる。
「そうだ。しかしロック。この巻物は信用できるのか? 2日後に百鬼夜行が襲い掛かって来る。それに間違いないのか?」
「はい。ボクとしては間違ってて欲しいんですけど」
俺の答えに、グラッグさんが表情を引き締めると。
「これは冒険者ギルド本部に助けを要請すべき案件だな」
そう呟いた。
百鬼夜行も、もちろん俺がプログラムした。
でも、それは都市伝説レベルの話として登場させただけだ。
数百年後に『百鬼夜行』が発生するから人類は大災害に備えよ。
程度の軽い気持ちで登場させた。
ファイナルクエストじゃあ絶対に発生するコトないと思ってたから。
だって数百年後もファイナルクエストやってる人間なんている筈ないし。
しかし、この世界が作られて244年目の今年。
俺がジョークでプログラムした設定が発動しやがった。
しかもマズい事に、つい厄災レベルでプログラムしちまった。
だって「百鬼夜行」の設定を考えるの、楽しかったんだモン。
とはいえ、まさか本当に百鬼夜行と遭遇することになるとは思わなかったな。
どうしよう。
やっぱグラッグさんが言ったように、ギルド本部に丸投げするのが1番かな。
「ギルド本部が動いてくれるんなら安心ですね」
俺はホッとした声を漏らす。
百鬼夜行は厄災レベルだが、冒険者ギルド本部には『アレ』がある。
『アレ』なら、百鬼夜行も打ち倒せるだろう。
と思ったんだけど。
「いや、とても安心できないな」
グラッグさんの顔色は悪くなる一方だった。
「百鬼夜行が人類に襲い掛かるなんて思いもしなかった。漠然とした不安はあったがな。そしてそれは本部も一緒だと思う。オレが、いくら危険が迫っていると言っても、実際に被害が出ないとギルド本部は動いてくれないだろう。一応、説得はしてみるが、ロックも知ってるだろ? 『アレ』は簡単に動かせるモンじゃないって事くらい」
「そうですね。じゃあ『アレ』を動かす事を本部が決定するまで、ボク達だけで戦わないといけない、ってコトなんですよね?」
俺がそう聞くと、グラッグさんは苦しそうな顔で頷く。
「ああ。まだ子供のロックに戦ってもらうのは心苦しいが、とにかく戦力が足りない。冒険者だけじゃなく、戦えるヤツ全員に非常招集をかけるが、かなりキツイ戦いになる。たった2日、いや実質1日しかないが、出来る限りの準備を整えておいてくれ。費用はギルドが持つから」
「分かりました。直ぐに取り掛かります」
という事で。
百鬼夜行の妖怪10万匹と戦う事になってしまった。
俺とモカだけ逃げ出す、という選択肢もある。
でも、それは京の都で暮らす人達を見捨てるということ。
そんな事、絶対にしたくない。
だから。
たった1日しかないけど、全力で戦力強化だ!
2023 オオネ サクヤⒸ




