第百九十八話 今度こそ、本当にさらばだ
「黙示録の獣よ。お前はどうしてパンデモニウムの悪魔達を使って人を苦しめているのだ?」
オーディンの問い掛けに、行則は少し考えた後。
「ま、そこのオッサンのフォローやな」
行則は俺を指差して、そう言った。
「俺のフォロー? そういやフェンリルが襲撃してくる直前、悪魔が人間を陥れるのは俺の所為だって言ってたけど、どういうコトなんだ?」
思わず聞き返した俺に、行則が肩をすくめる。
「まあオッサンの所為ちゅうんは言い過ぎやけど、1番の問題はこの世界じゃ生まれ変わるモンが多い、ちゅうコトや」
はぁ、と溜め息をついた行則に、モカが尋ねる。
「生まれ変わったら、ナニかあかんコトでもあるんかいな?」
「生まれ変わるコト自体がアカンのやない。生まれ変わったら、前世の知識を持ったまま、新しい人生が始まるコトが問題なんや」
「普通のコトやと思うんやけど?」
首を傾げるモカに、行則が説明を始める。
「エエか? 例えば沢山の人間を虐殺した殺人鬼がおったとしよや。その殺人鬼が前世の知識を持ったまま生まれ変わったら、どないすると思う? 今度の人生でも人を殺すんとちゃうか? いや、もっと沢山に人を殺しまくる可能性の方が高いとワイは思う。実際、もっと残虐に、そしてもっと沢山の人を殺すヤツの方が圧倒的に多いんや」
「なるほど、そら問題やわ」
納得するモカに、行則は頷く。
「せやろ? そして他にも大きな問題があんねん。どないな極悪人やろうと、生まれ変わったら何のペナルティーも無しに、人生を最初から始められるコトや。極悪人も、沢山の人々を命懸けで救った善人も、全く同じ条件で人生を再スタートできる。これって不公平やと思わへんか?」
「そら不公平やな。ちゅうか許しがたいコトやで」
「やろ? せやさかいワシは、そないな悪人共に相応しいペナルティーを与えとるんや。前世で悪いコトを山ほどやっときながら、生まれ変わったから前世の悪行なんぞは全部チャラ、今は幸せな人生を送ってます、なんて許せへんさかいな」
という行則の主張にオーディンが呟く。
「そこで悪魔か」
「せや! そんな前世で悪事を働いたモンの人生にペナルティーを与えよ、思うてもワシ1人じゃ出来るコトなんぞタカが知れとる! せやさかい悪魔に命令にして悪人にペナルティーを与えとるんや!」
ピッと指を立てる行則に、モカが尋ねる。
「でも前世で悪いコトしたかどうかなんて、どうやったら分かるん?」
首を傾げているモカに、行則が溜め息をつく。
「忘れたんかいな、ワシは前世の行いが分かるスキル『浄玻璃の鏡』を持っとるっちゅうコトを」
「そういや、そないなコト言うとったわ」
「大事なコト忘れんで欲しいわ。ホンマかなわんで」
行則は苦笑を浮かべるが、直ぐに表情を引き締める。
「そんで話を元に戻すけど『浄玻璃の鏡』で判明した悪事に相応しい苦難を与えるんが、悪魔の仕事なんや。基本的には倍返しで」
「倍返し?」
オーム返しに聞くモカに、行則が頷く。
「せや、倍返しや。1人殺したんなら2人分、2人殺したんなら4人分の苦しみを与える。ちゅうても2度殺すコトなんぞ出来ひんさかい、死んだ方がマシと思える苦しみを2回与えるんや。ま、他にも与えるペナルティーの種類は色々あるんやけど、基本、殺すコトはせぇへん」
「なんで?」
モカの素直な質問に、行則が真っ黒な笑みを浮かべる。
「死んだら楽になるダケやん。犯した悪事に見合うだけの苦しみを味わってもらわにゃ、酷い目に遭った人が浮かばれへん。せやさかい、悪魔は簡単に人を殺さへんねん。最後まで苦しめて、苦しめて、苦しめ抜くまでな」
「せやさかい、魔族たちは、あないなコトを言うとったんやな」
「あないなコト?」
聞き返す行則に、モカは。
『正面からの戦いで人間を殺しても、手に入る負の感情は大した物じゃ無いんだ。質の悪い苦痛、悔しさ、恐怖なんかが手に入るだけだ。しかも量まで少ないときている』
『その点、騙して操って甘い夢を見せた後、人生の絶頂で全てをブチ壊してやった時の衝撃、落胆、絶望、悲しみ、喪失感、悲壮感といった感情の濃厚さと、まるで溢れ出る温泉のような量。レベルが一気に跳ね上がる快感を味わえるんだ』
「妻、娘、息子、母親、父親といった家族や、恋人、親友、恩人という大切な人を目の前で殺してやった時の負の感情も最高だし、嫉妬心や不安を煽って何の罪もない人間を拷問させたり虐殺させたりした時の苦痛、恐怖、恨み、怒り、絶望なども実にイイ! イキそうになるぜ!」
という、パンデモニウムの外に居た魔族が言っていたコトを説明した。
ってモカ、よく覚えてたな。
ま、たしかに衝撃的な言葉だった。
これを聞いて、俺は魔族と悪魔をブチ殺すコトに決めたんだっけ。
「でも魔族は悪人に罰を与えようとしていたのか。悪いコトをしたな。まあ、襲い掛かって来たのは魔象の方なんだから、罪悪感は殆ど無いケド」
思わず呟いた俺に、行則はパタパタと手を振る。
「あ~~、ちゃうちゃう。アイツ等は、そないな性格になるよう、儂が造っただけや。魔族なんぞに、そないな高尚な考えなんぞあらへん。それに言うたやろ? 生変者は上級悪魔以上の悪魔やて。つまり下級悪魔と魔族は、自分の趣味で人間を苦しめとんのや」
そこで行則は魔王と魔将に視線を向けた。
「魔王、魔将、上級悪魔にもスキル『浄玻璃の鏡』は与えとる。それにより魔王や魔将や上級悪魔は人間の前世の悪行を見破って、ペナルティーを与えるんや。倍返しを基本にして、な」
そう締めくくった行則に、オーディンが尋ねる。
「しかし、その悪魔の数は、かなり減ったのではないのか? 責めている訳では無いが、そこのロックという者達の所為で」
深刻そうな顔のオーディンに、行則はカラカラと笑う。
「大丈夫や。下級悪魔なんぞ、1日あったら10万匹生み出せるさかい、アッと言う間に元通りや」
「そうか。なら儂の手伝いは不要だな」
穏やかに笑うオーディンに、行則も微笑み返す。
「せや、大丈夫や。でも、その心遣いには感謝しとります」
珍しく殊勝な行則に、オーディンが神の威厳を纏って答える。
「うむ。悪人に罪を償わせる行為は正しい。もし困った事があったなら、ヴァルハラに連絡すると良い」
「そら、おおきに。でも、どないして連絡したらエエんです?」
という行則の質問に、オーディンが空を指さす。
「空を舞う鴉に語り掛けよ。この世界の鴉は全て、儂の配下だからな」
「そやの!?」
大声で話に割り込んだモカに、オーディンが優しい顔で頷く。
「そうだ。さっきまでは普通の鴉だったが、ワシが復活すると同時に、全ての鴉とチャンネルが繋がった。よって儂に用事があるなら鴉に語り掛けるのだ。即座に儂に連絡が入る」
「そうなんや。ほんなら困ったコトがあったら頼らせてもらうで」
祖父に甘える孫の顔のモカに、オーディンも爺バカの顔で答える。
「うむ、いくらでも頼るが良い。もっとも戦闘力では、嬢ちゃんの方が遥かに上じゃから、それ以外でな」
オーディンは、ちょっと複雑な顔になるが、直ぐに最高神の顔になると。
「では、今度こそ、本当にさらばだ」
そう言って、ユックリと消えていった。
2023 オオネ サクヤⒸ




