第百七十三話 キサマ等は使い捨てアイテムだ
悪魔が住む宮殿『パンデモニウム』を千里眼で覗いて。
「下級悪魔が約20万匹、上級悪魔が約4000匹、魔将が42匹、魔王が7匹に魔神が1匹か。って、デカ過ぎだろ!」
俺は思わず大声を出した。
20万といったらちょっとした地方都市の人口だ。
その数が住んでるって、パンデモニウム大き過ぎ。
「せやけど、この魔神っちゅうのがラスボスやろ? 宮殿入り口から真っ直ぐ進めば魔神がおる謁見の間なんやさかい、攻略は簡単やな!」
ポジティブなモカに、俺は暗い声で答える。
「下級悪魔と上級悪魔がウヨウヨいる巨大な回廊を10キロほど進むコトになるけどな。しかも中庭まであるし」
しかし返って来たのは。
「そないなモン、ウチ等が本気で走ったら一瞬やん!」
もっとポジティブな発言だった。
「普段から自分達が生活しとる宮殿なんやから、罠なんぞ仕掛けとらんやろ。やったら何の心配も無く、駆け抜けられるで!」
自信満々のモカに、俺はため息をつく。
「あのな、モカ。その魔王ってのが隠しボスだったら、それでイイ。でも隠しボスっていうくらいだから、まだ出現してないと思う。だからもっともっと強くなる為に悪魔をシッカリと利用しなきゃならない。つまり、片っ端からなぎ倒すワケにはいかないんだ」
「メンドくさ~~~~」
テンションだだ下がりのモカに、俺は言い換える。
「スキル『スーテタス捕食』を使って、一気にステータスをアップさせるチャンスなんだ。それを逃すのは、もったいないだろ?」
「せやった! さっきの魔族は弱すぎてアップせぇへんかったけど、パンデモニウムにおるんはもっと強い悪魔やった! よっしゃ、ソイツ等の血ぃ舐めて、一気に強くなったるで!」
と、そこでモカは、急に考え込む。
「せやけど、ヘタに悪魔を倒したらレベルアップしてまうさかい、気を付けんとアカンな。せっかくレベルが1のお陰でスキルがガンガン育つんやさかい」
そんなモカに、ヒカルちゃんが声を掛ける。
「あ、スキル『ステータス捕食』を持ってる場合、敵を倒してもレベルアップしませんよ。経験値の代わりにステータスを奪うスキルですから」
「そうなん!?」
驚くモカに、ヒカルちゃんはニコッと笑う。
「でも『ステータス捕食』はオンオフ機能がありますから、好きな方を選ぶ事ができますよ」
「そうやったんか……ほならスキル『ステータス捕食』をオンにしくわ。その方がお得やさかい」
モカの言う通り。
今の俺達にとって、レベルアップによるステータス値の上昇は微々たるモノ。
わざわざレベルを上げるメリットはない。
『ステータス捕食』によって強くなる方が、遥かに効率的なのだから。
と、そこでモカが首を傾げる。
「でも、せやったらヒカルちゃんのレベルは、永遠に今と同じなんかいな?」
「あ、さっき説明した事は、あくまで人間の場合です。ワタシはモンスターですから、ステータス値がアップしたら、それに応じてレベルが自動的にアップするようになってます」
「へえ、そないなっとるんか」
「ま、スキル『ステータス捕食』はヤマタノオロチであるワタシだけが持つスキルですから、例外中の例外なんですけど」
「ナンか物凄いコト、サラッと言うた!?」
目を真ん丸にするモカに、ヒカルちゃんがウインクしてみせる。
「驚くのはまだ早いですよ? 他のスキルも全部オリジナルですから」
「もっとエラい話しキター!」
などとモカとヒカルちゃんがじゃれ合ってるウチに。
「さてと。ここからが本番だ」
俺達は『パンデモニウム』の城壁に到着していた。
その城壁に築かれているのは巨大な門。
悪魔の宮殿に相応しい、グロい装飾が刻まれてる。
金属製の分厚い門扉は見るからに堅牢だけど、今は開け放たれたまま。
攻め込んで来るモノなんかいないと思ってるからなんだろう。
その先には広がるのは、醜悪な生物の体の中のような不気味な空間だ。
正方形の空間で、広さは東京ドーム10個分くらい。
これって宮殿のエントランスに相当する場所なんだろうか?
ま、どうでもイイか。
とにかく入ってみよう。
と、俺が『パンデモニウム』に足を踏み入れようとした瞬間。
「人間が何の用だ?」
いきなり門扉が喋った。
正確に言うと、門の扉に刻まれた化け物の顔が問い掛けて来た。
「な、なんや!?」
思わず声を上げたモカを、門扉の顔がギロリと睨む。
「この先に住まうのは下級悪魔だが、その強さは限界突破Lv2クラス。人間ごときが勝てる相手ではない。大人しく引き返すがよい。ここでオマエ等を殺しても大した経験値にならぬからな」
「つまり人間界に戻って悪魔の陰謀に引っ掛かかり、苦しみ抜いて悪魔の経験値になれ、と言ってるんだな?」
俺は門扉に、普通に聞き返すたつもりなんだけど。
「あ。こらアカンときのロックにぃや。」
「はい。関わったらダメな時のトモキ先輩です」
モカとヒカルちゃんが、なにやらジリジリと後ろに下がってる。
今の俺、そんなに危険そうに見えるのか?
……でも、悪魔を皆殺しにする気にはなったかな。
悪魔に取り付かれたワイト達のコトを思い出したから。
だから。
「モカ。ヒカルちゃん。ここは俺に任せてくれ」
「「……!」」
俺はそう言うと、無言でコクコクと頷く2人に背を向け。
「スキルアップとステータスアップの為の踏み台になれ」
そう呟いてから大広間に足を踏み入れた。
その瞬間。
「おいおい、人間がパンデモニウムに入ってきやがったよ」
「ゴミ以下の存在のクセに、何と大それた事を」
「しかも、たった3人で、ときたモンだ」
「ひゃははは、笑えるゥ~~」
「ま、下等生物に身の程を教えてやるのも高等生物の役目か」
「左様。ここはシッカリと教え込むべきじゃよ」
「教えた瞬間、消滅するがな」
「たかが人間なんだから、それも仕方なき事よ」
「そうそう。私達、人間でいったら限界突破Lv2クラスなんだから」
床から悪魔が湧き出てきた。
凶悪な顔、異形の体、コウモリの翼、長くて鋭いカギ爪、尖った尻尾。
まさに悪魔の見本みたいな姿をしてる。
コイツ等が実質の門番なんだろうな。
数は……20匹か。
HPとⅯPは50万から80万くらい。
攻撃力と防御力は、200万から300万くらい。
ハッキリいって、ザコばっかだ。
でもコイツ等、普段から床下で待機してるのかな?
いつ敵が攻めて来るか分からないのに、ズット床下で待ってる悪魔。
なんか笑えるぞ。
ま、いっか。
キサマ等はスキルアップの為の、使い捨てアイテムだ。
覚悟しろよ。
2023 オオネ サクヤⒸ