第百七十八話 俺の『時空攻撃無効』をコピー!
「しかし上級悪魔は限界突破Lv3クラスだけあって、ここじゃあ、かなり役に立つアイテムが手に入ったな」
俺は上層で手に入れたアイテムを並べて、モカとヒカルちゃんに目をやった。
「さてと。とりあえず宇宙樹の実は直ぐ食べて、スキル『宇宙樹の若葉』を取得しようぜ」
「了解や!」
「賛成!」
というコトで、スキル『宇宙樹の若葉』を取得。
10秒でHPとⅯPが全回復するようになった。
う~~ん、今さらだけど、とんでもないチート能力だぜ。
で、次は装備アイテムの分配だけど、ヒカルちゃん曰く。
「あ、いくら人の姿になっててもワタシはヤマタノオロチ、つまりモンスターなので装備品を身に付ける事は出来ません」
というコトで。
力・護り・速さ・魔力の腕輪は俺とモカが収納。
代わりにHP2倍とⅯP2倍を全部、ヒカルちゃんに渡した。
これでヒカルちゃんはHP2倍とⅯP2倍も2つずつ持つコトになる。
ま、今すぐヒカルちゃんに使って貰ってもイイんだけど。
「攻撃力を上げるとステータスアップに必要な累計ステータス値が増えてしまうので、勝てない敵に遭遇したら使います」
というのが、ヒカルちゃんの答え。
確かにそうなので、使うタイミングはヒカルちゃんに任せるコトにした。
まあ、それはそれとして、気になるコトが。
「モカ、ヒカルちゃん。気付いたか?」
俺は微かな揺らぎを感じて、モカとヒカルちゃんに目をやる。
「なんやろ、コレ?」
モカは首を傾げるだけだったけど。
「敵の攻撃ですね」
ヒカルちゃんは、殺気の籠った眼で、そう答えた。
「攻撃といっても、これは呪術の1種ですね。いわゆる『呪い』というヤツでしょうか。ワタシ達にはそよ風みたいなモノですが、レベル99程度の人間なら即死するレベルの呪いです」
呪い。
様々なバッドステータスを付与する特殊攻撃だ。
即効性はないけど、徐々に肉体を蝕んでいく、厄介な特殊攻撃だ。
しかも気が付いた時には手遅れというコトも多い。
なんだけど、やっぱ俺には僅かな揺らぎにしか感じない。
しかし。
「攻撃された以上、反撃しないワケにはいかないな」
俺はモカとヒカルちゃんにそう言うと、千里眼で『呪い』の波動を探る。
あ、いた。
100匹ほどの上級悪魔が魔法陣を取り囲むようにして座り込んでる。
フン、これが『呪い』の魔法陣か。
『呪い』の長所は、普通の方法じゃ防げないコト。
そして、誰が何処で『呪って』いるか分からないコト。
でも千里眼Lv5の力なら、簡単に発見できる。
後は排除するダケだ。
おっと、これはモカの訓練に丁度イイな。
「モカ。千里眼Lv5と千斬自在を併用して、この『呪い』を仕掛けてきている上級悪魔を切り捨ててみないか?」
「そらエエ練習台やな! 分かった、やってみるで!」
モカはさっそく千里眼で『呪い』を仕掛けている上級悪魔を発見。
「た!」
千斬自在を放った。
お、上級悪魔100匹全部を1度に斬り捨てたな。
これなら隠れた敵が1000匹いても瞬殺できるだろうな。
モカが言ってたように「エエ訓練」になったみたいだ。
……他にも視線を感じるが、攻撃してくる気配はない。
今のを見て、ビビったんだろう。
下手に手を出したら、隠れていても斬り殺される、と。
ま、手を出してこないのなら、見逃してやるか。
隠されたアイテムも回収したコトだし、先に進むとしよう。
と思ったんだけど、そこで。
バチィ!
モカの目前で空間が弾けた。
「な、なんや!?」
モカがビックリした顔で視線を真上に向けるが、それより早く。
「むん!」
俺はモカの頭の上に向かって拳を放ち。
ビシャ!
モカの頭上に現れた上級悪魔を粉々に粉砕した。
と同時に俺は、ヒカルちゃんに叫ぶ。
「俺の『時空攻撃無効』をコピー!」
「はい!」
ヒカルちゃんがそう言った直後。
バチッ!
今度はヒカルちゃんの目の前の空間が弾けた。
「ふう、間に合って良かった……」
溜め息をついた俺の横で、モカが殺気の籠った声を漏らす。
「ロックにぃ、今のは上級悪魔の攻撃やな?」
「ああ。でも心配する必要はないぞ。モカは竜宮城で『時空攻撃無効』のスキルを取得してるからな。どっちかというとヒカルちゃんの方が危なかったけど、俺からスキル『時空攻撃無効』をコピーしたから、もう大丈夫だ」
「はい、危なかったです。トモキ先輩の声がもう少し遅かったら致命傷を負ってたかもしれません」
ホッとした声を上げるヒカルちゃんに、モカが尋ねる。
「今のヒカルちゃんやったら上級悪魔の攻撃なんぞ平気なんとちゃうの?」
「ええ、普通の攻撃だったらかすり傷一つ負いません。でもさっきの攻撃は転移攻撃でした。これをまともに食らったら只じゃ済まなかったです」
ヒカルちゃんの説明を聞いて、モカが首を傾げる。
「転移攻撃? それって、そないにヤバいモンなん?」
ま、そう思うだろな。
モカはこの世界の生まれ。
物理学や化学の知識を学ぶ基幹なんか無かったのだから。
そんなモカに、ヒカルちゃんが説明を始める。
「はい、とってもヤバい攻撃だったんです。具体的に説明すると、さっきの悪魔は剣を構えて、その剣がワタシに突き刺さる位置に転移してきたんです」
「それって転移してきた時には、もう剣が刺さっとるちゅうコト!?」
思わず大声になるモカに、ヒカルちゃんが深刻な顔で首を横に振る。
「剣で刺されるというレベルの話じゃありません。ワタシの体の中に剣が転移されるという事は、原子と原子が衝突するという事です。そうなったら大陸を吹き飛ばすレベルの原子爆発が起きていたでしょう」
ヒカルちゃんの説明を聞いて、モカはブルリと震える。
「ちゅうコトは、もし『時空攻撃無効』を手に入れとらんかったらウチ……」
「粉々に吹き飛んでたでしょうね」
「ひぇ……」
モカは言葉を失うが、直ぐに首を傾げる。
「そないな大爆発を引き起こしたら、このパンデモニウムも吹き飛んでまうんと違うの?」
モカの疑問に、ヒカルちゃんが根気よく答える。
「だから剣を使ったんです。剣を体内に転移されたら、ワタシは原子爆発を起こしますよね? 転移してきた悪魔は、そのワタシを爆発ごと別の場所に転移させるつもりだったんでしょう」
「ヒカルちゃんを爆発ごと別の場所に転移? そないなコト出来るモンなん?」
モカの疑問に、ヒカルちゃんは苦笑いを浮かべる。
「出来るから仕掛けてきたんです。まあその悪魔も、転移した先で爆発に巻き込まれて命を失うでしょうけど」
「つまり自爆攻撃ちゅうコトかいな!?」
驚くモカに、ヒカルちゃんが真剣な顔で頷く。
「そうです。ファイナルクエストではカミカゼ・アタックと恐れられた、極悪初見殺しです」
そう言ったトコで、ヒカルちゃんはニコリとほほ笑む。
「でもトモキ先輩から『時空攻撃無効』をコピーさせて貰った今、脅威でもナンでもないですけど」
そしてヒカルちゃんは微笑みを、凄みのある笑みに変えたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ