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   第百九十一話  では、戦うか





 空気が一気に、深い海の底のように重く暗いズゥンとしたモノになった中。


「そないな惨いメに遭ったんか……つらかったやろうな……可哀そうになァ」


 モカがポロポロと涙を零しながらドリエーツの肩に手を置いた。


「エエんやで、泣いても……魔将やかて、悲しいコトや辛いコトがあったら泣いたらエエんや」


 いやモカ。

 魔将達より遥かに年下のお前が、なんでそんなに上から口調なんだよ。

 ドリエーツも困ったあげく、苦笑し始めたぞ。


 とはいえ、よくやったぞ、モカ。

 鋼鉄の様に厳しかった魔将達の顔が、優しいモノに変わった。

 きっとモカが、魔将達に代わって泣いてくれたおかげだ。

 ひょっとしたら娘のコトでも思い出しているのかもしれない。


 と、空気が和んだトコで、ドリエーツが口を開く。


「しかし最近、こう思う事が増えてきたのでござる。今の生き方は、妻や娘に恥じぬものであろうか、と。武士の誇りを口にできる生き方でござろうか、と。そんな時にロック様と戦い、己が心に素直に従う事にしたのでござる」


 と、そこで。


「実を言うとワシも、転生者を騙し、たぶらかして心を闇に染め、ゴミに相応しい最後を遂げさせて、その苦しみを糧にする。この悪魔の生き方に、思う所が無い訳ではない」


 憤怒が意外なコトを言い出した。


「そこで、今さらではあるがロック殿に伺いたい。ロック殿は何が目的でパンデモニウムに乗り込んでこられたのだろうか?」


 俺のコト、いつの間にかロック殿と呼んるな。

 少しは俺のコトを認めてくれてるんだろうか?

 しかし、目的か。

 そうだな、ここは正直に話すか。


「最初は人間を悪の道に走らせる悪魔を滅ぼす気だった。居城であるパンデモニウムごと」


 俺がそう言うと、空気がピィンと張り詰めるが。


「でもドリエーツの話を聞いた今、どうするべきか分からなくなってきた。悪魔がやってるコトが間違ってる、と言い切れなくなってきたから」


 そう続けると、直ぐに張り詰めた空気は、柔らかくなった。


 しかし、マジでどうしよう?

 ……そうだ、こうしよう。


「とにかくトップと話してからだな。パンデモニウムのトップである魔神から色々と話を聞いて、その上で、俺の仲間としっかり相談してから、どうするか決めたいと思う」


 もちろん魔王と魔将の話も、良く聞いてから。

 そう心の中で付け加える俺の前に憤怒が進み出る。


「ならば話し合いに来たという前提で魔神様の元へ案内する、という事で良いだろうか?」

「ああ、宜しく」


 俺がそう答えると。


「了解した」


 憤怒は俺に一礼してから、謁見の間の奥に造られた扉へと向かう。

 今までの、どんな扉よりも立派は大扉だ。

 魔神が座する、王座の間に続く扉に相応しい、豪華で荘厳な扉だ。

 憤怒は、その大扉に手を掛けると。


「魔神様! 謁見を求める者をお連れしました!」


 声を凛と張り上げ、一気に扉を開け放った。

 その先にはあるのは広大な空間。

『王座の間』と呼ぶに相応しい、絢爛豪華な広間だった。

 全体の雰囲気は宙世ヨーロッパ風にまとめられている。

 ベルサイユ宮殿、ノイシュバンシュタイン城などを参考にしたんだろう。

 しかもオリジナルよりも遥かにグレードアップされている。

 壁に掛けられた絵、調度品、床に敷かれた絨毯、壁の装飾など。

 そのどれもが地球で目に出来る最高のモノだ。


 しかし、それ以上に洗練された、誰が見ても神々しさを感じる芸術品。

 それがパンデモニウムの最奥に造られた王座だ。


 その王座に座っている、1人の男。

 コイツは魔神だろうが、魔王と同じく人間の姿をしてる。

 見た目通りとは思えないケド、歳の頃は大学生くらいか。

 身に纏っているのは簡素だけど、物凄く高価そうな服。

 ほっそりとした体つきだけど、魔王達とは別次元のオーラを放っている。

 何気ない動きにも見え隠れする、圧倒的エネルギー。

 コイツ、強い。

 ヘタしたら俺より遥かに。


 と、少し焦る俺に。


「貴様等が、このパンデモニウムで何を行ったか分かっている。だから敢えて我を鑑定する事を許そう。さあ、遠慮なく鑑定するが良い」


 魔神がそう言って、余裕の笑みを浮かべた。

 そうか、なら遠慮なく。

 という事で鑑定した結果、分かったのは。


 黙示録の獣(転生者)

 HP     120京

 ⅯP     110京

 攻撃力   6000京

 防御力   5800京 


 魔神が転生者であるというコトと。

 俺より10倍、強いというコトだった。


 うん、ヤバい。

 普通に戦ったら、瞬殺されかねない戦闘力差だ。

 お、モカも魔神を鑑定したらしい。


「なんちゅうステータスや……」


 目を見開いて、絶句してる。

 ここまで戦闘力に差があるモノと、出会ったコトが無いからだろうな。

 それはヒカルちゃんも同じみたい。


「これは驚きましたね……」


 一言口にすると、黙り込んでしまった。


 ヤマタノオロチに転生して262年。

 その間、自分より強い存在に出会ったコトが無かったから、当然かも。

 とにかく、話し合いをするコトにしておいて良かった。

 と俺がホッとしてると。


「では、戦うか」


 魔神=黙示録の獣はそう言って、王座から立ち上がった。


「魔神様、お待ちを! この者達は謁見を望んでおります!」


 憤怒が、慌てて声を上げるが。


「謁見を望んでいるか、望んでいないかなど関係ない。余と謁見するに値する者かどうか、今から見定める。さあ、今まで得た力を示すが良い」


 魔神=黙示録の獣はそう言うと。


「ぬぅおおおおおおおおおお!」


 咆哮と共に、異形へと姿を変えた。


 基本は人の姿だが、頭には4本の角が生えている。

 両方の拳は、3本の角を生やした竜の顔になってる。

 この角を、爪の様に振り回して攻撃してくるのかな?

 両肩と両膝も龍の顔になってて、その口からはブレスが漏れてる。


 黙示録の獣は、7つの頭に10の角を持つらしい。

 行則はそれを、こんな姿にプログラムしたのか。

 なかなか独創的だな。

 これはこれで、パンデモニウムのラスボスに相応しい姿かも。


 まあ、それは置いといて、いきなりラスボス戦に突入するの?

 う~~ん、予想外の展開だな。

 ってコレ、大ピンチなんじゃないのか!?









2023 オオネ サクヤⒸ

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