第百八十六話 な、な、な、なんちゅう大きさや……
「おぉおおおおおおおおおおおおおお!」
半人半竜の魔王=嫉妬が吼え、その体が膨らんでいく。
と、それを目にするなり。
「あ、このバカ! こんなトコで本性を現す気か!」
傲慢が焦った声を上げた。
そして傲慢は。
「だから単純バカは困るんだ!」
嫉妬を睨みつけると。
「異空間展開!」
そう叫んで両手をバッと広げた。
と同時に周囲の風景がグニャリと歪み……。
次の瞬間、俺達は見渡す限りの荒野にいた。
空を仰ぐと満天の星。
でも周囲は太陽が輝いているかのように明るい。
風に乗って渦巻き、流れ、そして彼方に消えていく、光る粒子の所為だ。
そして目の前にそびえ立つのは巨大な壁。
実に不思議な風景だ。
「ナンやココ?」
警戒しながら周囲を眺めるモカに、傲慢が胸を張る。
「我が本体が存在する次元空間から、次元を3つ挟んだ場所にある位相空間だ。人の身では我が何を言っているか分からないだろうが、パンデモニウムとは別の場所だと思えば良い。まあ見ての通り、とてつもなく広いがな」
「ふうん。で、ナンでこないなトコにウチ等を連れて来たん?」
「嫉妬の本体によって謁見の間が壊されてしまうのを回避する為よ」
「壊されてまう? ナンで?」
ストレートに聞き返すモカに、傲慢が目の前の壁をバシーンと叩く。
「言ったであろう? この嫉妬によってだ」
「この……!?」
そこでモカは気付いたようだ。
傲慢が叩いたのは壁じゃなくて巨大化した嫉妬だというコトに。
「な、な、な、なんちゅう大きさや……」
そう呟くモカを、傲慢が嘲笑う。
「鎌首をもたげると成層圏にまで達する、全長20キロメートルの巨大海竜。それが嫉妬の本性だ。この巨体に対して、人間が出来るコトなど1つも無いわ!」
勝ち誇る傲慢に、ヒカルちゃんは。
「はぁ~~」
大きなため息をつくと。
「たった20キロで何を偉そうに語ってるんです?」
馬鹿にしたような声を漏らした。
「なんだと? 嫉妬の巨体には我ですら手を焼くのだぞ」
目に威圧を込める傲慢に、ヒカルちゃんはニッコリと笑うと。
「上には上がいるって事を思い知らせてあげます」
そう言ってヤマタノオロチに姿を変えた。
ってヒカルちゃん、前より大きくなってない?
嫉妬の2倍半くらいのサイズだよ?
と俺が驚いてるのに気が付いたのか、ヒカルちゃんが説明を口にする。
「さっきステータス捕食によってステータスがアップしましたよね? そのせいでレベルと体のサイズもアップしたんです。長さ20キロ程度の蛇なんか問題になりません」
ま、そうだろな。
嫉妬の攻撃力は1京4000兆。
防御力2京8000兆のヤマタノオロチに傷一つ負わせるコトは出来ない。
ヒカルちゃんが嫉妬を蛇と呼んで見下すのも当然と言えよう。
しかもヤマタノオロチの攻撃力も2京8000兆。
嫉妬など瞬殺できる攻撃力だ。
おまけにサイズも嫉妬の2・5倍。
どう見ても嫉妬に勝ち目はない。
それは嫉妬も分かっているのだろう。
青い顔で冷や汗を滝の様に流してる。
というか20キロの巨体が流す汗って、マジで滝レベル。
バシャバシャと音を立てて地面に降り注いでいる。
が、それでも意地があるのだろう。
「ぐぉおおおおおおおん!」
嫉妬は自らを鼓舞するように雄叫びを上げると。
「オデだって魔王の1人! 簡単に負けるワケにはいかない!」
グワッと口を開けてヤマタノオロチに突進した。
おお! 巨大怪獣どうしの死闘が始まる!
と俺は、ちょっとドキドキしたけど。
バッチィーーン!
ヤマタノオロチの尻尾が嫉妬を直撃。
「ぶはぁ!」
嫉妬の巨体は100キロメートルも吹っ飛んで動かなくなった。
いやピクピクと痙攣してるから、動いてはいるか。
けど、誰の目にも勝負あったと映ったハズ。
その証拠に、6人の魔王は口をアングリと開けたまま動かなくなってる。
ってか、まさか1撃でやられるとは思ってなかったんだろうな。
あまりにも簡単に倒されたので茫然自失状態だ。
でも、そんな中でもヒカルちゃんはマイペース。
人の姿に戻るとスキル『武器変化』により手から剣を生やし。
ぷす。
剣先を嫉妬に突き刺した。
そして俺達のトコに戻ってくると。
「はい、どうぞ」
俺とモカの指先に嫉妬の血を垂らした。
そしてヒカルちゃんは、残りの血を自分の口元に運ぶと。
「これでステータス1京4000兆ゲットです」
ペロッと血を舐めてほほ笑んだ。
もちろん俺もモカも血を舐めて累計ステータスを増やす。
これで俺もモカも累計ステータス値が1京4000兆になった。
よし、ステータスアップ……。
が、そこで我に返ったのだろう。
「貪欲!」
憤怒が鬼の形相でそう叫び。
「任せて! はぁああああああああ!」
ローブを身に纏った少女=貪欲が魔力を高めた。
そして。
「えええええええええい!」
鬼気迫る表情で叫んだ貪欲の手に、1振りの刀が出現した。
そして貪欲は。
「これが、私が召喚できる限界の武器であるパンデモニウムの護り刀よ。じゃあ憤怒。後は任せたわ」
憤怒にパンデモニウムの護り刀を手渡すと、パタリと倒れて気を失った。
その貪欲の、やるべきことをやり切った顔を見下ろしながら憤怒が呟く。
「限界を超えて魔力を使い切った為、気を失ったか。ご苦労だった、後は任せろ」
そして憤怒はパンデモニウムの護り刀をガシッと握り直すと。
「これこそ攻撃力5京を誇るパンデモニウム最強の武器=パンデモニウムの護り刀なり! この刀による斬撃ならば、キサマ等の防御力を突破できよう。覚悟するが良い!」
俺達に向かって、高らかに言い放った。
そんな憤怒にモカが不思議そうな顔を向ける。
「攻撃力がアップしたんを秘密にして、いきなり斬りかかったら倒せたかもしれへんのに、ナンでワザワザ教えるんや?」
「騙し討ちで手に入れた勝利になど、何の価値も無いからに決まっておろう! 強力な敵に対して数で挑むのは戦略なり! しかし不意打ちや騙し討ちは武士の恥なり! 戦力の差は数で補うが、卑怯な真似はせん!」
人によっては、勝手な理屈というだろう。
でも憤怒には憤怒なりの、譲れないモノがあるらしい。
俺はちょっと憤怒を見直した。
2023 オオネ サクヤⒸ




