第百五十五話 人間じゃないです。ヤマタノオロチです
俺は京の都に転移すると、そのまま冒険者ギルドに直行。
尾張支部のギルドマスターとワイト達のコトを、グラッグさんに報告した。
「そうか。尾張支部が、そこまで腐っていたとは……」
グラッグさんは、ギリッと歯を噛み鳴らしたあと。
「ロック、助かった」
深々と頭を下げた。
「尾張支部のギルドマスターが言ったように、確かにオレに尾張支部のギルドマスターを操作したり処罰する事は出来ない。しかしロックが尾張支部のギルドマスターに言ったように、ギルド本部に要請は出来る。これまで上手く立ち回っていたようだが、今度の件で、全て明るみに出るだろう」
そしてグラッグさんは、もう1度、頭を下げた。
「これも全てロックのお陰だ。尾張支部の冒険者に成り代わり、そして冒険者ギルドを代表して礼を言う。ロック、ありがとう」
「カンベンしてください。グラッグさんに頭を下げられたら照れくさくて死にそうになります。良くやったと、肩を叩く。それだけで十分ですよ」
なにしろ家族だと思ってますから。
そう心の仲で付け加えたオレに、グラッグさんは破顔一笑。
「お前は最高の冒険者だ!」
そう言って、俺の肩をポンと叩いた。
うん、まだ照れくさいけど、サイコーの気分だ。
でも、コレの報告しとかないと。
「そう言って貰って嬉しいんですけど、金遣いが荒い職員については手つかずなんです。やっと調査に取り掛かったばかりなので」
「そうか。ま、それに関しては、そんな噂があるから気に留めといてくれ、って程度だ。冒険者がギルドの内情を詳しく調査するなんて不可能だからな」
そしてグラッグさんはもう1度、俺の肩をポンと叩くと。
「新人冒険者が使い捨てにされなくなったダケで十分だ」
漢の笑みを浮かべた。
「尾張支部の冒険者が安心して依頼を受けれる。これに優る結果はない」
そしてグラッグさんはモカに向き直ると。
「モカ、よく頑張ったな! ご苦労さん!」
『爺バカ』の顔になった。
「ロックとモカに依頼するしかなかったが、モカに何かあったら、と気が気でなかったぞ!」
その横でムサシさんも大声を上げる。
「うむ、よく帰ったな、モカ!」
報告が終わるまでギルドメンバーとしての仮面を被って我慢してたんだろう。
でも正式に報告が終わった今。
「しかも、また腕を上げたようじゃないか! うむ、感心、感心!」
ムサシさんも『爺バカ』全開だ。
「しかしモカも強くなったものよ。ここまで強くなられると、とてつもなく強いとしか感じられぬ。なんというか実感が共わぬな」
「そうだな、桁外れどころか次元が違うとしか分からない。さすが我が1番弟子といったところだな」
「何を言うか! モカは儂の1番弟子だ!」
「いや、それはおかしいだろ! そもそもがだな……」
なんて『爺バカ』2人が言い争ってると。
「あ、報告が入りました。ちょっと書く物を貸してもらえますか」
ヒカルちゃんが、そう声を上げた。
が、『爺バカ』2人が反応する前に。
「こちらをお使いください」
エリさんがペンとノートを用意してくれた。
さすがギルドで1番有能な職員。
行動が素早い。
そしてヒカルちゃんは。
「あ、ありがとうございます」
エリさんからペンとノートを受け取ると、シャシャシャとペンを走らせ。
「とりあえず分かった事を報告しますね。証拠集めは今からですけど」
あっという間に書き上げたノートを、エリさんに渡した。
その文字で埋め尽くされたノートを見るなり。
「ギルドマスター! 完璧な調査報告です!」
エリさんはグラッグさんに駆け寄った。
「依頼料のピンハネ、水増し、横領、素材の買いたたき、賞金首のもみ消し、違法薬物の販売、癒着、犯罪行為など、尾張支部が係わった不正の内容、日時、金の動き、被害者の証言などが詳細に書かれています!」
「なに!?」
慌ててノートに目を通すグラッグさんにエリさんが続ける。
「尾張支部もバカじゃないので今頃、証拠隠滅に必死でしょう。でもこのノートに書かれている全てを抹消する事は不可能です。だからこのノートがあれば、絶対に不正の証拠をつかむ事ができます」
「うおおおおお! そうか、やったぞ! これで尾張支部を、本当にキレイな組織に生まれ変わらす事だできるな!」
グラッグさんは歓喜の叫びをあげてから、ヒカルちゃんに目を向ける。
「いや嬢ちゃん、大したモンだぜ。しかしこれ程の証拠、どうやって手に入れたんだい?」
「あ、シンくんが『精神支配』のスキルで集めてくれた情報を、『念話』のスキルで私に報せてました」
「精神支配? 聞いた事のないスキルだな。エリちゃん、知ってるか?」
「エリちゃん言わないでください。でも確かに聞いた事のないスキルです」
そう言葉を交わすグラッグさんとエリさんに、ヒカルちゃんが説明する。
「文字通り、相手の精神を完全に支配するスキルです。簡単に言えば相手の心の奥底まで見通し、そしてどんな命令にも従わせる事ができるスキルです」
「なんて恐ろしいスキルなんだ……」
顔色を変えるグラッグさんに、ヒカルちゃんが付け加える。
「あ、そんなに恐ろしいスキルじゃありませんよ。だってレベルが100分の1以下の相手にしか効きませんから。あ、攻撃力なら50分の1以下の相手にだって効きますけど」
「ん? じゃあ上級冒険者が係わった不正は調べられなかった、って事か」
ふう、とため息をつくグラッグさんに、ヒカルちゃんが首を横に振った。
「いいえ、ちゃんと尾張支部ギルドマスターの不正まで調べ上げてます」
「え! 尾張支部のギルドマスターのレベルは153だぞ!?」
驚くグラッグさんに、ヒカルちゃんがほほ笑む。
「だってシンくんのレベルは80兆ですから」
「80兆!? そんなレベルの人間が、この世に存在するのか!?」
目を見開くグラッグさんに、ヒカルちゃんがサラリと言う。
「人間じゃないです。ヤマタノオロチです」
「え?」
グラッグさんは、しばらくの間フリーズしていたが。
「なあロックよ。気にはなってたんだけど、こちらのお嬢さんは?」
首をギギギ、と俺に向けると、冷や汗を流しながら聞いてきた。
あ、そういや忘れてた。
そもそも依頼はヤマタノオロチ調査だったっけ。
だから俺は。
「調査以来の対象だったヤマタノオロのチヒカルちゃんです。で、さっきのシンくんというのは、ヒカルちゃんが育てた、次世代ヤマタノオロチの候補の1人です。というコトでヤマタノオロチは善良な人々にとって脅威じゃありません。でも、尾張支部の不正を働いた者には嫌がらせをする様に頼みましたけど」
簡単に説明した。
ん? おかしいな、反応が無いぞ?
と思ってたら。
「なんだってええええええ!?」
グラッグさんが突然大声を上げ。
「「えええええええええええ!!?」」
一瞬遅れて、聞き耳を立ててたムサシさんとエリさんの驚愕の声が響き。
『はぁああああああああああああ!!!!!!!?』
ギルドに居合わせた全員が絶叫を上げた。
2023 オオネ サクヤⒸ




