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   第百六十七話  コイツ等、生かしておけない





 地獄の門を潜り『パンデモニウム』に侵入すると、そこは。


「真っ暗だな」


 本多忠勝が呟いたように、完全な闇だった。

 とはいえ俺はスキル『千里眼』を持ってるから、全てを見渡せる。


「草木一本生えてない、荒野ですね」


 もちろんヒカルちゃんにも見えてるし。


「でも遠くに悪魔が200匹くらいおるで。ま、正確に言うたら232匹やけど」


 モカも『千里眼』を発動させてる。

 しかし伊達軍の兵士は暗闇を見通すコトは出来ない筈。

 まあ『暗視』のスキルくらいなら持ってる者もいるかもしれないが。

 と思ったら。


「松明を灯せ!」

「魔導ライトを出せ!」

「夜間戦闘態勢!」


 直ぐに明かりを確保、戦いの準備を整えた。

 さすが戦国エリアを統一しただけあって、対応が早い。

 だが明りを灯したからだろう。


「人間が侵入したぞ!」

「このパンデモニウムにか!?」

「ま、いいさ。全滅させれば良い」

「皆殺しだな」


 侵入がバレて、すぐに悪魔の群れ=232匹がコッチに向かってきた。

 と、そこでヒカルちゃんが困った顔を俺に向ける。


「トモキ先輩、マズいです。あいつら限界突破1クラスですよ」

「え!?」


 俺も千里眼と存在把握を発動させて簡単なステータスを視てみると。


 レベルは130から800くらい。

 HPとⅯPは15000から85000。

 攻撃力は3万から20万くらい。

 おそらくココにいる悪魔は、パンデモニウムに入れない下っ端だろう。


 なのに限界突破1クラスの強さの悪魔ばかり。

『パンデモニウム』攻略、ナメてたら痛い目に遭いそうだ。

 なら、方針を変更しないといけないな。


 となると、ハッキリ言って直江兼続達は足手まとい。

 加えて、俺達がやるコトを見られたくない。

 早い話、伊達軍には退場願いたいんだけど、どう言おう?

 ……とりあえず。


「直江さん、あの悪魔達を鑑定してみてください」


 俺は、直江兼続に現実を直視して貰うコトにした。


「分かりました」


 直江兼続は、俺の言う通り鑑定を発動すると。


「これは……退却するしかありませんね」


 直ぐに決断を下した。

 よかった、冷静な判断が出来る人で。

 だから直江兼続は。


「パンデモニウムは俺達に任せてくれないかな?」


 という俺の提案に


「了解しました」


 迷うことなく、こう答えた。

 だけど。


「では地獄の門の前で、凱旋をお待ちしております」


 直江兼続は、ちょっと意外なコトを言い出す。


「殿の命令を果たせぬのは口惜しいですが、預かった兵を無駄死にさせるワケにはいきません。それ以上にロック殿の足手まといになりたくありません。そこで撤退はいたしますが、地獄の門の前で帰りをお待ちしております」


 真面目な顔でそう言う直江兼続に、俺は苦笑する。


「マルチ尾張の街で待っててくれたらイイですよ。カタを付けたら、必ず報告しますから」

「いえ、いくらマルチ尾張でも3000名が宿泊できる宿はないでしょう。それに伊達軍は野営にも慣れております。地獄の門の前に宿営地を築いて、帰りをお待ちしております」

「なら、出来るだけ早く帰って来ますよ」


 と、俺が笑顔で約束すると。


「は」


 直江兼続は俺に向かって頭を下げ。


「撤退! 急げ!」


 全軍に命令を下した。

 と同時に伊達軍は方向転換。


「ご武運を!」。


 そのまま地獄の門に向かって駈け出した。


 ほう、全員、何の迷いも無く、直江兼続の命令通り退却に徹してる。

 う~~ん、見事な撤退だな。

『一糸乱れぬ』とは、こんな軍のコトを指すのだろう。


 と、伊達軍を見送る俺の背後から。


「おい、オマエ等は逃げ出さないのか?」


 悪魔が声をかけてきた。


「あれ? いきなり襲い掛かって来ると思ったのに……意外です」


 ヒカルちゃんが不思議そうな顔で呟いてるけど、俺も同感。

 悪魔たちがノンビリ歩いて来たから伊達軍は無傷で撤退するコトができた。

 もし悪魔が普通に襲い掛かって来てたら、厳しい戦いとなった筈だ。


 という俺達の疑問に悪魔がニィッと笑う。


「人間を殺しても、あまりメリットが無いんだ。だから殺すより、ここは逃がしておいて後でシッカリ稼ぐ方が、割がイイんだ」

「なんやソレ?」


 ぶっきらぼうにツッコむモカに、悪魔が楽し気に説明を始める。


「あのな、人間はモンスターを倒して経験値を得て、レベルアップするだろ? でも悪魔は違う。悪魔がレベルアップするには人間の負の感情が必要なんだ」


 ナンかお喋り好きの悪魔だな。

 まあイイか。

 とりあえず情報を引き出せるだけ引き出そう。


「早い話が、正面からの戦いで人間を殺しても、手に入る負の感情は大した物じゃ無いんだ。質の悪い苦痛、悔しさ、恐怖なんかが手に入るだけだ。しかも量まで少ないときている」


 悪魔はそう言ってから、邪悪な笑みを浮かべる。


「その点、騙して操って甘い夢を見せた後、人生の絶頂で全てをブチ壊してやった時の衝撃、落胆、絶望、悲しみ、喪失感、悲壮感といった感情の濃厚さと、まるで溢れ出る温泉のような量。レベルが一気に跳ね上がる快感を味わえるんだ」


 そして悪魔の笑みが、更に闇に染まる。


「妻、娘、息子、母親、父親といった家族や、恋人、親友、恩人という大切な人を目の前で殺してやった時の負の感情も最高だし、嫉妬心や不安を煽って何の罪もない人間を拷問させたり虐殺させたりした時の苦痛、恐怖、恨み、怒り、絶望なども実にイイ! イキそうになるぜ!」


 愉悦の叫びを上げる悪魔を見て、俺の心は決まった。


 コイツ等、生かしておけない。

 生かす理由も無ければ、生かす価値も無い。

 だが、楽には殺さない。

 楽には殺してやらない。

 俺の実験台として、苦しみ抜いてから死ね。


 と心の中で、冷酷に告げると同時に。


 ザシュ!


 俺は万斬自在によって、悪魔共の両足を斬り飛ばした。










2023 オオネ サクヤⒸ

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