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   第百六十二話  我は伊達軍の戦大将、直江兼続なり!





 伊達軍がヤマタノオロチから解放されて、立ち去ったトコで。


「あ、ロックにぃ! アイツ等、戦国シミュレーションエリアを統一したって言うとった! ほならジュンねェや小六のおっちゃんは、アイツらに負けてもうたんやろか!?」


 モカが大声を上げた。


「ちゅうか、無事なんやろか!? なあ、ロックにぃ。まさかジュンねぇや小六のおっちゃん、殺されたりしてへんよね?」


 不安そうな顔のモカに、俺は言葉を選んで答える。


「あのな、モカ。敵だって命懸けで戦いを挑んでくるんだ。どれほど強力な武器を装備してても、1人の被害も出さずに勝利し続けるコトなんて、不可能だと思わないか?」

「せ、せやかて……」


 泣きそうになってるモカに、俺は敢えて厳しい言葉を選ぶ。


「戦国シミュレーションエリア統一を目指すのは命懸け、ってくらいジュンも小六も分かっていた筈。というか途中で死ぬ可能性の方が高いコトを理解した上で、戦国エリア統一を目指したんだ。どんな結果になろうとも、覚悟してた筈だ」

「せやけど……」


 ポロポロと涙をこぼすモカの頭に、俺はポンと手を置く。


「でもそれは最悪の場合だ。近代戦じゃあ戦闘力の30パーセントを失ったら『全滅』した、と表現される。つまり戦力の30パーセントを失った時点で、ジュンと小六は撤退するか降伏した筈なんだ。だからジュンと小六が殺されてしまった可能性はかなり低いと思う」

「せやろか?」


 グズグズと鼻を鳴らしながら聞いてくるモカに、俺は笑ってみせる。


「それに殆どの大名は戦国シミュレーションにのめり込んだ転生者なんだ。だから敵対する相手を皆殺しにするより、配下にした方がイイと判断すると思う」

「せやの?」

「ああ。ジュンと小六が天下統一を目指せたってコトは、国を上手く治めて国力を高められたってコトだろ? なら12代目伊達政宗は、こう考える筈。ジュンと小六の能力を利用して、その地を統治した方が良いってな。それに13代目直江兼続が言ってたろ? 今の戦国エリアは平和に統治された大名の連合だって。だからジュンと小六は無事だと思うぞ」


 直江兼続は上杉家の家臣だ。

 その直江兼続が大将として伊達軍を率いている。

 というコトは、負かした上杉家の家臣を重用してる、というコト。

 つまり伊達は、むやみに敵を殺さず、有能なら部下にしてるんだろう。

 なら敗れたジュンと小六も、伊達の配下になってるんじゃないかな。


「ほっか。ならまたジュンねぇと小六のおっちゃんに会えるんやな」


 晴れ晴れとした顔になったモカに、俺は頷く。


「ああ、モカが会いたいなら何時でも会えるさ」


 そう言ってから、俺はモカに注意しておく。


「でもモカ。ジュンや小六の手伝いをしようなんて考えるなよ。今の俺達が手を貸すのは、あまりにも不公平過ぎるからな」

「うん、分かっとる」


 キッパリと言い切ってから、モカが首を傾げる。


「せやけど、やったらナンでレベル99の兵士が3000人もおるんやろ? ジュンねぇが、兵士のレベルを99に上げるのは不可能に近い、みたいなコト言うとったような気がするんやけど?」

「確かに俺も、ソレが気になる。だから、もうしばらく様子を見ようと思う。モカもヒカルちゃんも、それでイイかな?」

「もちろんや」

「はい」


 頷くモカとヒカルちゃんと共に、俺は。


「じゃあマルチ尾張に向かうか」


 天空城の転送能力を使って、マルチ尾張の街に転移するコトにする。


 でもガンザやワイトに見つかりたくないな。

 人通りのない小道にでも転移するか。

 というコトで、マルチ尾張の街で1番大きな宿屋の裏手に転移。

 そのまま宿屋に飛び込むと。


「3人部屋を頼む」


 部屋を借り、急いで千里眼を発動させる。


 前にもいったケド、マルチ尾張は城塞都市だ。

 その城壁を出入りする為の門の上に築かれているのは大きな櫓。

 敵に攻められたら門を閉ざし、櫓の中から攻撃する為だ。


 その櫓の中で、伊達軍の正面に位置する櫓を千里眼で視てみると。


 はは、その中でガンザが青い顏でガタガタと震えてやがった。

 その後ろでは、ワイトのパーティーが同じように震えている。

 まあ、目の前に伊達軍が整列してるのだから無理もないか。


 しかし、さすがレベル99の兵士3000人。

 整列してるダケで、物凄い圧を放ってる。

 まあ、俺達にとってはそよ風以下でしかないが。


「ど、どうするんですか、ギルドマスター?」


 A級冒険者でしかないワイトは、焦りまくった顔をガンザに向けてる。

 そんなワイトの様子を、モカも千里眼で視たんだろう。


「そらそうやろな。門の向こうには、ワイトなんぞよりズット強い兵が3000人も整列しとるんや。生きた心地がせえへんやろ」


 ケタケタと楽しそうに笑っていた。


 一方、ガンザも。


「どうって、それは……」


 顔色を青から白に変えてオタオタしている。


「ふん、こっちも根性なしかいな。相変わらず弱いモンにゃ偉そうで、強いモンにゃヘナヘナなんやな」


 と、モカがガンザを鼻で笑ったトコで。


「我は伊達軍の戦大将、直江兼続なり!」


 直江兼続が声を張り上げた。


「冒険者ギルドに話がある! 責任者に取り次いで貰いたい!」


 これを聞いてガンザの顔色が城から死人のものに変わる。


「冒険者ギルドの責任者!? ワタシか!? いや、ギルドマスターではなく責任者と言っているのだからワタシでなくても良いはず……よし、ワイト! 冒険者ギルドの代表として話を聞いてこい!」


 いきなりの無茶ブリに、ワイトは飛び上がった。


「ええええ!? そんなの無理が有り過ぎるでしょう! 冒険者ギルドの責任者っていたら、どう考えてもギルドマスター以外に有り得ません!」

「いきなりトップが出たら軽く見られる! まずはオマエが用向きを聞き、ワタシに報告すれば良い!」

「軍の大将が自ら呼びかけてるんですよ! ギルドマスターが出向かないと失礼に当たるじゃないですか!?」

「万が一の事があったらどうするんだ!」


 醜く言い争うガンザとワイトに、モカが呆れた声を漏らす。


「相手は『話がしたい』と言うとるんやぞ。その気になればガンザなんぞ瞬殺できる軍が、や。ちゅうコトは、本当に話をしたいだけなんやさかい、堂々と対応したらエエだけやのに。みっともな」


 フンと鼻を鳴らすモカに、ヒカルちゃんが頷く。


「本当に情けないギルドマスターですね。どうやったらこんなヤツがギルドマスターになれるんでしょう?」


 そこでモカが悪い笑顔になる。


「でもガンザとワイトが困り果ててオタオタするんは、見てて楽しいわ。さて、これからどないするんやろ?」


 とモカが悪い笑顔から黒い笑顔になったトコで。


「こちらは礼を尽くして問いかけているつもりなのだが、何の反応もない、という事は、礼を尽くす必要など無い。そう判断して良いのか?」


 直江兼続が静かな、しかし良く通る声を上げた。










ここからまた1日おきの投稿となります。

2023 オオネ サクヤⒸ

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