第百四十五話 ウチ、役目を果たせへんかったわ……
「こっからが勝負やで!」
ドパッ!
モカが発射したガンマ線バースト砲は、ヤマタノオロチに命中。
ボッ!
またしても首を1つ、吹き飛ばした。
「やっぱ今の出力やと、首1つが精一杯かいな。 フルパワーでさえ撃てたら1撃やのに、悔しいわ」
モカはそう言いながらも照準を合わせ、ガンマ線バースト砲を発射。
ブチィッ!
また1つ、ヤマタノオロチの首を千切り飛ばした。
が、それと同時に。
ズルリ。
2発目で消失させた首が再生。
「ち、やっぱ生えてくるん、早いで。ホンマ、やってられんわ。これがスキル『超高速再生』かいな」
モアがグチってる間に。
ズルリ。
また1つ、首が生えてきた。
「ふうん、首が再生するまで、約3秒かいな。とんでもない再生能力やな。せやけど逆に言うたら、3秒以内に首を全部吹き飛ばしたらウチの勝ちや」
全部の首を失っても死なないかもしれない。
だがそれは今、考えないコトにする。
「いくで!」
ドパッ!
ボチュッ!
ガンマ線バースト砲がヤマタノオロチの首を1つ、消し飛ばした。
「まだや!」
ガンマ線バースト砲は、とんでもない威力を誇る兵器だ。
でも、そのとんでもない威力ゆえ、発射すると、どうしても揺れてしまう。
つまりヤマタノオロチから照準がズレてしまう。
そのズレた照準を、ヤマタノオロチに再び合わせて撃つまでの時間。
これをどこまで短縮できるかが、勝負の分かれ目になる。
「おらっ!」
ドパッ!
モカは大急ぎで次弾を発射。
ブチン!
また1つ、首を撃ち落とした。
これでヤマタノオロチの首は、残り6つ。
「3つ目!」
ドパッ!
ビチィッ!
ヤマタノオロチの首をまた1つ飛ばした。
残る首は5つ。
「4つ目!」
ドパッ!
バチィッ!
これで残る首は4つになった。
しかし。
ズルリ。
最初に吹き飛ばした首が再生、残った首は5つに増えてしまった。
「ち! 3秒やと首4つが限界や。これやとヤマタノオロチを倒し切れへん」
モカがギリッと歯を食いしばった、その時。
《スキル『速射』がレベル9になりました。以後レベルは上がりません》
モカの頭の中にアナウンスが響いた。
「神タイミング来た―――!」
モカは大声で叫ぶと、ヤマタノオロチにギラリと光る目を向けた。
「カンストしたスキル『速射』でもアカンかったらウチの負けや。せやけどこの勝負、絶対にウチが勝ったる!」
モカは叫ぶと同時にガンマ線バースト砲を発射。
ドパッ!
ビチッ!
「残り7つ!」
ドパッ!
バチィッ!
いいペースだ。
これならイケるかも。
「残り6つ!」
ドパッ!
ブチン!
「残り5つ!」
ドパッ!
ボッ!
「残り4つ!」
これで半分。
かかった時間は1秒半。
ギリギリだけど、何とかなりそうだ。
ドパッ!
ブチィッ!
「残り3つ!」
ドパッ!
ズパッ!
「残り2つ!」
どうやら、間に合いそうだ。
今度こそ3秒以内に8つの首を撃ち落としてみせる!
ドパッ!
ブツン!
「あと1つ!」
ドパッ!
勝った!
モカは心の中で叫びながら、トドメの1撃を放った。
しかし、その最後の攻撃になる筈の1発は。
ブウン。
ヤマタノオロチに当たる寸前で軌道を変え、宇宙へと飛び去った。
「ど、どないなっとんねん!?」
そう叫んでから、モカは気付く。
ヤマタノオロチの周囲が歪んで見えるコトに。
「これは……空震?」
鑑定を発動させて、モカは何が起こったのか理解した。
ヤマタノオロチのスキル『空震』。
本来なら空気を震動させて敵を粉々にする攻撃スキルだ。
ヤマタノオロチは、その空気の振動を全て前面に集中。
超高密度に圧縮された空気の層の盾を作り出した。
その空気の盾が、ガンマ線バースト砲の軌道を逸らせたワケだ。
「そないなコト出来るんやったら最初からやっとけ、ちゅうねん……」
モカが呟く間にも、ヤマタノオロチの首は再生していく。
そして全部の首の再生が終わった。
ドパッ!
ブウン。
試しにもう1発ガンマ線バースト砲を打ち込んでみるが無駄。
やはり命中する事なく軌道を変えられてしまった。
「やっぱアカンか……」
モカの呟きが合図だったようにヤマタノオロチがグン! と加速する。
「ち! 砲撃が無くなったさかい、全速で飛べる、ちゅうコトかいな」
そう言っている間にヤマタノオロチは天空城に到達。
天空城が築かれた島に、ヤマタノオロチが体を巻き付けた。
その巨体を眺めながら、モカは呟く。
「ゴメンな、ロックにぃ。ウチ、役目を果たせへんかったわ……」
でもやれるコトは、全力でやり尽くした。
その上でヤマタノオロチの方が上だったのだ。
自分でも良く分からないが、妙に心が澄んでいる。
悟りを開いた僧侶は、こんな気持ちで死を迎えるのかもしれない。
「でも、出来るコトなら次の人生でも、ロックにぃと出会いたいなぁ」
モカは一筋、涙をこぼすとヤマタノオロチに両手を広げて見せる。
「好きにせぇ」
「「「「「「「「潔し」」」」」」」」
ヤマタノオロチの、轟雷のような声が轟いた。
2023 オオネ サクヤⒸ




