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   第二百七話  母ちゃんの恨み!





「しかし、この無限に肉が取れる牛と、野菜やオニギリが実る巨木は人間だったという事ですが、元はどのような者達なのでしょうか?」


 この長の質問に行則は。


「こいつらの仲間や」

「「ひッ!」


 魔王達の後ろで小さくなっている兵士の1人を引きずり出した。

 その兵士達を見るなり。


「コイツ等は!?」


 長は顔色を変えた。


「お? 知っとんのか?」


 この行則の問いに、長は怒りの籠った声で答える。


「はい、コイツ等は私の村を焼き討ちにした兵士共です。戦とは何の関係も無い村だったというのに……」


 ギュッと拳を握る長に、行則が真剣な目を向けると。


「そんなら、この顔にも見覚えがあるんとちゃうか?」


 そう言って、野菜やオニギリが実る木を、断罪の剣でパンと叩いた。

 すると木の幹がボコリと盛り上がり。


「お願いだ、助けてくれ!」


 その盛り上がりは人の顔に変わると、そう懇願した。

 が、長はその顔を見るなり。


「コイツこそ、私の村を焼き払った兵士達の隊長です!」


 憎々し気に顔を歪めながら、大声を上げた。

 そして長は、何回も深呼吸した後。


「そうですか、野菜やオニギリが実る木は、コイツでしたか」


 複雑な顔で、そう呟いた。

 そんな長に、行則が問いかける。


「改めて聞きたいんやけど、お前達、コイツ等がもっと苦しむトコ、見たいと思わへんか?」

「もちろんです!」


 即答する長に、行則は残忍な笑みを浮かべると。


「ええか、よぉ見とき」


 木の枝からオニギリをもぎ取った。

 と同時に。


「痛ぇぇぇぇぇ!」


 木の生えた顔が絶叫を上げた。


「この木に実る野菜やオニギリをもぎ取ると、麻酔なしに歯を引っこ抜くレベルの激痛が走るようになっとるんや。そんなモンが聞こえたら食べにくいモンもあるかもな、と思うて顔を隠しとったんやけど、それやったらコッチの方がエエやろ。思う存分、復讐したれや」

「はい!」


 長は顔を輝かせると、人々に向かって声を張り上げる。


「みんなも聞いたじゃろ!? 大切な家族を嬲り殺し、大事な村を焼き払ったヤツ等に仕返しが出来るぞ!」


 と長が叫ぶと同時に。


「えい!」

「や!」

「思い知れ!」


 人々は木に群がり、野菜やオニギリに手を掛けた。

 というか全員が野菜やオニギリを、思いっきり引き千切っている。

 どうやら元人間だったモノから生えた食物の嫌悪感は無いみたいだ。

 いや、嬉々として痛めつけていると言った方が正しいかも。

 もちろん木から生えた顔は、もぎ取られる度に。


「ぎゃ! ぐえ! ぐひ! あぎゃ! ぎゃがぁああああああああ!!!!!」


 口から泡を吐きながら痛みに悶えている。

 そんな元兵士を長は、何も言わずに暫く見ていたが。


「もぎ取った野菜やオニギリは無駄にしてはならぬぞ」


 人々に向かって、静かにそう言った。


「出自がどうあれ、食物を無駄にする事は許されぬ。食べきれぬなら野菜は漬物にし、オニギリは干飯にして保存するのじゃ。

「うん、それでエエ。なんぼでも手に入ると思ぉて食べモンを粗末にするようやったら、さっさと取り上げよ、思うとったんやけど、アンタの今の言葉を聞いて安心したわ」


 ニッと笑う行則に長が、微笑み返す。


「喉元過ぎれば熱さを忘れる。これほど愚かな事はありませぬ。そして食べきれぬほどの食糧が手に入った今ならば、困った人々を受け入れる事が出来ます。これで飢え死にする者を、歯ぎしりしながら見送る生活からおさらばできます。誠にありがとうございます」

「ほうか。そんならご褒美の追加や」


 行則は長に本当の笑みを向けると。


「次は断罪の剣・ポークとチキンや」


 そう言って、新たに2人の兵士に別の断罪の剣を突き刺した。


 ポークとチキン。

 その名から連想したとおり、刺された兵士は。


「ブヒィ!?」

「コケ!?」


 豚とニワトリに姿を変えた。


「分かっとるたろうけどコイツ等も牛と同じで、絶対に死なへん。例え首を斬り落としても、すぐに体が生えてくるさかいな。ちゅうかニワトリは、そうでなかったら不便やわな」


 行則は長にそう言ってから、かつて村だった場所を見回す。

 そして行則は。


「ついでに最後の1本も試しておきたいトコなんやけど、ドコかエエかいな? そうやな、井戸があった跡がある、アソコがエエか」


 そう呟くと、長に尋ねる。


「あのな、この中で特に恨みがあるヤツ、おるか?」

「特に、ですか?」


 長が考え込むが、それを聞いていたらしい子供の1人が。


「コイツ! 母ちゃんを殺したコイツが憎い!」


 兵士の1人を指さして、そう叫んだ。

 それを聞くなり行則は。


「ほうかほうか、そらエエわ」


 再び悪魔の顔になると、その指さされた兵士の首を鷲掴みにし。


「ひぃ! な、何をする気なんだ!? お願いだ、許してくれ!」


 必死に命乞いをする兵士に。


「あかん。お前かて、今のお前みたいに何度も命乞いした人を、容赦なく嬲り殺しにしてきたんやろ? せやったら自分だけ許してもらえるワケ無いコトくらい理解しとるわなぁ?」


 そう言うと、グイっと兵士を宙づりにした。


「げが……」


 そして首を絞められて言葉を発する事も出来なくなった兵士に。


「さあ、今までのツケを払う時が来たで」


 ネッチリとした声でそう言うと、井戸があったらしい場所に歩いて行き。


「さあ、ココがお前の地獄や」


 そう言ってから、断罪の剣を兵士に突き刺した。

 と同時に、刺された兵士は。


 ぐももももももも。


 直径2メートル、高さ15メートルほどもあるサボテンに変化した。

 そして行則は。


 バシン!


 断罪の剣で、その巨大サボテンを叩いて兵士の顔を出現させると。


「この断罪の剣・ウォーターは、刺された人間を、なんぼでも水が出るサボテンに変化させるんや」


 そう言ってから、さっき叫んだ子供に手招きする。


「さ、このサボテンにゃ針が生えて無いさかい、素手でも簡単に傷つける事が出来るで。やってみ」

「うん!」


 子供は行則の言葉に、やる気満々で頷くと。


「母ちゃんの恨み!」


 子供とは思えない程の怨嗟の声を上げて、サボテンを殴りつけた。












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