第二話 今すぐやりたい事はあるか?
ゲーム、ファイナルクエストではキャラ設定で職業を選ぶ。
職業ごとに取得し易いスキルが決まっているからだ。
つまり職業によって、取得し易いモノとし難い出来ないモノがあるワケだけど。
職業『里山の民』は、どんなスキルも簡単に取得できる。
まあ、クエストやイベントゲームをクリアしないと取得出来ないけど。
でも、それも楽しみの1つだ。
必要なスキルをガンガン手に入れて、世界最強なってやる。
と、俺がフンスと鼻を鳴らしていると。
「あ、でもファイナルクエストとは、ちょっと違う事もあるわよ」
母さんが、そんなコトを言い出した。
「え? さっきファイナルクエストと全く同じって言ってなかった?」
思わず聞き返した俺に、母さんがニッコリと笑う。
「世界は同じだけど、人間はちょっと違うわよ。文化とか生活水準とかね。だってファイナルクエストの世界じゃ存在してないけど、実際に生活すると必要な道具ってあるでしょ? そんな道具は魔道具として作られているの。料理だって、どうしても食べたくなるモノってあるわよね? だからこの世界じゃ、あらゆる料理が再現されてるわよ。寿司だろうとウナギだろうとラーメンだろうと、ね」
なるほど、そりゃそうだ。
前世の記憶があるんだから再現も不可能じゃない。
そういやこの家、森の中の一軒家なのに水道があったっけ。
しかもトイレなんてシャワートイレだったし。
ちなみにファイナルクエストの文明度は、鉄板の中世ヨーロッパにした。
でもこの世界でリアルに生きていくなら、それじゃ不便だよね。
当然、現代の知識で生活改善を目指すに決まってる。
と、そこで。
「で、ロック。この世界じゃ、子供は15歳で成人扱いになるんだ。それまで両親が育てる事になっている。でも転生者は、本人が望めば成人前でも家を出て、自分の目標に向かって行動を起こす事が認められている。それを前提として、ロックはどうしたい? 今すぐやりたい事はあるか?」
父さんが、そう聞いてきた。
そりゃあ俺だって、今すぐ旅立ちたいと思っている。
しかし現実問題として、今の俺のステータスは最低レベル。
ここがファイナルクエストと同じ世界なら、1日目でゲームオーバーだろう。
いくら『里山の民』が、最強に至る職業であろうと。
さて、どうするのが最善だろう?
考え込む俺の頭に、父さんがポンと手を乗せた。
「具体的なプランがないなら、とりあえず体と感覚を、この世界に慣らしたらどうかな? 転生者だから、当然ファイナルクエストをやり込んでいると思うが、ゲームのファイナルクエストと、リアルのファイナルクエストでは少し違うコトがあるから、そのヘンのコトを俺が指導してやろう」
「いいの?」
オズオズと聞き返す俺に、父さんと母さんがニッコリと笑う。
「当たり前だろ。お前は俺達が大切に育ててきた可愛い息子なんだから。前世の記憶なんて、ちょっとした才能みたいなモンさ」
「間違いなく私のお腹から生まれてきたんだから、どんな事がってもロックは私の子供よ」
いかん、なんか泣きそうだ。
俺が涙をグッと我慢していると。
「というワケだから、誕生祝の続きをやるぞ」
「さ、お腹すいてるでしょ。ドンドン食べなさい」
父さんと母さんは、何もなかったように誕生祝いを再開した。
そうだな。
俺は久保田智樹だが、父さんと母さんの子供=ロックでもある。
なら。
今はロックとして、父さんと母さんと生きていこう。
旅立ちの日が来るまで。
旅立てる実力が身に付くまで。
そして次の日。
「ロックも前世の知識があるだろうけど、この世界はリアルだ。ファイナルクエストを違う部分もある。だからゲームとリアルの違いを説明してやろう」
父さんはそう言うとゲームとの違いを教えてくれる。
「HPとⅯP、そしてステータスはファイナルクエストの同じようにレベルがアップしたら自動的に増えていく」
つまりHPとⅯPはレベル×30の数値になるってコト。
だからレベル1ならHPとⅯPは30。
レベルが2になればHPとⅯPは60だ。
そして力・耐久力・魔力・魔耐力・知性・速さは一律、レベル×25。
つまりレベル1ならステータスは全て25、レベル2ならオール50だ。
「ならボクのHPもⅯPもステータスも低いのは、どうしてなの?」
「それはロックがレベル1で、しかも3歳児だからだ。この世界のレベル1ってのは特殊でな。年齢や鍛え方によりステータスにバラつきがあるんだ。でもレベル2になったら話しが違う。たとえ3歳児でもステータスはオール50、HPとⅯPは60になるぞ」
「じゃあレベルアップしたらイイ、ってコトだね」
喜ぶ俺に、父さんが首を横に振る。
「それが、そう簡単じゃないんだ。例えばスタミナ。ファイナルクエストじゃあ何の意味も無いファクターだけど、リアルの世界じゃ戦いを左右する重要事だ。どれほど攻撃力が高くてもスタミナが3歳児のままだったら、勝てる戦いだって勝てないだろ?」
「あ!」
確かにゲームの中だとボタンを押すだけで1日中でも攻撃できる。
でもそれは、全力疾走を24時間続けるコトと同じ。
リアルでそんなコト、出来るワケがない。
その事に気付いて声を上げた俺に、父さんがニヤリと笑う。
「しかしロック。人間は鍛えると強くなるよな? それはこの世界でも同じだ。ステータスに表記されない肉体的能力は、鍛える事により強化出来るんだ。地球で暮らしていた時より遥かに強力にな。スタミナや身のこなし、器用さとかを」
「スタミナは分かるけど、身のこなし?」
首を傾げる俺に、父さんが説明してくれる。
「いいか。例えばロックのステータスに表記された攻撃力が100だとしよう。でもバランスを崩して、しかも片手で剣を持ってる状態でも100の攻撃力を発揮できるか? 無理だろう? つまり攻撃力が100なら、その100のままの攻撃を敵に当てれる技術が必要ってワケだ」
なるほど、そりゃあそうだ。
たとえばホームラン王に輝いた選手を例にとろう。
ホームラン王でも、毎打席ホームランを打てるワケじゃない。
ホームランよりヒットで終わる方が多いし、アウトになる方がもっと多い。
つまりステータスの攻撃力とはクリティカルの時の攻撃力。
実際はその8割とか6割、ヘタしたら4割しか発揮できない時もある筈だ。
空手の試合じゃ、練習の半分も実力を発揮できないと聞いたし。
と、納得する俺に父さんが、意外なコトを口にする。
「というワケで、まずは正拳突きだ」
「正拳突き!? それって武闘家の修行じゃないの!?」
思わず大声を上げる俺に、父さんが肩をすくめる。
「実はオレにも良く分からないんだけど、空手ってヤツは、努力すれば誰でも取得できる技術らしいんだ。だからファイナルクエストと違って、武闘家じゃなくても努力すれば素手による攻撃スキルは手に入るんだ」
父さんはそう言うと、正拳突きのやり方の説明を始める。
「要は全身の力を集約して、自分が発揮できる最強の破壊力を放つ訓練だな。本来なら3歳児がやる事じゃない。でも転生者であるロックにとって、正拳突きは最高の修行になる筈。だから正拳突きを繰り返す事によって、瞬発力とスタミナをアップさせながら、体を使いこなす感覚を養う事に挑戦してみよう」
父さんの言う通り、リアルの空手は強くなる為の最高の練習法の1つだ。
スポーツの空手じゃなくて武道だったら、の話だけど。
なにしろスポーツは誰でも楽しく安全にポイントを競うもの。
破壊力を極めたり、人体を破壊する技なんか必要ないのだから。
でもファイナルクエストは、命懸けの戦いが発生するゲームだ。
なのでプログラムに反映する為に、俺は実際に武道の空手を習った。
ホントに人生観が変わるほどの経験だったが、そのおかげで俺は。
「凄いなロック。今までいろんな転生者を見てきたが、そのレベルの正拳突きを最初から出来るヤツなんか見た事ないぞ」
この世界でも、父さんが驚くレベルの正拳突きを放てた。
とはいえ今の俺は3歳児。
すぐに息が上がり、体に力が入らなくなってしまう。
それに気が付いたのだろう。
「ロック。正確に出来なくなったら、そこまでにした方がいい。正しい形で行うから正しい破壊力を発揮するんだから」
クタクタになっても更に正拳突きを繰り返す事により、体力も増強する。
そんなやり方もあるだろう。
でも大切なのは正しい正拳突きを身に付ける事。
なので疲れにより正しい形が崩れるのを避ける、という事なのだろう。
もちろん体力増強も大切だが、それなら。
「じゃあロック。次は走り込みだ」
父さんが言ったように、走った方が手っ取り早い。
こうして3歳と1日目のこの日。
俺は正拳突きを繰り返し、疲れ果てたトコから走り込む事に明け暮れた。
普通の3歳児なら泣いて嫌がっただろう。
でも俺は嬉々として取り組む。
世界最強を目指すなら、避けて通れない事だから。
そして次の朝。
ロック(転生者) 経験値 0
職業 里山の民
年齢 3
レベル 1
Hp 4(←3)
ⅯP 2
力 2(←1)
耐久力 2(←1)
魔力 1
魔耐力 1
知性 1
速さ 2(←1)
運 5
攻撃力 4(2+2)
防御力 4「2+2」
魔法攻撃 2(1+1)
魔防力 2(1+1)
職業 里山の民
スキル 鑑定 マジックバック
ステータスがアップしていた。
どうやら努力は、ちゃんと報われたみたいだ。
うん、素直に嬉しいな。
あ、ファイナルクエストを知らない人の為に説明しておくかな。
攻撃力とは、力と速さを足したモノ。
でもこの数値は、最高の攻撃を繰り出せたら、この数値になるというモノ。
防御力も同じ。
力を入れて耐えた場合、このくらいと攻撃に耐えれる、という数値だ。
だから防御力は、耐久力に力を足した数値になっている。
次は魔法攻撃と魔防力について説明しようかな。
その前に。
魔力は単純に、魔法を操る強さ。
そして知性は、情報処理能力と言い換えるコトが出来るかも。
つまり知性とは魔法を正確に、しかも多重処理する能力。
知性が高いほど緻密に、そして多くの魔法を同時に発動できる。
例えば威力増幅、追尾効果、貫通、連続発動を付与するコトも可能。
もちろん知性が高ければ、もっと多くの付与が出来る。
だから魔法攻撃のステータス値は魔力+知性。
同じように、魔防力も知性によって数値が変わる。
知性が高ければ、多重展開、積層化、反射などが付与できるから。
なので魔防力のステータス値は、魔耐力+知性となっているワケだ。
う~~ん、他にも色々あるけど、今はココまでにしておくね。
2023 オオネ サクヤⒸ