第百四十二話 では死ぬが良い
「ヤマタノオロチが喋りおった!?」
モカが驚きの声を上げてるけど、ヤマタノオロチは転生者。
人の言葉を話しても、何の不思議もない。
とはいえ、いきなり語り掛けられて俺のビックリしたけど。
なんて場合じゃない。
ヤマタノオロチは、俺達を殺す気満々だ。
そしてヤマタノオロチから逃げる手段はない。
『知らなかったのか、大魔王からは逃げられない』状態だ。
ならやるコトは只1つ。
「せりゃっ!」
俺は自在疾走で空を駆けると、ヤマタノオロチの顔に正拳突きを叩き込んだ。
俺の攻撃力は18兆そこそこ。
防御力25兆のヤマタノオロチにダメージを与えられる筈がない。
と誰もが思うだろうが、俺には竜宮城で稽古した空手の技がある。
攻撃力を何倍にもアップさせる技が。
そして、おそらく10倍に攻撃力が高まった俺の拳が炸裂。
グシャ!
ヤマタノオロチの頭を1つ、見事に粉砕した。
「「「「「「「なに!?」」」」」」」
残った7つの頭は、一斉に驚きの声を上げるが。
「「「「「「「なかなか見事な技だが、我にとってはノーダメージに等しいぞ」」」」」」」
7つの首がそう言ってる間に、粉砕した首は元通りに再生した。
「「「「「「「「とはいえ、何度も首を潰されるのは不愉快だ。『魔力転用』スキルで防御力をアップさせるとするか」」」」」」」」
そしてヤマタノオロチのⅯPがゼロになり、防御力が145兆に跳ね上がった。
え? ナンでそんなコトが分かるんだって?
そりゃ鑑定を常時発動させてるからだよ。
ちなみに、普通ならそんなコトしない。
やる意味がないから。
でもヤマタノオロチは『魔力転用』のスキルを持っている。
だから攻撃力と防御力のドッチをアップさせるのか?
それを見極める為に、鑑定を常時発動させてたワケだ。
話を戻そう。
ヤマタノオロチの防御力は、145兆に爆上がりした。
でも俺の実質的攻撃力は180兆近い。
つまり、まだ俺の攻撃はヤマタノオロチに通用するハズ。
だから俺は。
「おりゃっ!」
再び自在疾走で空を駆けて正拳突き。
ヤマタノオロチの頭を粉砕した。
またもや再生するが、永久に再生するコトは出来ないハズ。
そこまで我慢くらべをするか?
あるいは8つの首全部を1度に砕くコトができたら倒せるだろうか?
とにかくやれるコトを諦めずにやるしかない。
迷ってる暇なんか無いのだから。
しかしヤマタノオロチに攻撃が通用するのは俺だけ。
モカが攻撃してもダメージを与えられないだろう。
いや、それより怖いのはモカが攻撃対象になるコト。
だから俺は。
「モカ。攻撃は俺に任せて、どうやって逃げるかに集中するんだ」
そうモカに言い聞かす。
そしてモカが。
「う、うん」
シブシブといった顔で頷くのを確認してから攻撃を再開する。
いや、しようと思ったトコで。
「な!?」
ヤマタノオロチの防御力が275兆に跳ね上がるのを見てフリーズする。
そんな俺に。
「「「「「「「「どうした? まさか重ね掛けが出来ないとでも思ったか?」」」」」」」」
ヤマタノオロチが満足そうな声で語り掛けてきた。
「「「「「「「「スキル『魔力転用』は5回までなら重ね掛けが可能。効果は30分しか持たないが、ゴミ掃除には十分な時間であろう」」」」」」」」
「く……」
俺はヤマタノオロチの言葉に唇を噛むが、反論できない。
5回の重ね掛け。
それは防御力が675兆までアップするコトを意味する。
つまり、俺の攻撃力じゃ、ダメージを与えるコトは不可能だ。
という状況の中、ヤマタノオロチの声が轟く。
「「「「「「「「む? どうしたのだ? まだ2回しか『魔力転用』を重ね掛けしていないのだから、ひょとしたら、まだ我にダメージを与える事が出来るかもしれぬ。どうした、攻撃してこないのか?」」」」」」」」
そう言っている間にも、また防御力が130兆、上がった。
なにしろヤマタノオロチは『HP・ⅯP超高速回復』のスキルも持っている。
つまりたった10秒でⅯPは全回復。
防御力を130兆アップできる。
「「「「「「「「ふん、どうしたのだ? 攻撃の手が止まったぞ? この程度で心が折れたのか?」」」」」」」」
ヤマタノオロチが俺をあざ笑う間に、また10秒が経過。
またしてもヤマタノオロチの防御力は130兆、上がる。
そして更に10秒が経過、ヤマタノオロチの防御力は675兆となった。
しかしヤマタノオロチは、まだ動かない。
「「「「「「「「では引き続き、スキル『魔力転用』によって、攻撃力をアップさせるとするか」」」」」」」」
攻撃力も最大限までアップさせる気らしい。
『魔力転用』で攻撃力を上げ、魔力が回復するまで10秒待つ。
そして10秒後、また攻撃力をアップさせて、ふたたび魔力回復。
それを5回、繰り返すと。
「「「「「「「「待たせたな、無謀な挑戦者よ。ここまで攻撃力と防御力を上げる必要はなかったかもしれないが、故郷に『窮鼠猫を嚙む』という諺があった。『獅子はネズミを狩るにも全力を尽くす』ともな。だから我は油断もしなければ、手も抜かぬ。全身全霊を持って、お前達を滅ぼす」」」」」」」」
ヤマタノオロチは、そう言って俺とモカに目を向けた。
675兆の防御力は、俺のあらゆる攻撃を楽々と跳ね返すだろう。
そして680兆の攻撃力。
これを食らったら俺は、蟻のように簡単にプチっと潰されてしまうだろう。
もう戦いじゃない。
ヤマタノオロチにとって、ゴミ掃除でしかないハズ。
それはモカも分かってるようだ。
「ロックにぃ……」
逃れられない死を目の前にして、俺の手をギュッと握っている。
「ロックにぃ、最後の瞬間までウチの手、放さんとってな」
モカの、死を覚悟した言葉が耳に痛い。
竜宮城をクリアして慢心してた。
もう世界最強になった気でいた。
まさかヤマタノオロチが、ここまで強敵だったとは……。
もっと強くなってから挑むんだった……。
「くそ」
俺の呟きに。
「「「「「「「「では死ぬが良い」」」」」」」」
ヤマタノオロチの声が重なった。
2023 オオネ サクヤⒸ




