第十六話スキル 『強手裏剣』を手に入れました
『伊賀の試練のダンジョン』
名前から想像できると思うけど、伊賀忍者のスキルが手に入るダンジョンだ。
地下に造られた、巨大な忍者屋敷型ダンジョンで、特に罠が多い。
突然放たれる矢や槍やギロチンや針。
噴出する毒ガス、釣り天井、落とし穴。
どんでん返しや、床下の隠し部屋などから襲撃してくる忍者。
物陰から襲い掛かってくる毒グモ。
基本的に、蠟燭の火がともされているが、真っ暗な場所も多い。
『暗視』『空間把握』がなかったら、10メートルも進めず命を落とすだろう。
だから俺は『暗視』と『空間把握』のスキルを手に入れておいたのだ。
ま、このダンジョンも俺がプログラムしたモノだ。
なので何処にどんな罠が仕掛けられているか分かっている。
でもそれはゲームのプログラムの上のコト。
リアルじゃあ微妙に感覚が違うかも。
だから念には念を入れて『空間把握』スキルを手に入れておいた。
……んだけど、必要なかったみたい。
ゲームとリアルの差に困る事なく、進んで行けた。
全ての罠を作動させずに、場合よっては躱したり解除して進んで行く。
忍者の襲撃も、隠れてる場所が分かってるので、余裕で躱す。
ちなみに初撃を躱すと忍者は姿を消すので、戦闘力は必要ない。
サソリや毒グモや毒蛇やコウモリが隠れている場所も避ける。
こうして最短距離をズンズン進み。
俺は、隠し部屋の通じる壁の仕掛けを解除する。
そして隠し部屋に入ると、部屋の中央には宝箱が置かれていた。
さて、何が入ってるかな?
楽しみだな。
あ。でもミミックだったらどうしよう?
な~~んてジョークは、ここまでにしとくか。
中身なんて最初から分かっている。
俺がプログラムしたんだから。
というコトで、宝箱を開けると中は空っぽ。
で、中身の代わりに。
ガコン。
壁が開き、その先にシューティングレーンが出現する、ってワケ。
シューティングレーンの奥行は100メートル、幅は20メートル。
かなりの広さだ。
レーン前のテーブルには手裏剣がズラリと並んでいる。
そして俺がレーンの前に立つと。
《手裏剣で標的を破壊してください》
アナウンスそう告げ、ミニゲームの始まりだ。
標的はロックゴーレム。
身長は3メートルだから、それほど大きいワケじゃない。
でも問題は、その岩で出来た体。
バトルアックスでぶん殴っても、アックスの刃が欠ける強度を誇る。
そんなロックゴーレムを、手裏剣で破壊出来るワケ無いだろ!
どうしろって言うんだよ!
などとモタモタしてたら、直ぐにゴーレムに接近されてゲームオーバーだ。
ちなみにゴーレムは前進してくるだけだから、命の危険はない。
しかし、それではミニゲーム失敗。
何も手に入らない。
でも俺は、このゲームのクリア方法を知っている。
だから俺は。
チャ。
手裏剣を手に取ると、その感触を確かめてから。
バヒュン!
スナップだけで投擲した。
その手裏剣はロックゴーレムの胸に命中し。
バカッ!
ゴーレムの上半身を撃ち砕いた。
でも1体破壊したくらいじゃゲームは終わらない。
次は2体、その次は3体、と数が増えていき。
そしてゴーレムが接近してくる速度もアップしていく。
このミニゲームの真の目的は『強手裏剣』のスキルを入手する事だ。
ちなみに忍者が使う手裏剣の威力は低い。
人間相手なら、急所に撃ち込めば倒せるかもしれない。
でも鎧を打ち抜く威力はない。
盾でも簡単に防げる。
しかもモンスターが相手となると、完全に火力不足。
もちろん目や急所を狙う、といった戦法は有効だろう。
しかしロックゴーレムなどには、何の役にも立たない。
目も石だし、全身も石だから。
あと、ギガントオーガなどの巨大モンスターにも火力不足だ。
そこで、そういった硬い敵や巨大な敵にも通用する攻撃手段として。
忍者のスキル『手裏剣』の強化スキルである『強手裏剣』を用意した。
対モンスター戦では、あまり役に立たないと言われる『忍者』の為に。
ついでに言うと、忍者の手裏剣とは大きなモーションで投げるモノじゃない。
野球のピッチャーみたいに振りかぶって、全身の力で投げる。
これが最強の威力を生み出す投げ方なのは間違いない。
しかし対人戦で、そんな投げ方をしている暇はない。
場合によっては可能かもしれないが、1体多数では不可能だ。
接近戦でも、無理かな。
だから忍者の手裏剣は最低限のモーションで撃ち出す。
手首のスナップ、大きいモーションでも肘のバネまでだ。
その結果、威力は更に低くなってしまう。
忍者が、モンスター戦じゃ役に立たないと言われる理由の1つだ。
ところで。
伊賀忍者の特徴は体術と忍術にある。
つまり戦闘力の高さが、伊賀忍者のウリだ。
だから手裏剣も、普通の忍者が使うモノとは桁違いの威力を発揮する。
それがロックゴーレムすら簡単に撃ち砕くスキル=『強手裏剣』だ。
というより、オリハルコンゴーレムすら貫通する、チート攻撃。
それが『強手裏剣』だ。
このミニゲームでは、その『強手裏剣』スキルが一時的に発動する。
その『強手裏剣』で、前進してくるロックゴーレムを全て撃ち砕く。
これがゲームクリアの条件だ。
もちろん俺がプログラムしたんだから、失敗などするワケがない。
おっと、次が最後のゲームだ。
ドドドドドドドドド!
新幹線並みの速度で突っ込んで来る10体のゴーレムを。
バカッ! × 10
全て強手裏剣で撃ち砕くと。
《スキル『強手裏剣』を手に入れました》
脳内で、アナウンスがそう告げた。
俺はその声を、ちょとの間、嚙み締めてから。
「やったぜ!」
ガッツポーズをとった。
『強手裏剣』のスキルが手に入る事は分かってた。
でも実際に手に入れると、やっぱり嬉しい。
リアルで強くなれたんだから。
と喜んでいると。
ゴトン。
目の前に宝箱が出現して、蓋が開いた。
中身は大量の手裏剣と、『取り出しの指輪』が2つ。
マジックバックに収納している物を、瞬時に取り出せる指輪だ。
10歳の俺には少しサイズが大きかったが、そこはマジックアイテム。
指を通すと小さくなって、ピタリと指にはまる。
これで「手裏剣」と思うだけで手に手裏剣が出現するようになったワケだ。
こうして俺はスキル『強手裏剣』と『取り出しの指輪』を手に入れ。
大量の手裏剣をマジックバッグの収納したのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ