第二十二話 レベル49だと!?
「捨て子は教会の孤児院に引き取ってもらうしかない、って事ですか?」
俺の質問にグラッグさんは、暗い顔で答える。
「そうだ。可哀そうだが、それしかない。ま、ロックが引き取って育てるってんなら別だが」
「ボクが引き取る? そんな事できるんですか? ボクまだ10歳ですけど」
思わず聞き返した俺に、グラッグさんが真摯な顔で説明してくれる。
「普通なら無理だ。でもロックは普通じゃない。転生者で、そのうえ高ステータスの冒険者で、しかも金持ちだ。そんなロックなら許可が下りるだろうな。捨て子を引き取って育てる許可が」
「そんな簡単に決めてイイんですか?」
そう聞いてみると、グラッグさんが何とも言えない顔をする。
「これが、この世界のリアルなんだ。転生者は前世の記憶で高みを目指せる。でもこの世界の住民は、今、自分が置かれている環境の中で、精一杯生きていくしかないんだ。人生を一発逆転出来るのは、転生者だけなんだからな」
転生者は知っている。
どうしたら危険を避けられるか。
どうしたら、その職業で効率よく強くなれるか。
どうしたら、その職業で成功するか。
でも、この世界に生を受けた者は、それを知らない。
手探りで生きていくしかないのだ。
試行錯誤を繰り返し、失敗を重ねながら。
もちろん、転生者に教えを乞う事だって出来る。
でもそれは一部の人達だけ。
敢えて言えば、金で知識を買える人達のみ。
貧しく、その日の食べ物にも困る人達に希望は無い。
今となっては遠い故郷=地球と同じように。
そしてグラッグさんが続ける。
「だから冷たいようだがロック。情が移る前に、その子をサッサと孤児院に預けた方がイイぞ」
そのグラッグさんの言葉を聞くと同時に、モカが俺の顔を見た。
悲しさと悔しさと辛さと困惑と嘆きと、そして諦めが入り混じった表情で。
ダメだ。
こんな顔した5歳の子供を、とても見捨てられない。
だから気が付いた時には。
「この子はボクが面倒を見ます」
俺は、そう宣言してしまっていた。
「いいのか? 子供を育てるってのは想像もできないほど大変なんだぞ」
心配してくれるグラッグさんに、俺は頷いてみせる。
「分かってます。でも、赤ちゃんから育てるほど大変じゃありませんよね」
「そりゃあそうかもしれないが」
「大丈夫。ボクに考えがあります。前世の知識を使って」
俺がニコリと笑うと、グラッグさんの顔も緩む。
「そうか。転生者として勝算があるなら、何も言う必要ないな」
「いえ、心配してくれて、ありがとうございます」
俺はグラッグさんに頭を下げると、モカに向き直る。
「じゃあモカ。ボクと一緒に行かないか? おっと自己紹介がまだだったね。ボクはロック。レベル49の冒険者さ」
「うん、行く!」
モカが元気な声を上げるが、その声と。
「レベル49だと!?」
グラッグさんの声が被った。
「ちょっと待てよ、ロック。何でレベルが49になってるんだ? ちょっと前までレベル13だったろ?」
「レベル99のレア・アラクネを倒したからです」
「レベル99のレア・アラクネだと!?」
またグラッグさんが、大声を出した。
ギルド中に響き渡るくらいの。
……当然、こうなる。
「レア・アラクネだと!」
「レベル99!?」
「A級冒険者がパーティーで挑む相手じゃねぇか!」
「そんなバケモノを、たった1人で倒したのか!?」
ギルドが大騒ぎになる中。
「ギルドマスター。またしても重大な規定違反です」
グラッグさんが、受付の女の人に叱られていた。
「いや、ギルドカードを見たら、すぐ分かる事だし……」
「それは本人が許可したら、の話です。許可を取ったのですか?」
受付の女の人がグラッグさんを追い詰めてる。
ちょっと怖い。
「ギルドマスター。今月の給料20%カットです」
「ええ~~! そ、それはちょっと酷くないか!?」
「何度も同じミスを繰り返すからです」
「そ、そんな、エリちゃぁん~~」
へえ。
受付の女の人、エリさんっていうんだ。
そのエリさんが、グラッグさんを無視して俺にニコリと笑うと。
「ロックさん。そのレア・アラクネをお持ちなら、買い取りたいのですが如何でしょうか?」
そう聞いてきた。
そういや倒したアラクネ、マジックバックに収納してたっけ。
「じゃあ買い取り、お願いします」
俺は売る事を即決した。
モカの面倒を見るんだから、お金は幾らあってもイイもんね。
「で、どこに出しましょう」
俺はエリさんに聞いてみる。
ギルドの受付は広い。
ここでマジックボックスから出しても大丈夫だと思うけど。
「いえ、倉庫の方にお願い出来ますか? 素材買取り倉庫の方が、迅速にアラクネを処理できますので」
なるほど。
マジックバックから出した瞬間から時間が流れ出す。
新鮮なほど高値が付く部分は、直ぐに処理してもらった方がいい。
だから俺はエリさんと一緒に倉庫に向かう。
「レア・アラクネを見た事あるか?」
「あるワケねぇよ」
「ってか、見る前に殺されてら」
「ああ。目にするときが、死ぬときだ」
「そんなモンスターを1人で倒したのかよ」
「しかもレベル13で」
「さすが転生者ってトコか」
「いや、さすがS級プラス冒険者の子供っていうべきだろう」
「ダンさんとモーリさんの子供だもんな」
「それでも異次元の強さだぜ」
ヒソヒソと囁き合う冒険者の人達を引き連れて。
そして。
「じゃあ出しますね」
俺がレア・アラクネをマジックバッグから取り出すと。
『おおおおおおおおおおおお!』
この場にいた全員が声を漏らし。
「超貴重な素材だ! 処理、急げ!」
素材倉庫の責任者らしき男の人が、大声を上げて駆け寄ってきた。
2023 オオネ サクヤⒸ




