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   第百六十四話  パンデモニウム





「なんやアレ? キショ!」


 異形に姿を変えたガンザとワイトを目にして、顔をしかめるモカに。


「アレがガンザとワイト達に取り付いて、悪い方向に性格を誘導してた存在、つまり悪魔ってヤツだ」


 俺は説明する。


「つまりアイツ等の性格がクソ悪かったのは、あの悪魔に寄生された所為だったワケだ。多分、悪魔に寄生される前は立派なギルドマスターで、立派なA級冒険者だったんだろう」

「へ? ちゅうコトは、悪いんは全部、あのバケモンちゅうコトかいな」


 目を丸くするモカに、俺は頷く。


「その通りだ」

「ほならロックにぃ。アイツ等、ちょっとシメたらなアカンのとちゃう?」


 モカがギラリと目を光らせるが、すぐに焦った声を上げる。


「あ、アカン! ヤマタノオロチに嫌がらせをしてもろとるけど、それで1番困っとるんは、普通の人々やん!」


 そういやそうだな。

 こりゃ嫌がらせをしないでイイ、と言いに行かないと。

 でも、今はそれどころじゃ無い。


 グチュグチュグチュ。


 ガンザやワイト達だったモノが集まって混ざり合い。


「フゥゥゥゥゥゥ……」


1匹の異形へと姿を変えた。


 凶悪な顔に、ねじくれた角。

 大きくさけた口から覗く、長い牙。

 ワイヤーロープをねじ合わせた体に鋭い爪。

 コウモリの翼に、尖った尻尾。

 誰が見ても、悪魔そのものだ。


 その悪魔は、狂暴な光を放つ目を直江兼続に向けると。


「そこまで知られた以上、生きて返す訳にはいかない。死ね!」


 バサリとコウモリの翼で羽ばたき、直江兼続に襲い掛かった。

 しかし。


「殿を守れ!」


 近衛の兵が盾を構えて直江兼続の前に立ち塞がり。


 ガッコォン!


 その盾で悪魔を跳ね返した。


「く、さすがレベル99だけはあるな」


 悪魔が悔しそうに顔を歪めているが、跳ね返した盾もベコリと凹んでいる。

 痛み分け、というトコロかな。

 この悪魔、なかなか強いな。


 でも直江兼続が率いる伊達軍の数は3000。

 悪魔に勝ち目はない。

 と、思ったら。


「なら、こうするとしよう」


 悪魔はそう言うと、グチャっと潰れて地面に黒い血だまりを作った。

 それを見たモカが呟く。


「なんや? 自殺したんかいな?」


 おいおい、思いっきりフラグ立てちゃったよ、この子。


 ってまあ俺も、これで終わるなんて思ってない。

 だって血だまりは地面に複雑な魔法陣を描いたのだから。

 さてと、あの魔法陣はナニかな?


 と俺は解析しようとするが、それより早くヒカルちゃんが見破ったみたい。


「あの魔法陣は伊達軍に何かをする為のモノじゃなくて、この地にダンジョン『パンデモニウム』を出現させるモノですね」


 へえ、そうなんだ。

 うん、さすがヒカルちゃんだ、解析が早い。


 って『パンデモニウム』をここに出現させる!?

 それって大事じゃん!

 一刻も早く、魔法陣を破壊しないと!


 と、俺は魔法陣の上に瞬間移動。

 そのまま拳を叩き付けて魔法陣を破壊しようとしたが、それより一瞬早く。


 ビカッ!


 魔法陣が光り輝き。


 ドドドドドドドドォ!


 俺の目の前の地面が盛り上がった。

 いや、盛り上がった程度の話じゃないかな。

 キレイな直方体をしてて、まるで巨大な土のビルディングだ。

 その土のビルディングの1面が、巨大な門になってる。


 門の大きさは縦横共に100メートル。

 人骨、獣の骨、魔物の骨などが集まったような、不気味な門だ。

 ってか不気味過ぎて、マジで怖い。


 そして、その門の中心には。

『この門を潜る者は一切の希望を捨てよ』、

 という文字が刻まれている。


 ハイ、知ってる人は知ってマスね。

 神曲に出て来る地獄の門デス。

 まあ今は『パンデモニウム』の入り口なんだけど。

 って、マジでダンジョン『パンデモニウム』出現しちゃったよ!

 こりゃヤバいコトになったな。


「どうしよう?」


 思わず呟いた俺に。


「でもロックにぃ。『パンデモニウム』ってダンジョンなんやろ? マルチ尾張の街の目の前にダンジョンがあったら、ナンかマズいコトでもあるん? 京の都の近くにかてダンジョンがあったやん」


 俺に続いて、瞬間移動して来たのだろう。

 モカが、そう聞いてきた。


「たしかに普通のダンジョンだったら、街の隣にあってもイイと、俺も思うよ。でもモカ、『パンデモニウム』はダメだ。『パンデモニウム』に生息する悪魔は、人間に対して悪意と敵意しか持ってないんだ」


 俺の答えに、モカが首を傾げる。


「どこのダンジョンのモンスターも、全力で襲い掛かってくるやん。それと同じとちゃうの?」

「モンスターが襲い掛かってくるのは、腹を減らした獣が、たまたま見つけた人間を餌として襲うようなものだ。でも悪魔は違う。人間を殺したいから襲い掛かってくるんだ。あるいは人間が苦しむのを見たいから攻撃してくる」

「うわ、それはちょっとイヤかも」


 顔をしかめるモカに、俺は硬い声で続ける。


「それだけじゃない。モンスターは基本的に、ダンジョンから外に出ない。ダンジョン内のモンスターが増え過ぎた為、モンスターがダンジョンの外まで溢れ出るスタンピード以外じゃな。でも悪魔はガンガン外に出て来る。そして騙したり誘惑したり脅したりして、人を悪の道へと誘う。ガンザやワイト達にしたようにな」

「せやった! さっきの悪魔がガンザやワイトに取り付いて悪いコトしとったんやろ? ほならさっきの悪魔からケジメとらなウチの気が済まへん!」


 ブン! と拳を振り上げるモカに、俺は付け加える。


「それだけじゃない。人を弄んで不幸を撒き散らした挙句、最後に全てを自分の手が破壊し尽くすコトだってやるだろうな。悪魔にとって人間はゲームの駒みたいなモンだ。遊ぶだけ遊んで、最後にはぶち壊す。ガンザやワイトに取り付いてた悪魔を倒しても、別の悪魔が同じようなコトをする。あるいはもっと酷いコトを」

「マズいやん!」


 思わず、そう呟いたモカに、俺は頷く。


「ああ。だから『パンデモニウム』を消滅させないといけない。それが「まあいいか」とアイツがやるコトを止めなかった俺に使命だ」

「なんや、よぉ分からへんトコがあったケド、早い話、ダンジョントライちゅうコトでエエん?」

「ああ、その通りだ」


 モカの質問に、俺はきっぱりと答えた。










2023 オオネ サクヤⒸ

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