第百七十六話 このまま中層に行かす訳にはいかん
文岡行則なら、絶対にアイテムを隠している。
そういう確信はあったが、それがドコなのか分からない。
だから俺は、モカとヒカルちゃんと一緒に、慎重に調べながら先に進んでいく。
『パンデモニウム』1階の中心を貫いるのは巨大な回廊。
上の階を目指すなら、このまま回廊を勧めばいい。
でも回廊の両側には、扉があったり通路が伸びていたりしている。
「扉やら横道やら、ぎょうさん用意されとるけど、千里眼で視たら一発やな」
ふん、と鼻を鳴らすモカに、ヒカルちゃんが通路の1つを指さす。
「でもモカちゃん。あの通路の先は、千里眼でも視えませんよ」
「つまり、あの通路を進んだらエエ、ちゅうコトやな!」
「ちょっと待った!」
俺は慌てて、目を輝かせて通路に駆け込もうとするモカを止める。
「あの通路に足を踏み入れたトコで、もう1度、千里眼を発動させるんだ」
「へ? う、うん」
モカは俺の言う通り、通路に足を踏み入れると目を凝らす。
俺もモカの隣で千里眼で通路の先を見通してみようとする。
うん、やっぱり千里眼じゃ見通せないようになってる。
『パンデモニウム』攻略を困難にしてやる、という執念を感じるぜ。
でも、根性を入れて千里眼を発動させていると。
「あ。急に見えるようになったで!」
モカが言ったように、急に視界が広がった。
「え~~と、ワタシの視界は変化してませんけど?」
不思議そうな顔のヒカルちゃんだったが。
「あ、ここでもレベル1の恩恵が働いてるんですね! 超高度な隠蔽ダンジョンを視る事によって千里眼のレベルが上がった。そうでしょ、トモキ先輩」
「ああ、その通り。しかも俺は職業『里山の民』の補正のおかげで千里眼Lv3を取得できた」
「ええ!? ウチの千里眼はレベル2やのに……ズッコいわ!」
俺は、頬を膨らませるモカの頭にポンと手を置く。
「ヒカルちゃんの『スキル複写』でモカにもコピーするんだから、どっちが早くスキルアップさせようと一緒だろ?」
「そらそうやけど……なんか納得できひんわ」
「ま、それはそれとして、ヒカルちゃん。千里眼Lv3をモカにコピーしてくれるかな? もちろんヒカルちゃんにも」
「了解です。あ、さすがレベル3だけあって、この階の全てを見通せます」
ヒカルちゃんは嬉しそうに笑うと、2つ先の通路を指さす。
「まずは、あの先にある宝箱ですね」
そう。
ここから1番近いのは、あの通路の先にある隠し部屋の宝箱だ。
ついでにいうと、この階に隠された宝箱の数は6つ。
中身は全部、アイテムみたいだ。
う~~ん、残念。
武器や防具じゃなかったみたいだ。
でも限界突破Lv2クラスの階層の武器など、タカが知れてる。
アイテムの方が役に立つかも。
という期待で、全てのアイテムを集めると。
HP2倍 × 2
ⅯP2倍 × 2
攻撃力2倍 × 2
防御力2倍 × 2
武器攻撃力2倍 × 2
防具防御力2倍 × 2
というチートアイテムだった。
「で、ダレがどれを使うか、どないして決める?」
モカがギラギラと目を輝かせてるけど。
「残念だけど、今は使わないでおこう」
俺は、そう答えた。
「今のステータスを2倍にするより、もっと強くなってからステータスを2倍にした方が、お得だろ?」
「せやな。非常事態でも起きひんかぎり、出来るだけ後にした方がエエわ」
モカの意見に、ヒカルちゃんも頷く。
「ワタシも、そう思います。それに取っておけば、何かあった時、切り札になりますから」
というワケで。
せっかくのチートアイテムだけど、今は使わないコトになった。
「誰がどれを使うかは、その時に決めるとして、万が一の保険として、取り敢えず分配して、マジックバックに仕舞っておくコトにしよう」
ヒカルちゃんはヤマタノオロチ、つまりモンスター。
だから武器も防具も装備できない。
つまり武器攻撃力2倍も防具防御力2倍も、持つ意味が無い。
なので武器攻撃力2倍と防具防御力2倍は俺とモカが持つコトにする。
ちなみに俺もモカも装備しているのは攻撃型鎧。
攻撃力と防御力が直結してる武具だ。
だから攻撃力を2倍にしたら防御力も2倍になる。
そして防御力を2倍化にしても攻撃力は2倍になる。
というコトで。
「じゃあ俺とモカは、武器攻撃力2倍と防具防御力2倍を1個ずつマジックバックに収納する。これで俺とモカは、いつでも攻撃力と防御力を同時にアップできるコトになったワケだ。そしてヒカルちゃんは、攻撃力2倍と防御力2倍を2個ずつ持つってコトでイイかな?」
「はい、それでイイです」
となると、残りは4つ。
HP2倍が2個と、ⅯP2倍が2個だ。
そしてヒカルちゃんは既に4つ、強化アイテムを持ってるから。
「残りは俺とモカがHP2倍とⅯP2倍と1個ずつだな」
「了解や」
これで全員がアイテムを4つずつ、マジックバックに収納したコトになる。
「じゃあ上級悪魔は住む『パンデモニウム』中層に向かうとするか」
俺はそう言うと広い回廊に戻り、中層へと続く階段へと向かう。
千里眼Lv3のお陰で、この下層にはナニも無いコトが分かってる。
だから、このまま中層へと進むつもりだったけど。
「このまま中層に行かす訳にはいかん」
階段の手前にある大広間に辿り着いたトコで、そんな声が聞こえてきた。
と同時に。
「うわ! 今度はエラい、ぎょうさんやな」
モカが思わず口にしたように、下級悪魔の大群が床から湧き出てきた。
千里眼Lv3によると、その数は8000匹。
今、俺達が建っているのは、サッカー場くらいの広間の中心付近。
悪魔8000匹に取り囲まれた状況だ。
普通なら絶体絶命の状況だけど。
「はん。ザコがナンボ集まっても、ウチ等にダメージを与えられへんで」
モカが言ったように、楽々と倒せる相手だ。
その位、下級悪魔だって理解してる筈なのに、どういうツモリなんだろ?
と俺が不審に思ってると。
「千斬自在といったか? 1度に1000の攻撃が出来る上、連射も可能とは恐れ入ったよ。しかし2発目を放つまで0・3秒かかっていた。まだ本気ではなかったみたいだが、それでも実技の攻撃まで0・1秒はかかるだろう」
下級悪魔はそう言うと、壮絶な笑みを浮かべた。
「となると、我ら8000を全員切り伏せるには0・8秒が必要となる。対してこの距離なら0・5秒あれば、お前たちに辿り着ける。そして辿り着いたら我らのもの。命と体と魔力を全てを破壊力に転化させる自爆技を使い、お前たち全員をここで倒してみせる!」
「げ」
悪魔の覚悟を悟り、モカは顔を青くする。
仮に0・1秒で5回千斬自在が放てても、まだ敵は3000匹残る。
その悪魔3000がし縛技を放ってくるというのだ。
命と体と魔力を全て破壊力に転化させて。
ちなみに広島に投下された原爆。
その爆発の破壊力を生み出したのは、僅か1グラムのプルトニウムだ。
そして爆発しなかった大量のプルトニウムが放射能汚染を引き起こした。
では命と体と魔力全てが生み出す破壊力とは、どれ程のモノになるか?
少なくとも、このまま食らいたくはないぞ。
というコトで俺は。
「万斬自在」
行動を起こす前に、下級悪魔8000匹を両断した。
1万の斬撃を自由自在に操る特殊能力=万斬自在で。
2023 オオネ サクヤⒸ