第百六十一話 直接聞いたらエエやん
マルチ尾張に向かうコトを決めた後。
「まずは『レベル99の兵士が3000人』というのが本当か、確かめるコトにするか」
俺はモカとヒカルちゃんと共にマルチ尾張の近くの山の上に転移した。
そこから見下ろしてみると。
「うわぁ、凄い大軍や。確かに3000くらい、おりそうやな」
声を上げるモカにヒカルちゃんが頷く。
「兵士と言うのも間違いなさそうです。整然と隊列を組んで移動してますから」
確かにヒカルちゃんの言う通り。
遠距離から先制攻撃を行う弓兵。
その突進力で敵陣を突破する騎馬兵。
騎馬兵と共に突撃する槍兵。
全体の指揮を執る大将と、その大将を守る護衛兵。
それらが何時でも戦える陣形で進んでいる。
これが冒険者の集団だったら、こうはいかない。
間違いない。
大将の指揮のもと、一糸乱れず戦う軍隊だ。
と、そこでヒカルちゃんが首を傾げる。
「でも進軍の目的はナンでしょう? 勝手に鑑定された、つまり喧嘩を売られたからマルチ尾張を攻める、って感じじゃないですし」
そう。
鑑定された瞬間、全軍で喧嘩を売って来た者達を殲滅する。
この軍の隊列なら、それが出来たハズ。
それにケンカを買うつもりなら、冒険者を無事に返す筈がない。
マルチ尾張に戻ったら迎撃態勢を整えるに決まってるんだから。
モカも、そう考えたのか。
「ちゅうコトは、鑑定したって構わへん、ちゅうこっちゃろか?」
そう言うと、鑑定を発動しようとする。
が、そんなモカをヒカルちゃんが止める。
「モカちゃん。『千里眼』と『存在把握』のスキル、持ってるでしょ? なら同時発動したらいいんです」
「千里眼と存在把握を同時に? こうかいな」
モカは素直に言われた通りにすると。
「あ! レベルとHP、攻撃力と防御力が、兵士達の頭の上に表示されたで!」
驚きの声を上げた。
「へぇー、こないな使い方があったやなんて驚きやわ。さすが転生者やで」
目をキラキラさせながら感心してるけど、それは違うぞモカ。
転生者が凄いんじゃなくてヒカルちゃんが凄いんだ。
『千里眼』と『存在把握』。
どっちか1つでも手に入れたら、世界中の冒険者から一目置かれるスキルだ。
ましてや、その2つの同時発動させた転生者は存在しないだろう。
ヒカルちゃんだから知ってて、かつ実行できたんだ。
ま、わざわざ訂正する程のコトじゃないから黙っておくケド。
「せやけど確かに全員、レベル99や。マルチ尾張の冒険者が束になっても勝てへん相手やで。どないする、ロックにぃ?」
ガンザやワイト達、受付のレモンがどうなろうと知ったこっちゃない。
でもマルチ尾張の大多数は、日々を正直に生きている人々だろう。
レベル99の軍が、そんな人々を酷い目に遭わせるのなら止めないと。
だが、まだ軍の目的が分からない今。
「まずやるべきは、あの軍の目的を知るコトだろうな」
俺はそう言うと、モカとヒカルちゃんに目を向けた。
「さて、どうやるのがベストかな?」
と、俺が腕を組んだ瞬間。
「あの軍の大将に、直接聞いたらエエやん」
モカが即座に声を上げた。
「アンタ等、ナンの目的で、ドコに向かっとるん、ちゅうて」
この提案に、ヒカルちゃんが笑う。
「モカちゃんらしいです。確かに、それが1番手っ取り早いですね。でも、もうちょっと相手を刺激しない方法があるんですけど」
そしてヒカルちゃんは。
「シャーーーーーーーーーーーー!!!」
蛇の威嚇を空に放ち。
「ヒカルおねぇ様ァ。お呼びですかァ?」
ヤマタノオロチを呼び寄せた。
「リエちゃん、お願いがあるんだけどイイかな?」
うん、いつものキャピキャキした声と話し方だ。
8つ首の大蛇の姿との違和感がハンパない。
「ヒカルおねぇ様ァのお願いなら何でも聞きますゥ」
「あの人達に、こう聞いて欲しいの。『キサマ等は目的は何だ? もしも我を討伐するつもりならば地獄の底で後悔するがよい!』って」
なるほど。
『進軍の目的は何だ?』と聞いても、正直に話すとは限らない。
でも『もしも我を討伐するつもりならば』と言われたら。
ヤマタノオロチに襲われるのを恐れて、本当のコトを言うハズ。
レベル99の兵3000程度が、ヤマタノオロチに勝てるワケが無いから。
勿論、ヤマタノオロチ討伐が目的である可能性も0じゃない。
しかしそれなら話は速い。
『8神龍の吐息』1発で消滅だ。
あ、今のヤマタノオロチはまだ神龍じゃないから『8龍の吐息』だった。
「じゃあリエちゃん、お願いね」
「了解です、ヒカルおねぇ様ァ!」
ヤマタノオロチはキャピキャピと答えると、軍の正面にズザザザッと移動。
「キサマ等は目的は何だ? もしも我を討伐するつもりならば地獄の底で後悔するがよい!」
地獄の底から響いてくるような声で、そう尋ねた。
へー、完全にヒカルちゃんの言葉通りだ、感心するぜ。
って、それは置いといて、俺は返事に集中する。
「回答せよ」
更に問うヤマタノオロチの前に、大将らしき男が歩み出る。
「ワタシは13代目、直江兼続。12代目伊達政宗様の侍大将です。ここに参った目的は、マルチ尾張の街にある冒険者ギルドと交渉する事です。貴方様と争う気など、欠片もございません」
「そうか」
ヤマタノオロチはそれだけ口にすると、身を翻そうとするが。
「シャーーー」(もっと詳しく聞いてください!)
ヒカルちゃんが小さく上げた声が届いたらしく。
「戦国シミュレーションエリアの住民が、マルチエリアの冒険者ギルドに何の用があるというのだ?」
質問を重ねた。
「伊達政宗様は、戦国シミュレーションエリアの統一を果たしました。よって我らの地はもはや、戦国エリアではありません。平和に統治された大名の連合です。そこで、より豊かな生活を民に提供する為に、各大名の都に冒険者ギルドを設置するよう交渉に向かえ、と殿に命じられたのです。と同時に、マルチ尾張の冒険者ギルドの施設の使用許可も得たいと考えております」
13代目直江兼続の答えに、ヤマタノオロチがコッチを見る。
「あ~~、これでイイか? って目ですね、アレは」
そう言うと、ヒカルちゃんは俺に聞いてきた。
「トモキ先輩、他に聞いておきたいコト、ありますか?」
「そうか、奥州の伊達が戦国エリアを統一したのか……いや、伊達軍の目的は分かったから放っておいてイイと思う」
「分かりました」
ヒカルちゃんは、そう答えると。
「シャーーー!」
また一声、吠えた。
それがナニを伝えたかは分からないケド。
「そうか」
ヤマタノオロチはそれだけ口にして、俺達の所に戻ってきた。
2023 オオネ サクヤⒸ




