第百七十話 キサマ、悪魔か!
「胸無し」の一言で、モカから殺気が吹き上がった。
でも、殺気を発してるのは、モカだけじゃない。
「胸の大きさが価値観の全てなんて、生かしておく価値、ゼロですね」
ヒカルちゃんも、射殺すような視線を悪魔に向けていた。
う~~ん、ヒカルちゃんの胸も、ちょっと小さめ……かも?
気にするほどじゃないと、俺は思う。
けど、そんなコトを口にできるほど、俺は勇者じゃない。
どんな化学反応を起こして、どんな大惨事になるか見当もつかないからだ。
なのにこの悪魔、その超危険ワードを大声で怒鳴りやがった。
その度胸には感心するぜ。
ま、その結果、無残な死を迎えても、それは自己責任だけど。
というか、モカとヒカルちゃんの殺気圧で、悪魔は既に瀕死。
「…………」
声を出すコトすら出来ずに、口から噴き出してる。
ま、このまま命の灯が尽きるまで放置しててもイイけど。
「なあモカ、ヒカルちゃん。どうせ殺すんだったら、もっとスキルを上げる為に使わないか?」
俺はモカとヒカルちゃんに、そう提案した。
「もっとスキルを上げるって、何する気なん?」
興味を持ったらしいモカに、俺は説明を始める。
「スキル『8神龍の吐息』もレベルアップするってコトが判明してたろ? 今までヒカルちゃんは『8神龍の吐息』をレベルアップさせるコトが出来るほどの強敵と出会えなかったみたいだけど、俺とモカのレベルは1。ちょっと使っただけでレベルアップさせるコトが出来るハズだ」
「言われたみたら、確かにそうやな」
ふーむ、と唸るモカに、俺は「胸無し」発言した悪魔を指さす。
「だからモカ。さっきは俺が『ステータス捕食』をカンストさせたケド、今度はモカが『8神龍の吐息』をレベルアップさせてみないか? コイツを『8神龍の吐息」の標的にして』
俺がそう言ってニヤリと笑うと。
「そらエエわ」
モカもニヤリと黒い笑みを返し。
「ウチを胸無し呼ばわりしたコト、血の涙を流しながら後悔させたるで」
「胸無し」発言した悪魔に、俺でさえ怖くなるような目を向けた。
と、そこでヒカルちゃんが、大気がミシミシと軋むほどの圧を放つ。
「ワタシもやりたいんですけど……」
地獄から響いてくるような声を上げるヒカルちゃんを。
「いや、ヒカルちゃん、ここはモカに任せてくれないかな?」
俺は冷や汗を流しながら説得する。
「ヒカルちゃんのレベルじゃ、この悪魔に吐息を吐いても『8神龍の吐息』をレベルアップさせるコトが出来ないだろ? 止めを刺す役目は任せるから」
「それなら仕方ないですね……」
ヒカルちゃんがシブシブ納得したトコで、俺はモカに声をかける。
「じゃあモカ。『8神龍の吐息』で悪魔を攻撃するんだ。あ、殺さない様に気を付けてな。ヒカルちゃんが、止めを刺すのを楽しみにして待ってるんだから」
「了解や。ウチが拷問官で、ヒカルちゃんが死刑執行人やな」
今『拷問官』って言い切った。
拷問する気、満々だよ。
って、あれ?
今のモカの発言で、他の悪魔達までガタガタと震えてだしたぞ?
『8神龍の吐息』の威力を知ってるのかな?
それともモカの目に浮かんでる残酷な光を恐れてるのかも。
ま、どうでもイイか。
「いくで!」
ゴォオオオ!
「はぎゃぁあああああああああ!」
龍の吐息で腕を焼かれる、という運命は変わらないんだから。
いや、ちょっと違いはあるかも。
今の悪魔は、火属性の吐息で右腕を蒸発させられてたけど。
ズビュ!
「ぎぇええええええええええ!」
今度の悪魔は水属性の吐息で、右腕を潰されている。
ま、火水風土雷冷光闇の8種のどれを食らっても結果は悲惨だ。
と、そこで。
「ロックにぃ! 『8神龍の吐息』のレベルが3になったで!」
モカが嬉しそうに叫んだ。
「やっぱレベルが1やと、スキルのレベルがドンドン上がっていくんやな! むっちゃ気持ちエエで!」
輝くような笑みを浮かべると、モカは吐息を再開。
今度は4匹目の悪魔が悲鳴を上げたトコで。
「ロックにぃ! 『8神龍の吐息』のレベルが4になったで!」
モカが弾けるような笑顔を俺に向けた。
「よし、その調子で頼む」
「モカちゃん、ガンバレ~~」
「うん!」
俺とヒカルちゃんの声援に機嫌を良くしたのだろう。
「おらおらおらおら! ドンドンいくでェ!」
モカはガラの悪い掛け声を上げながら吐息攻撃を再開。
そして8匹の悪魔が右腕を失ったトコで。
「よっしゃ! レベル5や!」
モカがブン! と拳を突き上げた。
というコトで、16匹でレベル6に、32匹でレベル7にアップ。
続いて64匹でレベル8にレベルアップ。
が、全ての悪魔の右腕を消失させたトコで。
「あん? 128回、吐息を吐いたらレベル9になると思うたけど、右腕が残っとるヤツ、おらへんやないか。どないしよ」
モカはそう言って、ワザとらしく困った顔をしてみせる。
が、直ぐに無邪気な笑みを浮かべると。
「でもまだ左腕が残っとるさかい、問題ないわな。ほなら最初に両手両足を失ってダルマになるんは……もちろんオマエや」
モカは胸無し発言悪魔に、研ぎ澄ました刃のような目を向けた。
「出来る限りユックリと炎の吐息の温度を上げていって、ユ~~~~~ックリと左腕を焼いたるさかい、根性を見せてみぃや。さっきウチに『胸無し』言うたみたいになァ!」
そう言って 鬼の笑みを浮かべるモカに、胸無し発言悪魔が叫ぶ。
「キサマ、悪魔か!」
「悪魔はオマエやろ」
モカは冷静にツッコむと。
「ほなら根性、見せェや」
ボッ。
言葉通り、威力を思いっきり抑えた火の吐息を吐いた。
本気の火の吐息なら、一瞬で腕は蒸発していた筈。
だけど今、モカが吐いた吐息はガスコンロの火くらいのモノ。
ジュウジュウと、胸無し発言悪魔の腕を焼き上げていく。
「ぎゃひぃいいいいいい!」
胸無し発言悪魔は、悲鳴を上げながら地面を転げまわるが。
「そないなコトで、ウチから」逃げられると思うとるん?」
モカは、胸無し発言悪魔の左腕を、絶妙に焼き上げていく。
そして。
「がひゅ……」
胸無し発言悪魔が意識を失ったトコで、モカは吐息を中止した。
そしてモカは、残りの悪魔に目を向けると。
「次や」
それだけ口にした。
この、1ミリの躊躇も無い発言に、悪魔も心が折れたらしい。
さっきまで戦う意志が残ってた目が、完全に怯えたモノに変わり。
『ひぃいいいいい!』
悪魔達は一斉に逃げ出した。
いや、逃げ出そうとした。
けど逃げる為の足が無いのだから、逃げれるワケがない。
ってか、逃げられないように、俺が最初に斬り落としたんだけど。
それに加えて、全ての悪魔はモカの吐息攻撃で右腕まで失っている。
這うだけで精一杯だ。
そんな這って逃げようとする悪魔達の前に立ち塞がったのはヒカルちゃん。
「どこに行く気ですか?」
さっきの「胸無し」発言に、まだ腹を立ててるのだろう。
鋼鉄のように冷たい声で、そう言った。
もちろん、これはさらなる地獄が始まる前フリ。
げし! げし! げし!
ヒカルちゃんは、逃げようとする悪魔をモカの方へ蹴り飛ばしていく。
そして弧を描いて飛んできた悪魔の左腕を。
「よぉ戻ってきたな」
モカは吐息でお出迎え。
「ぎゃぁあああ!」
キッチリと左腕を消失させていく。
そして、かなりの合計51匹の悪魔が左腕を失ったトコで。
「ロックにぃ! 『8神龍の吐息』レベル9になったで! これでカンストや!」
モカが、今日1番の笑顔で声を上げたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ