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   第百八十三話  分かった。従魔契約を結ぼう





「おおおおおおおおおおおお!」


 最強の魔将=ドリエーツが攻撃してきた。


 ほお、これは合気道に似た戦い方だな。

 魔将最強のステータスを誇るクセに、ステータスに頼ってない。

 むしろ力に頼らない、技のキレで敵を倒す戦い方だ。


 でもココぞ! という場面では全力の攻撃を仕掛けてくる。

 打撃、関節破壊、急所攻撃、投げ技などなど。

 どの技も、持てる全ての力が集約されている。

 まさに鍛錬=鍛え上げ、練り上げた技だった。


 ところでいきなり話は変わるけど、覚えているだろうか?

 俺が桃源郷で、武術を極めた天狗に鍛えられたコトを。

 そして天狗が指導してくれた様々な技の中には。


「ドリエーツの戦い方に似たモノもあったんだよな」


 俺は、そう呟くとドリエーツとの戦いに集中する。

 天狗の修行を受けた以上、技比べでも負けない!

 そう心の中で言い切りながら。


 まあ実際のトコ、天狗の技に比べたらドリエーツの技はまだまだ。

 対処するのは難しくない。


 でも逆に、俺にとって良い練習台とも言える。

 余裕があるから、自分の動きを落ち着いてチェックできる。


 例えば、今の俺の防御はちょっと力尽くだった。

 全身の動きで防御してたなら、力を必要としなかったハズだ。

 例えば今、俺が使った崩し技。

 もっと腰がキレてたら、ドリエーツは宙を舞ってただろう。

 天狗の技に比べたら、俺の技はまだまだ荒い。


 そう心の中でつぶやきながら、俺は天狗の動きを追う。


 天狗はもっと体を滑らかに使ってた。

 天狗はもっと体の力を抜いて動いてた。

 天狗はもっと動きが安定してた。

 天狗はもっと動きが見切れなかった。

 天狗はもっとキレのある体裁きだった。

 天狗はもっと一瞬の動きに全身の力を集約してた。

 天狗はもっと……。


 鮮明に瞼に残る天狗の動きをトレースするコトだけ考える。

 攻撃はしない。

 ドリエーツの動きを誘導し、転がすか投げるだけにしておう。


 え、どうして投げるダケにしてるのか、って?

 よし、説明しよう。

 投げるには下半身を安定させて、相手の動きをコントロールするコトが必須。

 そして、その状態から拳を繰り出せば、十分は破壊力を発揮する。


 だから、もし投げれる態勢からの1撃をドリエーツに放ったら。

 ドリエーツは粉々に砕け散ってしまうだろう。

 拳に全く力を籠めなくても、安定した下半身が勝手に力を発揮するからだ。


 そしてドリエーツが。


「万斬自在とやらによるワケの分からない死を迎えるのではなく、正々堂々と正面から全力を尽くして戦い、其方が握った刀なり拳を直接この身に受けて、最後を迎えたい。如何か?」


 そう言った時から、俺はドリエーツのコトが気に入ってしまった。

 だから殺す気など、今はもう全くない。

 ついでに言えば。

 何度も技を繰り出しているウチに、なんだか稽古仲間みたいに思えてきた。

 ハッキリ言えば、もう倒すべき相手とは思えない。


 なので、数えきれないほど地面に転がされたドリエーツが。


「ふう。拙者、己の持てる全ての力を振り絞った上で敗北し申した。もはや一片の悔いなし。止めを刺されよ」


 地面に転がったまま、満足げにそう言ったトコロで。


「魔将としてじゃなくて武人をして生きていくなら命まで取らない。というか命を奪いたくない。だからこれから魔将としてじゃなく、己を鍛え上げるコトを喜びとする武人として生きて行ってくれないかな?」


 俺はドリエーツに、そう頼み込んでいた。


「俺と戦ってたトキのアンタは、凄く楽しそうだった。魔将として人間から負の感情を集めるより、自分を鍛え上げて強くなるコトの方がアンタ本来の生き方じゃないのか? もしアンタがそう生きてくれるなら、俺がアンタを倒す理由は無いんだけど、どうだろう?」


 ドリエーツは俺の提案に、一瞬目を丸くするが。


「わははははははは!」


 直ぐに気持ちよさそうに笑い出した。


「確かにそれこそが拙者が望む生き方! 今まで魔将と生まれ変わった以上、悪魔として生きて行くしか無いと思い込んでいたでござる。しかしもっと自由に生きて良かったのでござるな! たった今、決心したでござる。拙者、只今より魔将としての地位を捨て、一介の修行者として己の武を極める事のみを求めて生きていくでござる!」


 そしてドリエーツは、俺の前に正座して尋ねて。


「貴方様のお名前を伺っても宜しいでござろうか?」


 こう尋ねてきた。


「今はロックと名乗ってる」


 そして俺がそう答えると、ドリエーツは両手を地面について頭を下げた。

 卑屈な土下座じゃない。

 惚れ惚れするほど美しく、礼儀正しく心の籠った所作=座礼だ。


「ロック様。ロック様を我が主として、拙者の命を捧げる事を許して頂けないでしょうか」


 おっと、そうきたか。

 俺としては魔将じゃなく侍として生きて欲しかったダケ。

 ドリエーツの主人になる気なんかゼンゼン無い。

 でもドリエーツの言葉は真摯なモノ。

 ホントは断りたいトコだけど、なんだか断りにくい。

 う~~ん、どうしたモンかな。


 と俺が考え込んでると。


「ならトモキ先輩と従魔契約を結んだらどうです?」


 ヒカルちゃんが、いきなりそう言いだした。


「言い難いんですけど、今のアナタは魔将、つまりファイナルクエストでは人間じゃ無くてモンスター扱いなんです。でも逆に人間じゃ出来ない従魔契約をトモキ先輩と結ぶ事が出来ます。自分の全てを主に捧げる従魔契約を」

「おお、それは願っても無い!」


 ヒカルちゃんの言葉に、ドリエーツが目を輝かす。


「形式などどうでも構わないでござる。そして我が覚悟を示すに相応しいと思うでござる。ロック様、どうか拙者と従魔契約を結んで頂きたいでござる!」


 と、そこで更に想定外のコトが。


「ドリエーツ殿が結ぶのならば、拙者とも従魔契約を!」

「拙者もお願い致すでござる!」

「ロック様こそ我が主に相応しい!」

「是非とも拙者も!」

「どうか拙者にも!」

「従魔契約を!」


 魔将達が、そう声を上げ始めた。


「魔将としての生き方には以前から疑問を持っておりました!」

「己を鍛える事を喜びとする侍として生きて行きたいでござる!」

「己に誇りを持てる生き方をしたいでござる!」

「弱い者イジメなど、もうしたく無いのでござる!」


 そうか、魔将はミンナ誇り高い侍だったのか。

 なら反対する理由はない。

 全員、俺の従魔になって貰おうかな。

 そうしたら魔王や魔神に強制されても人間に害をなさないだろうし。

 というコトで俺は。


「分かった。従魔契約を結ぼう」


 魔将40人に、そう答えたのだった。












2023 オオネ サクヤⒸ

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