第百五十八話 戦国エリアでは~その②
美濃の国に圧勝してから1週間。
小六とジュンは、新たな国造りに追われていた。
確かに小田の当主を討ち、斎藤を降伏させたが、それで終わりではない。
産業を保護し、商業を整え、兵士を訓練し、国力を上げる。
と同時に、各地を統治する者を選び、手助けし、家臣として育てなければならない。
もちろん小六は、早くから情報を集め、手を打っていた。
それでも想定外の事が起きるのが現実。
その問題を1つ1つ、処理していく。
「蜂須賀一家の戦力は、その為に用意してきたようなモンだ。だから戦いはヤタガラスの団に任せるからよぉ、ドンドン国を取ってきてくれ」
小六が言ったように、各地の実力者への根回しは済んでいる。
小田、あるいは斎藤が負けた時、すみやかに家臣になる、と。
あとは蜂須賀家に、正式に仕えてもらうだけだ。
「ヤタガラスの団は剣みたいなモンだ。敵を全て撃ち滅ぼす。対して蜂須賀一家は盾みたいなモンだ。守って育てて国力を上げていく。その先にあるのが天下だ。必ず辿り着こうぜ」
小六が付き出した拳に、ジュンが拳をコンと当てる。
「ああ、任せてくれ。Ⅿ16A2とⅯ203があれば、どんな敵にも負けない。最短距離を走って天下統一を果たすぞ」
この言葉通り、ジュンは三河、近江、駿河、信濃、甲斐と打ち破っていった。
そして小六が国々を平定し、1つの国として力を高めていく。
飛び抜けた戦力と卓越した情報が、最高の結果を生み出した軍隊。
それがヤタガラスの団・蜂須賀一家連合だった。
このままいけば、近いうち天下を統一するに違いない。
誰もがそう確信し、ある大名は震えあがった。
もちろん、ジュンも確信している。
このまま勝ち進んでいける、と。
しかし3年かけて戦国エリア統一を進めてきた、この日。
「こ、これは!?」
ジュンは未知の軍を前にして、顔色を変えていた。
未知の軍とは、富士の樹海から突然現れた1万の軍だ。
もちろんヤタガラスの団にとって、1万の兵など物の数ではない。
もし戦いになっても瞬殺できる数だ。
なら、なぜジュンが顔色を変えたのかというと。
「レベル99の兵士ばかりだと?」
鑑定した敵兵がレベル99だったからだ。
その上、ステータスまでもが全て9999。
戦国エリアに存在する筈がない戦力だ。
全員が装備しているのは、西洋式のフルプレート。
30キロもの重さがあるので、普通なら歩くコトさえ困難になる鎧だ。
しかし力のステータス値が9999もあるからだろう。
未知の軍は、平然と進軍してくる。
右手には槍、左手には盾、腰には刀を差した姿で。
が、観察もここまで。
漂う殺気が敵だと告げている以上、先に攻撃する!
「撃て!」
ジュンが叫び、全員が射撃を開始した。
未知の軍との距離は300メートル。
銃の名手ぞろいのヤタガラスの団が、外すハズがない。
しかし。
キンキンキンキンキンキン!
銃弾は、甲高い音を立ててフルプレートに弾き返されてしまった。
「バカな! Ⅿ16A2の弾丸が、フルプレートで防げる筈がない!」
叫びながらもジュンは、敵のフルプレートを鑑定して目を見開く。
「装甲の厚さ10ミリだと? その厚さの装甲なら弾を跳ね返すだろうが、重さ300キロを超える筈! そんなモノ、装備出来るわけが……」
ない、と言いかけて、直ぐに気が付く。
力のステータス値9999の人間にとって、300キロは3キロ相当。
普通に動けて当然だ。
ならグレネードだ。
ジュンは心の中で、そう叫ぶと。
「Ⅿ203!」
それだけ口にした。
もちろんヤタガラスの団は、ジュンの言葉を正確に理解し。
シュポン!!!!!!!!
一斉にⅯ203グレネードを発射、弾着と同時に轟音が上がるが。
「く! 無傷か」
ジュンが唸ったように、敵は盾で防御していた。
その盾を見て、ジュンは目を見開く。
「あの盾の厚み、5センチはある! グレネードで撃ち抜ける厚さじゃない」
ジュンやカキクケコのマジックバッグに収納されているカールグスタフ。
すなわち対戦車弾を使用したら倒せるかもしれない。
しかし倒せるのは僅かな数だろう。
どうする? 撤退? 降伏?
いや、もう少し近づいてきたら精密射撃が出来る。
鎧の継ぎ目や、剥き出しの目を撃つ事も可能だろう。
なら、まだ勝機はある!
ジュンはそう計算するが、その時。
「「「「「「「「「「ファイヤーボール」」」」」」」」」」」
未知の軍から声が上がり。
ドゴォオオオオン!!!!!!!!!
ヤタガラスの団を、無数の爆発が襲った。
打ち込んだ火の玉が爆散する魔法=ファイヤーボールによって。
しかも魔力と知性のステータス値9999が、とんでもない威力を生んでいる。
今の攻撃で200人を超える歩兵が戦闘不能になってしまった。
美濃の国を倒した時。
ヤタガラスの団は、グレネードで敵軍を制圧した。
それと同じ事を、今されている。
このまま戦いを続ければ、ヤタガラスの団は壊滅するだろう。
なら選択肢は1つしかない。
「小六。すまない」
ジュンは小さく呟くと。
「降伏する!」
両手を上げて、未知の軍へと進み出た。
こうしてヤタガラスの団・蜂須賀一家連合の快進撃は。
3年と18日で終わったのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




