第二百三話 貴方たちには迷惑をかけましたね
降三世明王との腕相撲勝負の後。
「では、次は儂が」
「レディー、ゴッ!」
パタン。
「勝者、モカ!」
これが4回、繰り返された。
結局、五大明王との腕相撲勝負はモカの圧勝。
「神なんぞ足元にも及ばないくらい強い」
というオーディンの言葉はホントだったワケだ。
それはともかく。
「ここまで強くなったのなら明王撃など必要なかろう。そのスキルを回収して、その分ステータスを沢山アップさせてやろう」
金剛夜叉明王が、そんなコトをいいだしたのは想定外だった。
「そないなコト、出来るん?」
モカが不思議そうな顔をしているが、俺も別の意味で不思議に思う。
明王撃は、忍者イベントをクリアした報酬だ。
しかしオレがプログラムしたのは神の名が付いたダケの特殊攻撃。
金剛夜叉明王という神までプログラムしていない。
どうなってるんだろ?
と俺が考え込んでると。
「この世界は、其方が組んだファイナルクエストそのままに作られたが、それだけでは足りぬ部分も見受けられたらしい。そこでこの世界を創られた創造神様は、プログラムされた情報の断片から天部衆や明王や菩薩、如来まで作られたのだ。北欧神話の神とか、オリンポスの神々なども一緒にな」
金剛夜叉明王が、そう説明してくれた。
が、その後。
「自分で思っていた以上に、全力を出し尽くす事に渇望していたようだ。楽しき勝負だった。しかし、こうも思うのだ。我らは仏敵を滅ぼす戦いの神。その戦闘力を思う存分、振るってみたい、ともな」
金剛夜叉明王は、ギラリと光る目を俺に向けると。
「もちろん幼い少女相手に、そのような事をする気などない。いくら少女が我らより強かろうが、な。しかし漢である其方にならば、遠慮など必要なかろう? どうだろうか、我の全力を受け止めてはくれまいか?」
そんなコトを言い出した。
「天部とは仏の世界の守護者。仏敵からと仏と人を護る存在だ。それに対して明王とは悪を撃ち砕く存在なのだ。そして悪に負ける事など起きないように、超絶的戦闘力を与えられている。しかし明王の戦闘力は超絶的過ぎて、どんな戦いも単なる作業でしかなかった」
あ~~、次にナニを言い出すか、聞かなくてもワカるぞ。
「だから1度でいい。肌がヒリヒリするような戦いをしてみたい。勝利が決まっている勝負ではなく、勝つか負けるか見当もつかない戦いをしてみたい。どうだろうか、我らに本気の戦いというものを体験させてくれないだろうか?」
この金剛夜叉明王の言葉に。
「うむ」
「やはり戦いの中にこそ真実がある」
「我らの真価は。まさにそこだからな」
「確かに」
他の明王も、ウンウンと頷いてる。
ハァ、やっぱりそうきたか~~。
バトルジャンキーだとは思ってたけど、その通りだな。
まあ言いたいコトは、良く分かる。
でも俺は、そういうタイプじゃないんだよな~~。
ラスボスと戦うのは、レベルを十分に上げた後、ってタイプだ。
圧倒的な力で敵をねじ伏せるコトに快感を覚えるタイプともいう。
だからギリギリの戦いをしたいなんて、欠片も思わない。
とはいえ俺は、明王達より遥かに強いのだから勝負してもいいかも。
などと思い始めたトコだったが、そこに。
「お止めなさい」
穏やかで優しい、しかしなぜか素直に従いたくなるような声が響いた。
その声の主は、いつの間にか現れた神様。
1000の腕を持つ仏=千手観音だ。
正確には千手千眼観自在菩薩。
つまり『明王』の上の階位である『菩薩』だ。
その千手観音の出現に。
「「「「「はは!」」」」」
五大明王は一斉に、臣下の礼を取った。
そして不動明王が、千手観音に伺いを立てる。
「千手千眼観自在菩薩様。何ゆえのお越しでしょうか?」
「そうですね。せっかく与えられた力を、目的に沿わない事に使わないよう、お願いする為でしょうか」
千手観音の声に、強制的な響きは無い。
それどころか優しさしか感じない。
なのに心に染み入るようなオーラを感じる。
う~~ん、これは『合気』と言うヤツの究極じゃないだろうか。
どんなに殺気立った者も、相対したらスゥっと戦う気が消える。
いかな強敵も戦う気さえ無くなれば、戦いは起きない。
そして戦う意志を失った敵は、引き上げていく。
これなら戦闘力など必要ない。
ある意味、最強かも。
実際のトコ、金剛夜叉明王から好戦的な「気」がウソのように消え失せてる。
いや金剛夜叉明王だけじゃない。
他の明王も穏やかな、満たされた顔になっている。
千手観音は、たった一言で戦いを収めてしまったワケだ。
そして千手観音は、俺、モカ、ヒカルちゃんと視線を移すと。
「貴方たちには迷惑をかけましたね」
まさに仏の、慈悲と愛に満ちた笑みを浮かべた。
そして千手観音は、1000の手の平を俺達に向けると。
「明王がステータスの底上げを約束したようですが、その約束は私が変わって果たしましょう」
そう言って、目を閉じた。
その瞬間。
「おお!」
「うわ!」
「ひゃ!」
俺達は、体の底から湧き上がって来る力に、思わず声を漏らした。
これは……凄い力だ。
ヘタしたら、いやヘタしなくても世界を滅ぼせる力だ。
俺の目的は、強くなりながら、この世界を楽しむコト。
それからすると、ステータスアップしたコトは望み通りとも言える。
でも、強くなり過ぎたかも。
今まで何度もステータスアップを果たしてきた。
そこで重要だったのは、アップした力を使いこなすコトだった。
しかしここ、パンデモニウムでアップさせた力は桁違い過ぎる。
もし人の世界に戻ったら、気を付けていても被害を出してしまいそうだ。
というか、軽く触れたダケで、どんなモンスターも死んでしまいそう。
ましてや人ごみの中を歩いてたら、それだけで大量殺人になりかねない。
強くなったのは喜ばしいケド、これはちょっと困ったコトになったかも。
なんて俺の心配など、お見通しらしい。
「心配いりません。その為のスキルをお渡ししましょう」
千手観音は、そう言ってほほ笑んだのだった。




