第百五十七話 戦国エリアでは~その1
ここからが第四章になります。
ロックとモカがヒカルちゃんと巡り合う3年前。
つまりロックとモカが旅立った直後の戦国エリアでは。
ヤタガラスの団・蜂須賀一家連合は天下統一に向かって動き出した。
「小六。尾張の国に隣接してるのは、三河の国と美濃の国。どちらを先に攻め落とすつもりなのだ?」
ジュンの質問に小六が即答する。
「美濃の斎藤家と、三河の徳川家か。どちらも手ごわい当てだが、オレの掴んだ情報によると、美濃の国のほうが戦力は上だ。だから叩くべきは……」
「美濃の国だな」
「最後まで言わせてくれよ」
小六は苦笑するが、直ぐに顔を引き締める。
「じゃあ兵站の用意が出来次第、美濃の国を攻める。それでいいか?」
「もちろんだ。ついでに言えば……」
「オレ達がⅯ16A2を装備してる事は、尾張との戦いでバレちまった。だから斎藤が準備を整える前に出撃する、だろ?」
「最後まで言わせてほしかったな」
ジュンは苦笑を返すが、直ぐに戦人の顔を取り戻す。
「で、出撃は何時になる?」
「明日1日で兵站は用意できるから、2日後の朝、出撃する」
「ほう、たった1日で、か。用意していたのか?」
ジュンの問いに、小六がニヤリと笑う。
「ジュンが武器を手に入れる為にダンジョンに挑戦すると決めたと同時に、可能な限り、物資を集めておいた。ジュンが返って来たら直ぐに天下を取る戦を始められるようにな」
「信用されたものだな」
フッと笑い返すジュンに、小六がフンと鼻を鳴らす。
「蜂須賀一家の1番の強みは情報の速さと正確さだ。その情報によると、ヤタガラスの団と手を組むのが最善らしい。ならココは大博打だ。蜂須賀一家の全てをかき集めて天下統一を目指す」
「そうか。なら期待に応えないとな」
「ああ、ムチャクチャ期待してるぞ」
という事で、この日から2日後の朝。
「野郎ども、出撃だ!」
「ヤタガラスの団、出撃!」
小六とジュンは美濃の国に向かって行軍を始めた。
そして数日かけて美濃の国に到着すると。
そこには斎藤軍が、陣を構えて待ち構えていた。
美濃の城まで3キロほどの平野に展開している兵の数、およそ2万。
今招集できる全戦力を、ここに集結させたようだ。
「小六。尾張の国を落とした時のように城攻めでケリをつけたかったが、そうもいかない様だ」
ジュンは敵の布陣に鋭い目を向ける。
銃撃に備えて掘られた塹壕。
その塹壕に見える、3000丁の火縄銃。
突撃を邪魔するように設置された鹿砦。
(鹿砦=鹿の角の様に枝分かれした木の枝を尖らせて、敵に向けて設置)
急ごしらえではあるが、銃を持った敵を意識した陣だ。
が、そこで小六が平然と言い切る。
「いや、ここで斎藤軍が全軍で待ち構えている事は分かっていた。守りに入ってもⅯ16A2が相手じゃ勝てないと、斎藤だった分かってるだろうからなぁ。でもヤツ等が知ってるのはⅯ16A2の事だけ。なら、この状況の方が好都合だろ?」
「さすが蜂須賀一家の情報網ということろか。いいだろう。近代戦そのままの戦法でいくぞ」
「ああ。今後の事を考えると、城を無傷で手に入れられるのは有り難い」
「気の早い事だ」
ジュンはそう返すと。
「カ! キ! ク! ケ! コ! 行け!」
号令を下した。
と同時に。
「「「「「前進!」」」」」
カキクケコが声を張り上げ、全軍を率いて進軍を始める。
そして斎藤軍の陣地から400メートル地点に到達すると。
「全部隊、展開!」
カの命令で、ヤタガラスの団1500名が進軍を停止。
横15列に並び直す。
つまり100人が鉾に並んだ裂が15、出来たワケだ。
もちろん、この距離は火縄銃の射程の外。
斎藤軍からの攻撃は、まだ無い。
と、そこで再びカの号令が轟く。
「第111小隊! 構え!」
小隊、つまり10名の歩兵がⅯ16A2を構えた。
と同時に敵陣から。
「来るぞ、塹壕に身を隠せ!」
「火縄銃より遥か遠くから狙撃してくる! 迂闊に身を晒すな」
「盾の隙間からしか反撃するな!」
Ⅿ16A2を警戒しているらしい声が上がった。
そんな敵の騒ぎを耳にしながら、カは。
「さすが転生者だけあって、もうⅯ16A2対策を講じたか。が、俺達の装備はⅯ16A2だけじゃないんだよなぁ」
そう呟くと。
「Ⅿ203、撃て!」
命令を下した。
そして。
シュポン! × 10
銃声に比べると、ちょっと間の抜けた音が響き。
ドッカァァン! × 10
斎藤軍の陣地を、10の爆発が襲った。
「何事だ!?」
「まさかグレネードまで手に入れたのか!?」
転生者が爆発の正体に気付いたらしい。
そう、今の爆発はⅯ16A2に取り付けたⅯ203によるもの。
簡単にいえば手榴弾を400メートル先から撃ち込む武器だ。
実は、アライグマシティーから500のⅯ203を持ち帰っていた。
小田攻めで使わなかったのは、城に傷を付けたくなかったから。
しかし、ここは平野。
何の遠慮も無く、砲撃できる。
だから。
「第112小隊! 撃て!」
シュポン! ドッカァァン! × 10
また10発のグレネードが撃ち込まれ、斎藤軍の兵士を吹き飛ばした。
ちなみに現代の戦闘では砲撃によって、ほぼ勝敗が決まる。
言い換えれば、歩兵が攻撃する前の段階で、勝敗は決しているワケだ。
そして今、ヤタガラスが行っているのが、その勝敗を決定する砲撃。
敵が何もできない距離から一方的に敵に被害を与えている。
こうして第115小隊が50発目のグレネードを打ち込んだところで。
「ダメだ、勝てない! 降伏する!」
斎藤軍は武器を投げ捨てて、白旗を揚げた。
賢い選択だ。
もし退却戦をしていたら、Ⅿ16A2によって壊滅していただろう。
こうして美濃の国に到着してから、僅か5分で。
小六とジュンは美濃の国を手に入れたのだった。
2023 オオネ サクヤⒸ




