第二百六話 ミンナで仲良く暮らし
断罪の剣・ビーフによって牛に変えられた兵士の首を切断した直後。
体を失った牛の首からギュルッと体が生えた。
つまり1頭の牛肉に加えて、さらに1頭分の牛肉が手に入ったワケだ。
行則は、その頭の無い牛の体を指さすと。
「誰か食材として扱いやすい様に、解体できひんか?」
そう口にした。
するとドリエーツが。
「では私が」
そう言って前に進み出ると、剣を抜き。
「ふ」
一瞬で牛をバラバラに切り裂いた。
だが、ただ切ったワケじゃない。
リブロース、サーロイン、ヒレ、ランプ、バラ、モモ、肩、脛、ネック。
タン、頬、ハツ、レバー、ハチノス、ミノ、ハラミ、ダイチョウなどなど。
肉の部位ごとに、ホルモンの種類ごとに、綺麗に切り分けている。
しかもそれぞれが大皿に乗せられているのには、俺も驚いた。
さすが魔将のトップ。
気配りも細やかだぜ……魔将トップは関係ないかもしれないケド。
そして行則は。
「よっしゃ、エエ出来や」
食材として処理された牛肉を満足そうに眺めた後。
「ほなら次は断罪の剣・ベジタブルや」
「や、やめてくれ……助けてくれ!」
「あかん」
グサ。
行則は2人目の兵士に断罪の剣を突き刺した。
すると。
わさわさわさ!
2人目の兵士の体は、爆発するような勢いで巨木に変化した。
枝には様々な野菜が実っておいたが、ナンか葉っぱが丸まったモノも。
「なんだ、これ?」
俺が、その丸まった葉っぱを手に取ってみると、中身はオニギリだった。
「マジか、野菜だけじゃなくてオニギリまで生えてるのか」
と驚く俺に。
「なかなか便利なモンやろ」
行則はニヤリと笑ってみせると。
「お~~い! タダメシ食わしたるで!」
立ち並んでいる粗末な小屋に向かって大声を上げた。
暫くは何の反応もなかったが。
「……ホントに食べ物をくれるの?」
10歳くらいの女の子が、オズオズと近づいてきた。
着てる服はボロボロで、痩せこけている。
ここでの生活が、凄く過酷なのが良く分かる。
大人はまだ行則を警戒して、出てこないみたいだけど。
おそらく飢えのあまり、我慢できなかったんだろう。
そんな女の子に、行則は。
「ああ、好きなだけ持ってったらエエで。いや、肉の方は焼いたるさかい、ちょっと待っときや。ほならサーロインの部分でさいころステーキでも作るかいな。500グラムくらいでエエかな? いや、家族がおりそうやさかい1キロくらいにしとくか。ほなら肉を一口大に切って、塩を振って……よ!」
サイコロステーキを、炎の魔法で一気に焼き上げると。
「ほい」
土魔法で作った陶器の皿に、焼き上げた肉を盛り付け。
「さ、好きなだけ食うたらエエ」
女の子に差し出した。
「ありがとう!」
お礼を言う女の子に、行則は付け加える。
「あの木に生ってる葉っぱの中身はオニギリやさかい、好きなだけ持っていき」
「うん!」
女の子はオニギリの葉っぱをもぎ取ると。
「みんな、ごちそうだよ!」
大声を上げながら、粗末な小屋の1つに飛び込んでいった。
それを優しい笑みで見送った行則に。
「ワシ等も、もらえるんじゃろうか?」
今度は老人が近付いてきて、そう尋ねた。
「もちろんや。腹減っとるモン、全員連れて来ぃや」
そして行則が、こうと答えると老人は。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げ。
「皆の衆、大丈夫みたいじゃぞ!」
そう言って、手招きをした。
と同時に。
「本当に?」
「長が、そう言うなら……」
「ああ、イイ臭いじゃ……」
「肉にコメのメシじゃと? 何年ぶりじゃろう……」
痩せこけた人の群れが、ワラワラと湧き出てきた。
って、想像してた以上に多いな。
せいぜい数十人と思ってたけど、100人を超えてるんじゃないか?
う~~ん、どこにこれ程の人々が隠れてたんだろ?
そんな痩せこけた人々を前に、行則は。
「よっしゃ、ドンドン焼くさかい、ドンドン食い!」
手際よく肉を焼きていく。
そして手を動かしたまま、俺に視線を向けると。
「ほらオッサンも手伝ってや!」
そう言ってきた。
聞きたいコトも、言いたいコトも沢山あるけど、今は飢えた人達が優先だな。
だから俺は、さっそく行則を手伝うコトにする。
とはいえ俺には陶器の皿を創る能力はないから。
「よし。肉は俺が焼くから行則は皿を頼む」
食器の用意は行則に任せ、俺は調理に専念するコトにした。
肉を切り分け、マジックバッグから取り出した調味料で下味をつけ。
「よ」
炎の吐息で肉を焼き上げると、行則が作り出した陶器の皿に並べていく。
しかし思ってたよりズット沢山の人が、ココで暮らしているみたいだな。
涙を流しながら食べている人の数は300人近くに増えてる。
しかし牛1頭分の肉が、あっと言う間に無くなってしまったのは驚いたぞ。
マジで飢え死に寸前だったんじゃないだろか?
でも全員、腹一杯食べるコトは出来たみたいだ。
満ち足りた表情で、笑い合っている。
と、余裕が出たトコで。
「みんな、聞いてもらえるやろか?」
行則が声を上げた。
「見とったモンもおるやろうけど、この肉とオニギリと野菜は、人間を変化させたモンや。この、幾らでも肉が取れる牛と、野菜とオニギリが実る木は、アンタらが好きに使ぉたらエエとワシは思うとるんやけど、どないする? もしも、人間が変じゃしたモンを食うんは気持ち悪い、ちゅうならなら持って帰るけど」
この行則の問い掛けに。
「もちろん、有難く頂戴いたします」
長は即答した。
「いつ餓死者が出ても不思議ではない状況なのですじゃ、そんな些細な事を気にしていられる場合ではないのですじゃ」
行則は、この長の真摯な答えに。
「ほうか、そんなら決まりや。ミンナで仲良く暮らし」
心からの笑みで応えたのだった。




