第百七十五話 思いっきり練習させて貰うで~~
「下級悪魔はもうイイです。さっさと先に進みませんか?」
人の姿に戻ったヒカルちゃんの言葉に、俺は頷く。
「ああ。さっさと上級悪魔が住む階層に進もう」
すると、そこでモカが。
「それは賛成やけど、そう簡単に通してくれるやろか。さすがに止められるんとちゃう?」
と、もっともなコトを言い出した。
「ま、蹴散らしたらエエんやろうけど、下級悪魔は20万もおるんやろ? 全部相手にするんは、ちょっとメンドいわ」
と顔を曇らせるモカに、俺は言い聞かせる。
「モカは、装備してる『極限の神鎧』の特殊能力『千斬自在』を、あまり使ったコトなかったろ? せっかくだから練習してみないか? 下級悪魔の実力は限界突破Lv2クラスだから、練習相手に丁度イイし」
「丁度イイし?」
首を傾げるモカに、俺はニヤリと笑ってみせる。
「コピーしたスキルも、試せるなら試しておいた方がイイだろ? ここはファイナルクエストの地から切り離された空間にある『パンデモニウム』の中。少しくらいやり過ぎても、何の問題も無い」
「せやな! いくらカンストしとっても使いこなせへんかったら、強力なスキルを持っとる意味が無いわ」
モカは納得したらしく、楽し気に目を輝かすと。
「よーし、せっかくやさかい、思いっきり練習させて貰うで~~」
そう言いながら、広間の奥に向かって歩き出した。
「ほれほれ、人間が勝手にパンデモニウムの中を歩き回っとるで。放っておいてエエんか?」
なんてモカが言った所為かどうかは分からないけど。
「人間よ。我らが宮殿で、好き勝手できると思うなよ」
10歩も進まないうちに、大群を率いた悪魔が床から湧き出て来た。
千里眼によると、その数2000匹。
率いている悪魔を含めて、全て下級悪魔だ。
「なんや。上級悪魔は下級悪魔を率いて出てきたんかと思ったら、ゼンブ下級悪魔かいな」
不満げなモカに、群れを率いた悪魔がフンと笑う。
「ここはパンデモニウムの下層の間。上級悪魔が姿を現す筈がなかろう」
「な~~んや、ココにはザコしか出て来ぃへんのか。つまらんわ~~」
『ザコ、だと?』
モカの挑発に、下級悪魔達の額にピキッ! と青筋が浮かぶ。
ま、今のは挑発じゃなくて素直なダケだけど、結果は同じ。
「ザコかどうか、その身で思い知れ!」
「己の思い上がりを後悔しろ!」
「この数を相手に出来る訳が無かろう!」
下級悪魔は怒り狂って襲い掛かってきた。
そんな下級悪魔2000匹に。
「どう見てもザコやし、思い上がってもおらへんし、大した数でもあらへん」
モカは冷静にツッコむと。
「とりゃ」
千斬自在を発動。
ズパッ! × 1000
1000匹の下級悪魔を両断した。
ところで前にも説明したけど。
千斬自在は、1000の飛ぶ斬撃を好きなトコに放つ能力だ。
そして千里眼と併用するコトにより、性能が跳ね上がる。
千里眼は敵意のあるモノは赤色に表示される。
ちなみに敵となる可能性があるモノは黄色で、敵意の無いモノは緑色だ。
だから赤表示の下級悪魔にうち、自分に近い順に斬撃を放つ。
それだけで1000の悪魔を斬り伏せるコトが出来る。
しかもクールタイム無しに、連撃可能。
なので。
「ほい」
初撃から0・3秒後に放った、次の千斬自在は。
スパン! × 1000
残った下級悪魔1000匹を、キレイに切断した。
モカは、その下級悪魔の残骸を眺めると。
「やっぱザコやったな」
そう言うと、振り返り。
「ロックにぃ! 千斬自在、使おてみたら、ごっつエエ感じや。ウチ、ドンドン千斬自在の練習するでェ!」
笑顔で歓声を上げた。
俺には、無邪気で可愛らしい笑顔に見える。
でも悪魔の目には、震えが止まらないほど恐ろしく映ったかもしれない。
だって、これ以降。
「なんや? なんぼ進んでも、下級悪魔が1匹もおらへんやん」
モカが言ったように、下級悪魔は1匹も出て来なくなったのだから。
「ま、エエか。下級悪魔なんぞ、なんぼ『ステータス捕食』を使ぉても大したステータス値には、ならへんのやさかい」
その通り。
だからさっき倒した下級悪魔2000匹は放置しておいた。
ザコの血を舐めるより、さっさと先に進んだ方が効率的だからだ。
と、そこでヒカルちゃんが。
「でも文岡さんなら、何か仕掛けをしてるんじゃないですか? いくら最下層とはいえ、悪魔の宮殿パンデモニウムです。下級悪魔がたむろしてるダケ、なんてプログラムで文岡さんが満足するとは思えません」
こんなコトを言い出した。
言われてみたら確かにそうだ。
行則の性格からして、下級悪魔が群れてるだけの場所である筈がない。
だから俺は。
「よし、調べてみよう」
ヒカルちゃんとモカと共に、下層をシッカリ調べるコトにした。
「って、千里眼で調べたらエエだけやん」
そう言うモカに、俺は首を横に振る。
「いや、この『パンデモニウム』には、千里眼でも発見できないモノがある可能性が高い。というより、絶対に隠してあると俺は思ってる」
そう言った俺に、ヒカルちゃんが頷く。
「はい。ワタシもそう確信してます。なにしろ文岡さんなんですから」
「そのフミオカイクノリちゅう人、マジでヤバい人なんちゃう?」
モカの感想に、俺とヒカルちゃんは口を揃えて答える。
「ああ、悪ノリの天才だ」
「思いもしない事なら、文岡さんが1番です」
「うわ、ホンマに厄介や」
うげ、と変な声を上げたモカに、俺は微笑む。
「でも苦労に見合ったアイテムが用意されてると思う。お宝が隠されてないダンジョンをオレは許さない、ってよく言ってたから」
俺はファイナルクエストの世界の全てを知っている。
でも『パンデモニウム』は行則がプログラムしたモノ。
つまり俺が知らないダンジョンだ。
なら久しぶりに、純粋なダンジョントライをやってみよう。
未知のダンジョンに潜って敵と戦い、アイテムを探すダンジョントライを。
と決意する俺に、ヒカルちゃんが真剣な顔を向けてきた。
「トモキ先輩。あの文岡さんが用意したお宝です。きっと凄いアイテムに違いないですよ。そう思うと、ちょっとワクワクしてきません?」
「そうだな。行則のコトだから、きっと変わった、だけど強力なアイテムが隠されているだろうな。よし、絶対に見つけてやろうぜ」
そう俺が答えると。
「はい!」
「もちろんや!」
ヒカルちゃんとモカが、やる気満々の声を同時に上げた。
2023 オオネ サクヤⒸ