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   第百五十一話 じゃあ俺がウソを言ってると?






 俺は冒険者ギルド尾張支部の入り口を潜ると。


「ワイト、ゾネス、ザード、ライザ、モームが、俺とモカを後ろからヤマタノオロチの住処に突き落とした」


 カウンターに座っているあの態度の悪い受付=レモンにそう告げた。


「これはギルド規定違反であると同時に処罰対象事案でもある筈。俺は5名の即時逮捕、処罰を要求する」

「逮捕に処刑を要求? 冒険者ギルド尾張支部の専属A級パーティーを? 気は確かですか?」


 ふん、相変わらずイラつく態度だ。


「じゃあ俺がウソを言ってると?」


 俺の言葉にレモンがフンと鼻を鳴らす。


「尾張支部専属のA級パーティーと、駆け出し冒険者のアナタ。どっちを信じるかバカでも分かるでしょう」


 偉そうに言うレモンに、俺もフンと鼻を鳴らし返す。


「バカはどっちだ。『虚偽看破』で事情聴取したら結論は1発で出るだろ。さっさとワイトのパーティーを連れて来い。それとも」


 俺はそこでギルド内を見回す。


 今、ここにいる冒険者の数は20人ほど。

 その半分くらいが低レベルの冒険者みたいだ。

 だったら俺の訴えを聞いたら騒ぎになるハズ。

 なにしろ「明日は我が身」なんだから。


 というコトで俺は、ワザと声を張り上げる。


「初心者がA級パーティーに殺されそうになった事件を、ギルドはもみ消す気なのかなぁ!? ヤマタノオロチに見つかったトキ、自分達が逃げる為に初心者をヤマタノオロチの住処に突き落としたんだぞ。これって殺人じゃないのか!?」


 俺の大声に、思った通り冒険者が騒ぎ出す。


「A級パーティーが、そんなコトを!?」

「そういや尾張支部の新人死亡率は他より高いって聞いた事がある!」

「この前、俺の知り合いが帰ってこなかったのは……」


 と、そこに。


「おや、何の騒ぎだい?」


 張本人のワイトが、涼しい顔で入ってきた。

 しかしカウンターの前にいる俺を見つけると。


「う!」


 顔色を変えて立ち尽くした。

 そんなワイトを押し退けて。


「ちょっとワイト、どうしたのよ。さっさとヤマタノオロチについて報告して報酬をもらいましょ」


 ゾネス、ザード、ライザ、モームがギルドに入ってきた。


 おお、いいタイミングだ。

 というか、このタイミングを狙って仕掛けた。

 コイツ等がヤマタノオロチの住処から本気で逃げ戻る、この時を狙って。


 そして俺とモカが、ヤマタノオロチに殺されたと思い込んでたからだろう。


「なんでアンタが生きてるの……?」

「ヤマタノオロチに殺された筈なのに……」


 ザードとライザが、つい本音をこぼした。


 もちろん俺は、この呟きをアピールする。


「ミンナ、今のを聞いたか!? コイツ等が俺達を殺そうとした証拠だ!」

「「「「「く……」」」」」


 言葉を失うワイト達の顔は、誰が見ても悪党のモノ。

 ふん、いつもの爽やかな顔はどうしたんだ?

 化けの皮がはがれたな、ワイト。


 さて、訴え再開だ。


「おい、アンタも今の聞いてたよな? ワイト達が俺とモカを裏切って殺そうとしたコトは明白。さっさと拘束して処罰しろ」

「え、そ、それはその……」


 必死に言い訳を探すレモンを、俺は追い詰める。


「さっさとしろ。アンタ、ギルドの職員なんだろ? なら職務を果たせよ。それとも職務を放棄するのか? それも十分、処罰対象になるよな?」

「いや、だって、えっと……」


 レモンが涙目でオタオタしてる。


 ふん、いい気味だ。

 ってコレで終わらせるワケにはいかない。

 今回のコト、俺とモカだから死ななかったんだ。

 他の冒険者だったら間違いなく死んでる。

 そんな裏切り殺人犯を許すワケにはいかない。


 だって絶対にコイツ等、同じコトを繰り返す。

 ここで処罰しておかないと、何人も死ぬ事になる。

 あるいは何十人、何百人も。

 それだけは何が何でも阻止しないと。


「さあ、さっさとコイツ等を拘束して処罰しろ。それがギルドの仕事だろ」

「は、はい……」


 レモンが消え入りそうな声を上げた、その時だった。


「その必要はない」


 尊大な声が響いたのは。


 その声を主は、40歳くらいのガッシリした男。

 尾張支部のギルドマスターだ。


「我が尾張支部専属のA級パーティーが、新人冒険者を逃げる為のエサにするなどある筈がない。キミ等の勘違いだ」


 平然とそう言うギルドマスターに、俺は言い返す。


「さっきのアイツ等の言葉、聞いてなかったのか?」

「何の事だね? 私は聞いておらん」

「ここにいる冒険者達が聞いてる」


 俺の言葉に、ギルドマスターはギラリとした目を冒険者に向ける。


「ほう、私が聞いてない、という言葉を聞いたというのかね? ならば是非、私に教えてほしい。誰が誰に何といったのか」

『う……』


 ギルドマスターの威圧を乗せた言葉に冒険者達は下を向く。


「おや、いないのかね? では誰も、今ここで起きた事は聞いてない、という事で良いのだね。おっと、十分に理解していると思うが、聞いてもいない事を言いふらすのは犯罪だ。処罰の対象になるから気を付けたまえ」


 コイツ、平然と事件をもみ消しやがった。

 それどころか冒険者に脅しまでかけやがった。

 間違いない。コイツ、ワイト達とグルだ。

 その証拠に。


「そうだよね。ボクらがそんな事、する筈ないよね」


 ワイト達がホッとした声を上げている。

 いや、それどころか。


「みんなギルドマスターの言った事、分かったよね? だってダンジョンで事故に遭ったら大変だもんね。ま、残された家族には見舞金が出るけど」


 ヘラヘラと笑いながら、冒険者を脅し始めた。


 今の言葉を分かり易く言い換えると、こうなる。

 目撃者のいないダンジョンで殺されたくないなら黙ってろ。

 家族の居場所も把握してるぞ、喋ったら家族も殺す。


 ……マジでムカついてきたぞ、コイツ等。

 と俺がイラついてると。


「ロックくんも、分かったろ? アレは不幸な事故だ」


 ワイトがグズの笑みを浮かべて、そう言ってきた。


「つまり、あくまで罪を認めない、と言ってるんだな?」


 俺がそう言うと、ワイトの顔がチンピラのモノに変わる。


「認めないんじゃなくて、ボク達はそんな事、していないのさ。でしょ、ギルドマスター?」

「その通り。さっきも言ったが、尾張支部専属のA級パーティーが、そんな犯罪を犯す筈がないのだ」


 はぁ、どうやらコイツ等には人間の言葉が通用しないらしい。










2023 オオネ サクヤⒸ

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