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   第二百話  モカの海~~~~~!





 モカの無造作な投げにより。


「おおおおおおお!!!?」


 ゴロゴロと300メートルも持国天が転がったトコで。


「モカの海~~~~~!」

「へへん」


 帝釈天が得意げなモカに、軍配を掲げた。


「力だけならば天部衆最強の持国天を投げ飛ばすとは見事なりィィィィィ! 良き稽古であったァァァァ! 感謝するゥゥゥゥ!」


 帝釈天の声が響き渡るなか、持国天はモカに歩み寄ると。


「良き体験をさせて頂きましたッス! 貴方様の力を目標に、今まで以上に精進して行くッス!」


 そう言って、バッと頭を下げた。

 うん、さすが神だけあって実に清々しい。

 仏とは執着を捨てた者、という意味もある。

 つまり、つまらないプライドなど無いか。

 だから、素直にもっと努力すると言い切れたのだろう。


 ……それはそれとして、『モカの海』ってナンだよ。

 勝ち名乗りなら力士っぽい名前じゃないと締まらないのは分かるけど。

 ま、モカが気にしてないみたいだから、どうでもイイか。

 そして。


「しっかりガンバリや」

「ウゥ――――――ッス!」


 持国天と和やかに言葉を交わしたモカに。


「次の相手は広目天ンンンン! 特殊な眼力を持つ者なりィィィィィ!」


 帝釈天が、2人目の挑戦者の名を叫んだ。


「広目天の目はァァァァ! 睨んだ相手のステータスを低下させェェェ、僅かではあるが未来を読むゥゥゥゥ! 卑怯と言えば卑怯な力だがァァァァ! 戦略的に優れた、広目天独自の能力でもあるゥゥゥ! しかし戦闘力はァァァァ! 其方の方が遥かに格上ェェェ! 故に遠慮なく使わせて頂くゥゥゥゥ! では準備は宜しいかァァァァ!?」


 1キロ先に向かって叫んでいるような帝釈天に、モカが呆れた顔を向ける。


「あーー、どないな力やろと好きに使ったらエエさかい、そないに気合を入れた声で怒鳴らんでもエエで」

「ならばァァァァ! 双方、戦いの構えを取るが良いィィィィィ!」


 まったく声を抑える気が無い帝釈天に、溜め息をつきながらモカが構えると。


「オ―――――――――ス!!」


 広目天は筆と巻物を持ったまま、独特の構えを取った。

 帝釈天は、それを確認すると。


「では出稽古2戦目ェェェェ! 開始なんであるゥゥゥゥ!」


 暑苦しい声を上げた。

 と同時に広目天が。


「まずはステータスを下げさせていただくッス!」


 クワッと目を見開いた。

 どうやら眼力を発揮したモカのステータスを下げようとしたらしい。

 でも。


「? ナンも変わっとらんみたいやけど?」


 モカはフン! と腕に力を籠めると、そう呟いた。


「実際、モカちゃんのステータスが下がったように見えないですね」


 ヒカルちゃんの呟きに、俺は頷く。


「そうだな、俺もそう思うよ。ま、鑑定したらハッキリするだろうけど、モカの許可なく勝手に鑑定するのは気が引けるから、やらないけど」

「勝手にやっても、相手がトモキ先輩ならモカちゃんは全く気にしないと思いますけど」


 柔らかな笑みを浮かべるヒカルちゃんに、俺は首を横に振ってみせる。


「親しき間にも礼儀あり、ってヤツだ」

「ま、トモキ先輩のそういうトコ、嫌いじゃないですけど」


 ヒカルちゃんはそう言ってから、広目天を指さす。


「ステータスを下げるのに失敗しましたけど、まだまだやる気満々です。というか勝つ気満々に見えます。まだ諦めていませんよ」


 まるで今のヒカルちゃんの言葉が聞こえたように、広目天が言い放つ。


「まだ未来視の力が残ってるッス! 器の格が大き過ぎた故、ステータス低下の眼陸は無効化されたみたいッスが、未来視は、僅かな先の未来を覗く力! 器の格は無関係ッスから、有利に戦いを進めさせていただくッス!」


 なるほど、そうきたか。

 未来が見えるなら、モカが攻撃を繰り出す前に、何をする気か分かる。

 次に何をするか分かっているなら、避けるのは簡単。

 もちろんカウンターで迎え撃つのも簡単だろう。

 つまり、まだ広目天が勝つ可能性は残っている。


 と、言ってあげたいトコだけど。


「む!」


 広目天は、一声唸るとダラダラと汗を流し始めた。

 そしてモカがピクッと動く度に。


「むむっ!」


 バッと後ろに飛ぶ。

 更に大量の汗を流しながら、必死の顔で。


「ああ、こりゃあ勝負あったな」


 気の毒そうな声を漏らす俺に、ヒカルちゃんも同意する。


「そうですね。未来視によってモカちゃんの攻撃範囲から退避しているみたいですけど、広目天にも分かっている筈です。モカちゃんが本気で攻撃したらよけきれないって。その軌道や、狙った場所が分かっていても」


 つまり、今の状況を例えるなら。

 体に押し付けた銃の引き金を「3,2,1」とカウントした後で引く。

 弾が出る瞬間が分かっているから、避けるコトくらい出来るでしょ?

 と言われているようなモノ。


 身体能力、あるいは技量が圧倒的に上なら可能なコトかもしれない。

 でもステータスはモカの方が遥かに上。

 いやモカの戦闘力は広目天より桁が3つくらい上カかも。

 そんなモカの攻撃を避けるコトなんか出来る筈がない。


 もちろんカウンターで迎え撃つなんて無理ゲー過ぎだろう。

 つまり攻撃する構えをとったモカに対して広目天が出来るコト。

 それは全力で後ろに飛ぶことだけだ。


 しかし、そんなコトをしても無駄。

 ホントにモカが攻撃を繰り出せば、必ず命中する。

 といって、諦めてまともに食らうわけにはいかない。

 だから広目天は冷や汗まみれで後ろに飛びまくるしかない。

 どうやったらイイんが? と心の中で叫びながら。


 でも、どう考えても広目天に勝つチャンスは無い。

 というより、このままじゃ弱い者イジメしてるみたいだ。

 だから俺はモカに。


「モカ。決めるんだ」


 そう声を掛けた。

 その次の瞬間。


「了解や」


 モカは小さく呟くと。


「や!」


 全速全力の突きを広目天に放った。

 その拳が直撃したら、いくら広目天でも砕け散るしかなかっただろうが。


 ピタ!


 モカの拳は、広目天の頬の1ミリ手前で止まっていた。

 ……拳は寸止めだったんだけど。


 バヒュゥ!!!!!!


「どわぁーーーー!」

 

 その拳が生み出す風圧のコトまでは、気が回らなかったらしい。

 広目天は消失のイリュージョンもたいに一瞬で視界から消えうせ。


「ぶぎゅ」


 1キロメートル先に落下したのだった。













2023 オオネ サクヤⒸ

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